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51話 苦労人なレン

5日ぶりの更新となりました←汗

なかなか更新が安定しないですね←ため息

カッカッカッカとすごい勢いでふたつの箸が動き、皿の上にあるキャベベ炒めが消えていく。


お茶碗を片手に、次々にとキャベベ炒めと白米が口の中にと放り込まれては咀嚼されていく。


それだけを見るとよほどお腹が空いていたのだろうかと思える光景ではあるのだが、実際のところはお腹が空いているというわけではなく、ただ単に張り合っているだけなのが、なんとも言えない。


「「おかわりじゃ!」」


焦炎王と氷結王がそれぞれにお茶碗を突き出していた。それもほぼ同時にである。加えてお互いをキッとにらみ合っていた。


「おまえにだけは絶対に負けない!」とそれぞれの顔に書いてあるのだが、その張り合いの内容が食事量とその際の速さというのがなんとも言えない。


正直な話をさせてもらうとすれば、「あんたら子供かよ」とレンは言いたかった。


だが、下手なことを言うと怒られる気がしてならないため、レンはあえてなにも言わずに、ヒナギクが用意してくれていたお茶を啜っていた。


「……はい、どうぞ」


「すまぬのぅ、タマモや」


「本当にこのくそジジイがすまんな」


「それはこっちのセリフじゃ、若作り!」


「黙れ、くたばりぞこない!」


額を付き合わせ唸り合う焦炎王と氷結王。そんなふたりを前にして、タマモは疲れたようにため息を吐いていた。ため息を吐きながら、タマモは「もうご飯はありませんからねぇ」と言っている。


だが、ふたりの耳には届いているのか、届いていないのか。ふたりはふたたび箸を高速で動かしていた。


「あれ、絶対に聞いていないよな?」


「……聞こえていたら奇跡だよ」


「お兄様にもう少し用立てて貰うしかないですね。でも値段交渉しないと……むぅ」


レンとヒナギクはお茶を啜りながら、ふたりの竜王の食べっぷりに呆れているが、アンリは頭を痛そうに押さえながらそろばんを弾いている。


ふたりの竜王の食欲のおかげで米の在庫に問題が生じているようであり、困ったように頭を掻いていた。


だが、そんなアンリの嘆きはやはりふたりの竜王の耳には届いていないようで、ふたりはまた同時にお茶碗を突き出した。


「……おかわりはおしまいですよ」


「なぜじゃ?」


「まだ食べ終わっておらんのだが?」


「もうご飯がないからですよぉ!」


タマモはお釜をふたりに見えるようにして突き出す。お釜の中はご飯一粒もなく、きれいさっぱりになくなっていた。


「今日の朝にアンリさんのお兄さんに用立ててもらってばかりなのに!これじゃあまた明日も行かないとダメなのですよ!」


タマモは「うがあー」と叫んでいた。タマモの剣幕に焦炎王と氷結王は、揃って顔を反らした。ふたりとも表情が青いのは、決して食べ過ぎだというわけではないだろう。


「いや、だって、のぅ」


「我は悪くないもん」


「貴様!ひとりだけ!」


「うるさいわい!怒られたくないんじゃもん!」


「そんなの我とて同じじゃわい!」


焦炎王と氷結王はそれぞれに涙目になって叫んだ。どうやらタマモに怒られるのが相当に嫌なのだろうが、怒られるようなことをそもそもしなければいいだけなのだが、張り合いすぎてそのことをまるっと忘れていたのだろう。


(本当に子供みたいたなぁ)


レンは焦炎王と氷結王のやりとりを眺めながら、しみじみと思う。とはいえ、レンとてさっきほどのタマモの一撃を二度も食らいたくはないため、ふたりの怯えようも納得できるのだ。ただそれにしてはいくらか怯えすぎているようにも思えるのだが、そのあたりのことはいまひとつレンにはわからない。


わからないが、ふたりの竜王とタマモのやりとりはまるで親子のように思えてならない。もっとも親子というには逆だろう。むしろ親子というのであれば、奔放すぎる両親に翻弄される娘という方が正しいだろうか。


どちらにせよ、竜王という存在がどうにも霞んでしまうのは否めない。むしろ竜王(笑)と言った方がいいのではないかとさえレンには思えていた。むろん決して口にはできないことではあるのだが。その口にできないことを想像しつつ、レンは再びお説教を始めたタマモとその前でお互いに罪を擦り付けようとするふたりの竜王をぼんやりと眺めていた。


その後、「もうおかわりはおしまいです!」と再度言いきったタマモの剣幕に、ふたりの竜王は肩を落としてしょんぼりとしながら食事をしていく。それまでの圧倒的な速さはどこに行ったのかと言いたくなるほどに、ふたりはとてもゆっくりと食べ進めていき──。


「──ふぅ、馳走になった」


──皿の上からキャベベ炒めが消えると、ぽんぽんとお腹を撫でて満足そうに焦炎王は笑っていた。


そんな焦炎王に氷結王は「行儀が悪いぞ」と言ったが、その氷結王もお腹を撫でているため大して変わらない。


「お粗末様です。……アンリさん、明日また里に行きましょうか」


「はい、そうですね。お金の工面もしないといけませんけど」


「あぁ、そのこともありますねぇ。まぁ、お金に関してはどうにかしますからいいですけど」


「でもこの調子ですと」


「……たしかにそうですねぇ。どうしたものやら」


やれやれとため息を吐き合うタマモとアンリ。そのやりとりはまるで食事どころを経営する若夫婦のようなやりとりだった。


そのやりとりが頭上で交わされているためか、ふたりの竜王は揃ってビクッと肩を震わせていた。震わせながらお互いに「おまえのせいだぞ!」と言い合っているようだった。それもお互いに引く気はなさそうである。助け船を出すしかないようだとレンは思った。


「……とりあえず助け船を出してくるよ」


「お疲れー」


ひらひらと手を振るヒナギク。「手伝ってくれよ」と思いつつも、レンはため息交じりに焦炎王の元へと向かうのだった。

次回はできるだけ早く更新したいですね

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