52話 帰るべき場所
危うく1ヶ月更新停止になるところでした、こんばんは←汗
本当は15日に間に合わせるはずだったのだけど、間に合っていませんね←汗
次回からはもう少し安定して更新したいです。
「──さて、そろそろ帰るか」
お茶を啜りながら焦炎王は言った。
その対面側に座っている氷結王は「ようやくか」と呟きながら茶を啜っていた。
氷結王の呟きは焦炎王の耳には当然届いていて、「クソジジイには言うておらん」と言い返していた。が、当の氷結王は黙って茶を啜るだけ。
そんな氷結王の姿に焦炎王のこめかみに青筋が浮かぶも、氷結王は顔を背けて知らんぷり。その対応に焦炎王の表情が大いに引きつるも、やはり氷結王はこれと言った反応は示さず、茶を啜るだけ。
ついには焦炎王がため息混じりに「クソジジイめが」と舌打ちをして黙った。ふたりの竜王のやり取りを近くで眺めていたレンにとっては、気が気でない状況だったが、どうにか無事に終わりそうで一息を吐けそうだった。険悪な雰囲気に関してはもう気にしないことにした。いや、そうしておかないとこっちの気がどうにかなってしまいそうだった。
「お帰りですか、焦炎王様?」
アンリとともに洗い物をしていたタマモが、焦炎王に声を掛けると、焦炎王はまぶたを細めてタマモを見つめると、名残惜しむように「うむ」と頷いた。
「もう少しばかりゆっくりとしていたいところだが、いつまで離れているわけにはいかぬのでな」
湯呑みをテーブルに置き、焦炎王は立ち上がった。レンも合わせて立ち上がった。レンとしてはもう少しゆっくりとしていたいところだが、まだ修行が終わっていないことを考えると、いつまで油を売っているわけにはいかなかった。
「レンさんも戻られちゃうんですか?」
焦炎王に合わせて立ち上がったレンを見て、タマモは肩をわずかに落としていた。レンがまた旅立ってしまうことを残念がっているようだ。ありがたいと思う反面、申し訳なくもある。
せっかく「フィオーレ」が全員揃ったというのに、また離れ離れというのはレンとて少し辛いし、このまま「フィオーレ」の本拠地で過ごしていたいという気持ちはある。
だが、タマモの成長を目の当たりにしたら、このままではいられないという気持ちが沸き起こっていた。
タマモが手に入れたのはスキルと魔法をひとつずつ。
だが、ひとつずつのスキルと魔法であっても、タマモが強くなったことは変わらない。
いままでタマモの実力は正直大したことがなかった。
正確に言えば、かなり尖った能力だった。はまれば強いが、はまらなければあっさりと負けてしまう。それこそゲームを始めたばかりのプレイヤーに負けてしまうこともありえる。
なにせ素のステータス自体が低すぎるのだから、ステータスがものを言うような状況下になったら、ローズとの一戦のときのような状況下に陥れば、それだけで詰むほどにタマモは弱い。
逆にスキルや武術がものを言うような状況になれば、「尻尾操作」などの専用スキルや「絶対防御」、「急所突き」などの強力な武術がものを言う状況下であればレンとてそう簡単に勝てるとは言えない。
事実バルドやガルドといった、ベータテスターの中でも上位のプレイヤーに打ち勝っているのだから、力を発揮できる状況下になれば、タマモに勝つというのはなかなかに難しいことだった。
いわば、いまのタマモは特殊なスキルや強力な武術に特化したプレイヤー──スペシャリストだ。どんな状況下でも実力を発揮できるオールラウンダーが理想ではあるが、スペシャリストが必ずしもオールラウンダーに劣るというわけではない。
むしろオールラウンダーに打ち勝つのはタマモのようなスペシャリストである。もっともスペシャリストを返り討ちにするオールラウンダーもいるわけなので、一概にもスペシャリストが勝つとは言えないわけだが。
とにかく、現状では一点特化型のタマモがより長所を磨いたのだ。しかもレンでは手も足も出なかった焦炎王にダメージを与えられるほどに成長したのだ。
(「男子、三日会わざれば刮目して見よ」と言うけれど、タマちゃんの場合はまさにそれか。まぁ、タマちゃんは女の子だから男子とは言えんけど、その言葉がぴったりと来るほどにタマちゃんの成長速度はすごいよな)
もしまた「武闘大会」が行われれば、前回よりも活躍できるだろう。それこそ、前回のクラン部門で優勝を果たした「三空」ともそれなりに戦えるかもしれない。ワンチャンスがあれば、大打撃を与えられる可能性とてある。
