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48話 ヒナギクとの時間

遅くなりました←

「──というわけで、タマちゃんはスッゴくパワーアップしたわけ」


ヒナギクは人差し指を向けながら説明を終えた。


タマモが放った青白い竜巻の正体は、その竜巻を直撃した氷結王から直伝された「古武術」だということ。


「「古武術」ってそういうものじゃなくね?」とレンは思うが、実際タマモは「古武術「結氷拳 」」を取得したことで大きく力を上げたようだった。


ただヒナギクが言うには、タマモ単体ではせいぜい保冷剤を前に置いた扇風機程度の威力しかないようだ。暑苦しい夏の夜には重宝するだろうが、こと戦闘においては切り札にはなりえないものということだった。


だが、それはあくまでもタマモ単体ではの話。タマモが焦炎王たちに放ったとき、タマモの右腕には「三尾」が巻き付いていた。「三尾」が腕に巻き付いた状態であれば、さきほどのように青白い巨大な竜巻となるようである。


というのもヒナギク曰く、タマモが取得した「結氷拳」はステータス依存のスキルのようで、タマモ単体のステータスは最低レベルなため、タマモだけで使えば当然威力も最低レベルとなる。


だが、タマモには「三尾」というタマモの20倍ものステータスを誇るチート武器がある。いや、チート部位という方が正しいだろうか。その「三尾」とともに放った場合、「結氷拳」の威力は想像を絶するものと化すようである。


加えてまだタマモも試していないようだが、「禁術「氷結魔法」」なる「結氷拳」よりもヤバいスキルも取得してしまったようだ。


タマモも氷結王から「使いどころは見極めんと危険だからのぅ」と忠告されているとヒナギクに話しているそうで、「氷結魔法」に関してはまだ試し撃ちもしていないとのことだった。


ただ「結氷拳」同様にステータス依存のスキルのようだから、おいそれと漬かっても問題はなさそうなキモスルのだが、タマモ曰く「嫌な予感がするのです」とのことで、まだ取得してから一度も行使していないとのこだ。


あと「結氷拳」に関しては、氷結王自身から定期的に使うことを勧められているらしく、そしてその標的役が氷結王になっているようだ。ちなみに氷結王を標的役にしているのは、氷結王自身の意思によるという話だった。


なぜそこまでするのかはいまひとつレンには理解できないが、少なくとも氷結王に「結氷拳」を放つのはタマモはすっかりと手慣れてしまっているようだ。


でなければ、タマモはああもあっさりと無差別破壊攻撃をぶっ放すことはない。……手慣れているとはいえ、あんなあからさまなオーバーキルな一撃なんて放つなよと言いたくなるが、そのオーバーキルな一撃を食らった焦炎王と氷結王は目を回しただけだで、これと言って怪我を負ってはいないようだった。


「三尾」ありの「結氷拳」を以てしても、焦炎王たちを傷つけること自体が敵わないということなのだろう。


改めて「四竜王」という存在がどれほどのものなのかの片鱗をレンは感じた。


ちなみにその「四竜王」のうちのふたりはと言うと──。


「……クソジジイのせいで」


「……こっちのセリフじゃ」


──揃ってタマモの前で正座をさせられていた。正座をしつつも後ろ手でお互いの脚やお腹をつねっているようだ。無論タマモには見えないようにしてだが。そう、正面にいるタマモには見えない。しかしふたりは伏兵の存在を忘れている。


「あ、旦那様。焦炎王様も氷結王様もお互いの体を旦那様から見えないようにつねられていますよ!」


「こ、これ、アンリや!」


「余計なことは言わずとも」


「おふたりとも、お顔を向けるのはそちらではないですよ?」


そう、伏兵たるアンリが逐一タマモに報告していた。そのアンリの言葉に焦炎王も氷結王も慌てていたが、そんなふたりに釘を刺す一言を向けるタマモ。


そんなタマモの言葉にビクンと体を震わせて、目の前にいるタマモを恐る恐ると見上げる焦炎王と氷結王。


ふたりの前にいるタマモは、ニコニコと笑っているが、こめかみにはっきりと血管が浮き出ており、明らかに怒っていた。


喧嘩両成敗とタマモは言っていたが、それだけではなさそうだった。ほかになにかしらの事情があるようにレンには思えていた。


「……実はアンリちゃんとお家デートみたくのんびりするはずだったんだけど、焦炎王様だけじゃなく、氷結王様も来られて騒いじゃったから、タマちゃんちょっと不機嫌みたいで」


レンの耳元でぼそぼそと事情という名の理由を話すヒナギク。たしかにそういう理由があるのであれば、タマモが少し不機嫌になるのもわかる。


ただタマモはアンリを嫁として認めているわけではないという話も聞いていた。


もっともヒナギクが言うには「時間の問題」というくらいには、タマモはアンリを大切にしているようだった。


とはいえ、アンリの存在がどういうものであるのかを踏まえたら、最終的には悲劇しか待っていないわけなのだが、それでもアンリを憎からず想ってしまほうどにタマモは、アンリにのめり込みつつあるようだった。


「……お似合いだとは思うけど、ね」


ヒナギクはどこか辛そうな顔をしていた。それはレンもまた同じ意見ではあるのだが、こればかりは本人の意思一つであり、レンやヒナギクがどうこういう問題ではなかった。


「タマちゃんもいろいろとあったんだな」


「そうみたい。それであんたは?」


「俺?」


「そう。焦炎王様、とはどうやって知り合ったの?」


「……あぁ」


レンはタマモを見やりながら、ややぼんやりとした様子で頷いた。


タマモに関して思うことはあるけど、いまはどうしようもないし、タマモのお怒りも収まりそうにない。ならば、わずかな時間だけアルトを出てからのことを話すのも悪くはない。そう思いながら、レンはアルトを出てからのことをかいつまんで話すことにした。

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