3話 ガチャと初期設定
本日四話目です。
2019/1/19 ステータス項目に「INT」が抜けていたので、追加しました←汗
「「エターナルカイザーオンライン」の世界にようこそ」
まりもは聞いたことのない声とともに目を醒ました。
まず目に飛び込んできたのは、真っ白な壁だった。
おそらくは初期部屋とも呼ばれる初期設定専用の空間だった。
先日までプレイしていたゲームも最初はこういう部屋で目覚めたので、おそらくは間違いない。間違いないはずなのだが──。
「……「祝一万人目」、ですか?」
部屋の壁になにやら垂れ幕が掛かっていた。その垂れ幕にはまりもが口にした「祝一万人目」という言葉が書かれていた。
「おめでとうございます。あなたはちょうど一万人目にログインしたプレイヤーとなりました」
「……あなたはナビアバターさんです?」
「これを記念して運営より特別アバターを進呈いたします」
「……うん、ナビアバター確定ですね」
この手のゲームにつきものであるナビアバター。
基本的にプログラミングされたことしか話さないため、こっちがなにを言っても無視されてしまう。
無視はされるが口にしたことはすべて運営が聞いていることもあり、あまりご無体なことは言えない。
下手なことを言って、運営アバターが登場するなんてことはごめんこうむりたい。
「とりあえず、その特別なアバターとやらを見せてほしいです」
「了解いたしました。それでは、こちらが特別アバター「金毛の妖狐」となります」
ナビアバターが手を動かすと目の前の空間に特別アバターの姿と簡単なプロフィールに初期ステータスが表示された。
「えっと、種族は獣人。獣人は完全な物理アタッカー。ただし狐と狸の獣人は例外的に魔術を得意とするオールラウンダーとなる、か」
表示された種族特性は悪くないものだった。物理アタッカーの獣人の能力に加えて、狐ゆえに魔術も使える。いわばRPGで言う勇者タイプの特性のようだ。
「ふぅむ。勇者ですかぁ~」
これまた厨二心をくすぐってくれるワードである。ただしその見た目とステータスが大問題ではあるが。
「ステータス低くないですか、これ?」
表示されたステータスは軒並み低い。というか、戦えそうにないステータスだった。
名前 なし
種族 金毛の妖狐(獣人)
HP 50
MP 50
STR 2
VIT 2
DEX 2
AGI 3
INT 3
MEN 3
LUC 1
Skill なし
HPとMPを含めないステータスの総合値がまさかの13だった。
特にLUCの1はなんのいじめだろうかと思えるほどの低数値。
これで特別アバターとは笑わせてくれる。草しか生えないというのはまさにこのことだ。
しかもトドメとばかりに見ためが見ためだった。
「……なんですでにリアルのボクそのものなんですかぁっ!?」
正確にはわずかな差異はある。耳は頭の上にピンと立っているし、背中には三本の尻尾が生えていた。
そして耳と尻尾、そして髪の毛は種族名の通り金色の毛になっている。
それ以外はいわゆるロリ体型であり、つまるところ現実のまりもそのものだった。
この前までプレイしていたゲームでは少し体型を弄って身長を高くしていたが、この特別アバターの場合はすでに弄ることができそうにない。そもそもこのゲームでは体型を弄れるのかもわからなかった。
「お客様のパーソナルデータを元に作成いたしました」
「でしょうね!? というか、そんなことじゃなく、なんでこんな低ステータスで」
ナビアバターはわかりきったことを言ってくれたが、そんなことはもうどうでもいい。
見た目はもうこの際だ、致し方がない。
しかしこの低ステータスはなんとしたことだろうか?
こんな低ステータスでは序盤に出て来るモンスターにも負けてしまうのではなかろうか?