そんなタマモとは違い、レンはまだ成長というほどに成長してはいない。
レベルアップに加え、称号が増えて多少強化はされた。だが、タマモの成長と比べた場合、見劣りする程度でしかない。
もともとの能力値に差はあるのだから、いくら成長したところで差が埋まったというわけではない。
しかしいくら差があると言っても、この差がずっと続くわけではないのだ。
むしろこの差はいずれ埋まる。
いや、今回のことがその差が埋められる第一歩と考えると、うかうかとしてはいられなかった。悠長にしている間に、あっという間に立場が逆転する可能性がある。
いや、いつかは立場が逆転するだろう。
タマモを見ていると、いつか自身を超えていくと思えるのだ。
だが、それはあくまでもいつかだ。
いますぐではない。
それにそう簡単に乗り越えられては、いままで積み重ねてきた鍛練の日々がまるで意味のないものにとなってしまう。
いつかは乗り越えられてしまうとしても、そのいつかを遅れさせることはできる。いや、遅れさせるべきだった。
でなければ、いままでの鍛練の日々が色褪せてしまう。そうなったら、もう兄テンゼンに顔向けはできないし、兄を超えるなんて言えるわけもない。
だからこそ、簡単に乗り越えられるわけにはいかない。言うなれば、レンの意地だ。その意地を貫き通すことがいまのレンのするべきことだ。
特にタマモを通して成長の証を表示されたのであれば、なおさらである。
(タマちゃんが言っていた「炎焦剣」はきっと修行を超えたら、取得できるようになるんだろうな。タマちゃんが使った「結氷拳」の対になるスキルだろうし)
タマモの使った「結氷拳」は、ステータス依存のスキルということ。ならば名前からして対になるはずの「炎焦剣」もステータス依存のスキルだろう。
「三尾」を用いたタマモの「結氷拳」はオーバーキルの一撃だが、これ以上とない切り札であることは間違いない。
あれほどのスキルを得るためならば、いまは意地を張るしかない。いや、意地を張って得られるのであれば破格と言ってもいい。ならば意地のひとつやふたつは張るべきだろう。
「……残りたいけど、タマちゃんばかりに頑張らせるわけにはいかないからね。俺も強くなって帰ってくるから、それまで「フィオーレ」をお願いするよ」
「……わかりました。レンさんが戻られるまでヒナギクさんとふたりで」
「アンリも!アンリもいますよ!」
元気よく飛び跳ねながらアピールをするアンリ。そのアピールは見た目と相まって非常に愛らしかった。アンリを見やるタマモの目は、とても穏やかだった。
「そうですね。ボクとヒナギクさん、そしてアンリさんの3人で「フィオーレ」を支えます。だから遠慮なく行って来てください」
タマモは背中を押してくれた。アンリも「お任せください」とみずからの胸を叩いている。残るヒナギクはレンをじっと見つめていたが、すぐにため息を吐くと言った。
「……いまさら止めやしないから。好きにやって来なよ。疲れたらまた帰ってくればいいし」
ヒナギクは淡々と言った。あまりの淡々さにタマモとアンリが困惑しているが、レンにはいまのヒナギクの言葉がこれ以上とないエールに聞こえていた。
(できる限りのことをやってこい。限界近くになったら、また話を聞いてあげるってことだよな。本当に素直じゃない言い方だな)
ヒナギクの言葉はつまるところ、やれるところまでやってこいということ。ただ無理をしそうになったら、また心を休めに戻ってこいということだった。
素直じゃないヒナギクらしい言い方だったが、それがヒナギクなりの精一杯のエールであることは、幼馴染みであるレンには誰よりも理解できた。
「うん。行ってくる」
だからレンも言葉少なめに答えた。ヒナギクは目を閉じて笑いながら「そう」とだけ言った。その笑顔は昔から変わらないヒナギクらしいもの。レンにとって帰るべき場所を示すもの。その笑顔を眺めて、できる限り頑張ろうと。ヒナギクに心配を掛けない程度にできる限り頑張ろうとレンは思うのだった。
その後、レンは焦炎王とともに「フィオーレ」の本拠地を離れ、修行場所である地底火山にと戻った。地底火山を離れるときとは違い、胸の奥が温かくなっているのを感じながら、再び修行の日々にレンは戻っていった。
続きはできるだけ早く更新しようと思います←汗




