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46話 再会する兄妹

しんみりとするはずだったのに、サブタイのふたりのお陰でしんみりではなくなりました←しみじみ

「──ふぅ、堪能した」


「ボクも堪能したのです」


時間にして数十分ほどか、焦炎王とタマモはそれぞれに「堪能した」とやけにつやつやとした顔で言い切っていた。


お互いの「堪能した」という内容は異なれど、それぞれに満足したであろうことは変わらない。変わらないのだが、タマモはもうどうしようもないので、一万歩譲っていいとしても、焦炎王はタマモというなんちゃってロリータを頬擦りして満足していたのだ。なんとも申し訳ない気分にレンはなぜかなっていた。


とはいえ、本物のロリータを頬擦りしたら、いくらなんでも事案であるので仕方がないし、本物のロリータを頬擦りしようものならば、確実にアレのレッテルを張られることになるのは確定だろう。もっとも本物だろうとなんちゃってだろうと、初めて会った女性に対して頬擦りをすること時点で事案というか、通報ものであるのだが。


(まぁ、このふたりのことはいいか。よくないけど、いいかな)


そう、このふたりのことは問題ない。問題なのは、そのふたりの近くでいじけているアンリであった。


「うぅ~。アンリも旦那様をぎゅっとしたかったのです」


アンリは地面に「の」の字を書いていた。やや黒みがかった緑色の瞳からはハイライトが消えた、いわゆる◯◯◯目になっている。


が言っていることはみずからの欲望を包み隠さないものであるのが、なんとも言えない。


しかし同時にアンリが言っていることは無茶なことでもあった。


というのも、アンリはタマモをぎゅっとしたかったのですとか言っているが、近いことは先ほどしていたのだ。正確にはタマモを膝の上に乗せはしたのだ。


だが、そこでアンリは顔を真っ赤にしてしまったのだ。それはアンリの膝の上に乗せられていたタマモも同じである。


普段はレンをヘタレだなんだと言っておきながら、自分は自分で見事にヘタレてくれていたのだ。どの口が言ってくれていたんだとレンは思ったが、あまりに言い過ぎるとかえってやぶ蛇になりかねないと思ったため、あえてなにも言わないことにしていた。


とにかくアンリは「自分もしたかった」とは言っているが、実のところはなにもできなかったのである。そんな事実があるため、アンリがどうこう言うのはお門違いとしか言いようがないのだ。


ただそれはアンリ自身理解していることだろうが、それでも言わずにはいられないのだろう。いわば複雑なオトメゴコロというものである。


そんなオトメゴコロを発揮しているアンリとあえてアンリを見ないようにしているのか、わざとらしくニコニコと笑うタマモら、なんというか実にお似合いのようにレンには思えていた。


だが、問題はある。それはアンリがNPCということだ。もっと言えばこのゲームの中のデータ上の1キャラクターでしかないということである。


つまりは、どんなにお似合いであっても、いつかは永遠の別れが訪れるということ。サービス終了というどうしようもない別れが、いつかふたりには訪れるということだった。


それゆえにだろうか、タマモはあえてアンリとの仲を深めないでいるような雰囲気がある。そしてそのことをアンリもまた気づいている。気づいているが、それでもいいというように振る舞っている。そんなふたりを見てレンはなんとも物悲しい気分になっていた。


「今後も定期的にタマモの頭を撫でに来ようかのぅ」


「ボクとしては構いませんよ。でもいくらかやることもあるので、常にここにはいるわけではありませんが」


「そうなのか?」


「はい。実はあるお方の料理番をしているのですよ。その関係で時折ここにいないことがありますので」


「ということはタマモを我の料理番にすれば、タマモは定期的に来てくれるということかの?」


「え?ま、まぁ、そうですけど」


「ふむ。となれば話は早い!」


焦炎王はニコニコと笑いつつ、タマモの頭にポンと手を置いた。なにをしているんだろうとレンは思ったが、続くタマモの発言でその理由がわかった。


「……なんか「焦炎王の料理番」なる称号が追加されたんですけど?」


タマモは困惑していた。


だが、無理もない。レンもまた困惑しているのだから。いや、困惑せずにはいられなかった。


「なにしているんですか、焦炎王様!?」


レンはたまらず叫んだ。しかし当の焦炎王はどこ吹く風である。


「我はタマモを気に入った。ゆえに寵愛の証として我の料理番を任せた。それだけのことである!」


胸を張りながら言い切る焦炎王。さも当然であるかのような振る舞いにレンは頭を抱えたくなった。


だが、どんなに頭を抱えたくなったところで、現実は決して変わらない。


「あと、なんか禁術「焦炎魔法」と古武術「炎焦剣」も取得可能になっているんですけど?」


「我が寵愛を受けるのだ。それ相応の技術は伝えて然るべきであろう?思う存分に振るうがよい!まぁ、禁術はともかく古武術の方は名前の通り剣技であるが、それはおいおい我が鍛えればすむことだ」


ふふふんと嬉しそうに胸を張る焦炎王。言っていることが規格外すぎで、なかなか言動に追い付けない。それはタマモも同じだが、苦笑いしていた。レンは苦笑いどころか頭を抱えている。むしろ頭を抱えずにはいられないのだが、タマモはこういう豪快な人物に馴れているのか、おかしそうに笑うだけである。妙なところでタマモの器の大きさに直面させられるレン。


「さぁ、それでは我が居城に向かうとしよう!たっぷりと馳走して」

「えっと、そ

うしたいのは山々なのですが、これから最初に料理番になった方の御夕食を──」


「あー、腹が減ったのぅ。タマモや、飯を食わせ──」


夕食を準備しに行くとタマモは言おうとしていた。前後の文脈からして間違いなくそう言おうとしていた。そこに薄い青い色の着流し姿の老人が現れた。「誰だろう、この人?」とレンが思ったとき、焦炎王が震える手で指を指した。


「く、クソジジイ!?なぜここにおる!?」


「それはこっちの台詞じゃ。なぜそなたがここにおるのだ、阿呆妹よ」


焦炎王を妹と老人は呼んだ。その老人の発言にタマモはなぜか納得したようにポンと手を叩いた。


「そう言えば、氷結王様の妹御は焦炎王様だと仰っていましたね。「焦炎王様」ってどこかで聞いたなぁと思っていましたけど、そういうことでしたか」


やけにすっきりとした様子でタマモは言い切った。本当にマイペースだな、この子とレンは思った。だが、どんなに責めたところで現状が好転するわけでもない。


「馴れ馴れしいわ、クソジジイ!」


「……本当におまえはどうしてそうも口が悪いのか」


「黙れ、クソジジイ!」


「黙ったら喋れんわ」


「うるさい!」


「やれやれ」


焦炎王は牙を剥き出しにして叫んでいるが、当の氷結王なる老人は肩を竦めるだけだった。


(カオスすぎない、この状況?)


レンは現状のカオスっぷりに頭を再び抱えた。しかし現状は変わらなかった。相変わらずのカオスっぷりが続くのだった。

ちなみに「焦炎王の料理番」関係ですが、レンが取得したものではないので、詳細は伏せますので、あしからず。

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