だというのに、これが特別アバターとはとてもではないが思えなかった。
「「金毛の妖狐」は初期ステータスがどれも最低ですが、最終的なステータスは他の追従を許さないものとなります」
「……つまり大器晩成型ですか?」
「その通りです。初期を乗り越えられれば最強となることも夢ではありません」
「……最強、ですかぁ」
厨二心をまたもやくすぐるものだ。最初は大変かもしれないが、最終的には最強である。
その最初期がどれほど大変なのかがわかれば、このアバターを選ぶかどうかが決まるのだが、特別、勇者、そして最強。その三つのワードの魅力にまりもは抗えなかった。
「……わかりました。アバターはこれを使います」
「承知いたしました。では続いてプレイヤーネームを」
「あ、それはもう決まっています。「タマモ」でお願いします」
昔からまりもはゲームの主人公の名前を「タマモ」にしていた。
本名が「玉森まりも」であり、どう略しても「タマモ」となるためだ。
子供の頃はそれが嫌ではあったが小学校を卒業するころにはもう吹っ切れてしまい、自分から「タマモ」とつけるようになったのである。
加えてもし莉亜がプレイしているのであれば、「タマモ」というプレイヤーネームで自分を見つけてくれるかもしれないとも考えたためだ。
もっとも莉亜の場合はいつも「アリア」にするのでこちらもすぐにわかる。
「承知いたしました。……認証終了。これよりお客様のプレイヤーネームは「タマモ」と設定いたしました。では最後になりますが、エターナルカイザーの取得に移らせていただきます」
そう言ってナビアバターはなにやらコインを手渡してきた。
「……これは?」
「エターナルカイザーの抽選のための専用コインとなります」
「あー、そう言えば最初にガチャをするんでしたっけ?」
「EKO」も昨今のゲーム事情を踏襲しており、初期部屋内でのみガチャを行うことができる。
ランクは星1のコモンから星6のアルティメットレアまで存在していた。
初回は専用コインを無料で引くことができる。
しかし二回目からは課金で追加していくという形になるそうだ。
ゲーム雑誌での特集記事によるとUR当選確率は1パーセント以下であり、なんと特集記事内でもURランクを引くことができなかったとされていた。
ゆえに1パーセント以下というのはおおよその数値であり、実際には10,000分の1以下ではないかと書かれていた。
ただし「出るまで課金する」という方法は使えず、ガチャを引けるのは最初の無料分と追加分も合わせて五回のみ。
特集記事はプレリリース版でのものであるため、無料で何度も引けたそうだが、正式リリース版の今回は追加分も含めて五回だけ。追加分は一回につき五百円の課金となる。
「この時代になかなか攻めたことをしますよねぇ」
ガチャが横行する時代に、課金要素をできるかぎり薄めるというのはなかなかできたものではない。もっともこの時点で運営はだいぶ儲かっているだろうが。
二万円使ってSSRを入手できないプレイヤーが四割弱いるというゲームもあるのだ。
そのゲームを元に考えてみれば、四割のプレイヤーが課金をしたとする。
現時点では一万人のプレイヤーがいるのだから、四千人ほどが四回分の追加、二千円の課金をしたとしたら、四千人×二千円で八百万円の儲けがすでに出ていることになる。
実際はだいぶ上下するだろうが、これからもプレイヤー人口が増えるとなると、それ以上に儲けは出る。加えて課金アイテムも随時追加するだろう。そのあたりは運営のさじ加減になるが、ある程度の儲けが出るであろうことは間違いなかった。
「まぁ、とりあえず、ボクはボクで早速ガチャをしてみましょうか。どうやって遣うんですか?」
「目の前を見てください」
「目の前? って、いつのまに」
まりもの目の前には「抽選を開始しますか?」というウインドウが表示されていた。
まりもが「YES」を選択すると手の中にあったコインは瞬く間に消えてなくなった。
同時に真っ白だった部屋の中を虹色の光が覆っていく。とてもきれいだが、すごく眩しい。
「こ、この色は?」
「おめでとうございます。最高ランクのエターナルカイザーの確定演出が入りました」
「え、ま、マジですか!?」
まさかの一発、しかも無課金での最高ランク確定である。
まりもは思わず呆然となった。呆然となりながら、体の奥から沸き起こる衝動を感じた。
「こ、これはボクの時代が来たのですよ!」
リアルでも運は悪いが、まさか最高ランクを手にすることになるとは。これはまさに時代が来たのだとしか言いようがなかった。
まりもは胸を高鳴らせながら、演出の終わりを待った。
やがて虹色の光が止むと頭上から虹色に輝くチケットがまりもの手の中に落ちてきた。
「これがエターナルカイザーです?」
チケットにはご丁寧なことに「タマモ」というネームが入っていた。
おそらくは強奪阻止用だろうが、これがエターナルカイザーなのは肩透かしだった。
「いえ、そちらは引換券となります」
「引換券ですか?」
「初期設定時においては、すべてのお客様は引換券を抽選していただき、ゲーム内で引換券からエターナルカイザーを手に入れていただくという形になります。その際の見た目と性能はランダムに選ばれます」
「なかなか運要素が高いですねぇ」
まりものように最高ランクのEKであれば、見た目と性能も勝利が約束されたようなものだろうが、これがコモンランクであれば、それこそ鍋の蓋とかヒノキの棒もありえただろう。
まぁ、そうなったらなったでキャラを再作成すればいいだけの話だ。
再作成すればまたガチャは引き直すことができる。
ただしその際には最初から追加で課金ということになるらしいが、まりもには関係のない話だった。
「最終的に最強となれるアバターに最高ランクのエターナルカイザー。ふふふ、これは勝つる。勝つるのですよぉ!」
プレイする前の鬱蒼さはすでになくなっていた。まりもには輝かしい未来だけが見えていた。
「それではこれにて初期設定を終了させていただきます。エターナルカイザーオンラインをお楽しみくださいませ」
ナビアバターが一礼すると同時にまた光が起こった。
眩い光を見やりながら、まりもは輝かしい未来への期待で胸を一杯にしていた。
しかし一時間後その輝かしい未来が脆くも崩れ去ることをまだまりもは知らなかった。
一日目は終了です。
二日目は今夜十二時から開始となります。