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45話 初々しいふたり

更新が止まってすみませんでした←汗

久方ぶりの「アルト」だった。


「フィオーレ」からは抜けているが、ログハウスはまだホームとして設定されているようだった。


焦炎王が言うには「転移」はホーム間を移動するためのもののようだ。


トロルの店にまで「転移」できたのは、焦炎王が勝手にトロルの店をホームのひとつにしているからのようだ。なんともマイペースな人だなぁと改めて思うレンであったが、現在レンの目の前には理解できない光景が広がっていた。


「むぅ。この毛並みなかなかであるな」


「むにゅ。お褒めいただき光栄なのですよ」


「……ぅー、羨ましいのです」


目の前にはタマモ手製の木のテーブルの一角に座る焦炎王とその膝の上にちょこんと腰かけるタマモ、そして焦炎王の隣で言葉通り羨ましそうに見つめている緑色の耳と尻尾の狐の獣人の少女がいた。


焦炎王はタマモをなんの躊躇いもなく自身の膝の上に座らせると、ノータイムでその頭を優しく撫でていた。正確には金色の立ち耳をこれでもかと言うほどに弄っていた。その顔は完全に蕩けきったものになっていて、とても幸せそうだった。


そんな焦炎王にタマモはされるがままになっていた。というのもタマモは焦炎王にもたれ掛かっているのだ。


焦炎王は普段赤いスケイルアーマーを身に付けているが、いまはそのスケイルアーマーは外しており、赤い服だけを身に付けていた。つまりは胸部をある意味晒しているようなもの。その胸部をタマモは後頭部で堪能していた。いまにも「むふぅ」と満足げな息を吐きそうなほどにタマモは表情が緩んでいた。


そんなタマモを焦炎王は愛おしげに見つめながら立ち耳を弄っていた。タマモは心地よさそうにパタパタと尻尾を振っている。その姿は中身を知らなければ実に愛らしい。だが、中身を知っているとなんとも言えない気分にさせられてしまう。


そんな焦炎王とタマモのやり取りを狐の獣人の少女は羨ましそうに見つめている。その視線は焦炎王とタマモを行ったり来たりである。


「羨ましい」がどちらの意味なのかをレンは計りかねていた。


おそらくはタマモを撫でることに対して羨ましがっているのだろうが、レンにとってみれば、どの辺りが羨ましいのかがさっぱりとわからなかった。


「だってアレ中身半分セクハラ親父じゃん」とレンは言いたかった。しかしそれを言ったところで、あの少女の耳には届きそうにはない。大きな立ち耳であるのにも関わらずだ。


「おや、アンリとやら。羨ましいのか?」


「え、あ、はい。羨ましいのです。アンリも、そのしてみたいので」


獣人の少女ことアンリはもじもじとしながら、焦炎王を見やる。すると焦炎王は喉の奥を鳴らして笑うと、アンリの膝の上にタマモを乗せた。


タマモは急に感触が異なったことで、アンリはいきなりタマモを膝の上に乗せられたことで、それぞれに「ほぇっ?」と首を傾げたが、数秒ほど経ってから状況を理解したのか、それぞれの立ち耳が真っ赤に染まった。いまにも「ぷしゅー」という湯気が立ち上ってもおかしくはないほどにだ。


そんな二人の姿に「初々しいのぅ」と微笑ましそうに焦炎王は笑う。そう、微笑ましそうに笑っているのだが、レンには邪悪に笑っているように思えてならなかった。


「……なにがどうなっているんだ、これ」


レンは現状を理解することができなかった。


そもそもなぜこうなったのやらとさえ思う。


事の起こりが、焦炎王がなぜかアルトにまで送ってくれたことだったが、その後の展開はあれよあれよであった。


本拠地に戻ってきたレンを見つけたタマモに、焦炎王はいくらか驚いた様子だった。が、驚いていたのはそこまでであり、そこから先はあっというまに事は進んだ。というか意味不明に進んでしまった。


「ふむ。とりあえず抱っこだな」


タマモを見て驚いていた焦炎王だったが、いきなり抱っこするという宣言をした後、その言葉の通りタマモを抱っこしてしまったのだ。それも目にも止まらぬ早業でである。


タマモは「ほぇ?」と目を何度も瞬かせていたが、焦炎王は構うことなくタマモに頬擦りしていた。が、そこにログハウスの裏からひょっこりとアンリが顔を出したのだ。


「旦那様?いかがなされ──」


顔を出したアンリは言葉の途中で固まった。そして──。


「だ、旦那様に頬擦りしちゃダメなのです!」


──間髪入れずに焦炎王に突撃をかましていた。焦炎王はいきなりのタックルだったが、苦にもせずにアンリもまた抱き締めた。


「ふむ。妖狐か。年齢の割にはなかなかいい体をしておるのぅ。どれ少し確かめて」


「だ、ダメです!アンリさんのお胸はボクも触ったことないのですから!」


「さん付けはせずにアンリとお呼びください、旦那様!」


焦炎王の(おそらくは)冗談を真に受けたのか、タマモは真面目に叫んだが、そのタマモの一言を受けてアンリはやや不満げにそう叫んだのだ。その後すったもんだはあったが、どうにか着席にまでこぎ着けたのだ。


(……実にカオスだった)


レンはしみじみと思うが、当のタマモとアンリは真っ赤な顔でお互いに俯いているため、こちらの声は聞こえていないようだった。


「なんか別人だなぁ」と思いつつも、「人のことをヘタレだのなんだのと言っておきながら、タマちゃんも人のこと言えなくね?」と思うレン。しかし武士の情けである。あえて言うことはしまい。


「ふふふ。実に愛らしい。そう思わぬか、レンよ」


タマモとアンリを再起不能にした張本人である焦炎王はニコニコと笑うだけであった。


「この人にはいろんな意味で勝てないなぁ」としみじみとレンは思った。


「ところでなぜここに?」


「ふふふ、無粋なことはいまは聞くな。もう少しこの初々しさを堪能させてくれ」


焦炎王は人が悪そうに笑っていた。だが、その目はとても穏やかだった。「なんだかなぁ」とレンは思いつつも、焦炎王が満足するまで初々しいというタマモとアンリの姿を眺めさせたのだった。

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