43話 衝撃と作製依頼
昨日は更新できず申し訳ないです←汗
「──一度地上に戻りたい?」
それは焦炎王の元で訓練を始めて2週間ほど経った頃のことだった。
レンは訓練を始める前に焦炎王にと「地上に一度戻りたい」と伝えた。
「なぜだ?」
「実は装備のことで」
「装備?」
焦炎王はレンを上から下まで眺めると、「ふむ」と考え込むような仕草をした。なにを考えているんだろうと思いつつも、レンはとりあえず続けた。
「はい。「ベルス」の街で防具を作ってもらうことになっていたんです。素材は手に入っていますのでそれを渡しに行こうかと」
焦炎王の元で訓練を始めて2週間。いままで訓練に集中するしかなかった。
だが、焦炎王の不思議な優しさを向けられたことで、他のことにも目が向くようになったのだ。そうして思い出したのが「ベルス」の街で装備の依頼をしていたということだった。
まだ素材をすべて渡していないため、製作はされていないだろうが、渡している皮はすでに鞣されているはずだった。
だというのに肝心要な素材をまだ渡していないのだ。
さすがにこれ以上待たせるのも忍びないため、一時的に「ベルス」の街へと戻り、素材を渡してこようと思った。
だが、訓練以外は好きにしろと言われているが、さすがに「ベルス」の街までの往復に時間が掛かるのは明白だった。そのため、一時的に地上に戻る許可を貰うことにしたのだ。
「ふむ。話はわかった。こことの往復に時間が掛かると考えたのだな?」
「はい。なので自由時間だけでは足りないかと」
「たしかにな。徒歩で地上の街とここを往復するには時間がいささか掛かる。そなたたちの活動時間で言えば、2日は掛かるだろう」
「そんなに」
時間は掛かると思っていたが、まさか2日も掛かるとは考えてもいなかった。時間制限があるわけではないが、2日も訓練から外れるとなると、少し躊躇いがあった。
「とはいえ、それはあくまでも徒歩であればの話だ」
にやりと焦炎王が笑うと、なぜか手を差し伸べてきた。なぜ手を差し伸べるのかと思いつつも、レンはその手を取った。
「NPC「焦炎王」がフレンド一覧に登録されました。今後フレンドコールでの会話が可能となりました」
するとアナウンスが流れた。焦炎王とフレンド関係になったようだった。が、なぜいきなりそうなったのかがレンにはわからなかった。
そんなレンを無視するようにして、焦炎王はレンの頭に手を置いた。
「用事が終わったら、連絡しろ。すぐに戻してやる」
「はい?」
なんのことを言っているのかがわからなかった。わからないまま、レンが首を傾げていると、「またな」と焦炎王はウインクをした。
ついドキリと胸が高鳴ったが、そのことを口にする前に焦炎王の姿は掻き消えていた。
「うん?おお、レンさんじゃねえか!」
焦炎王の姿が掻き消えると同時に目の前には、見覚えのある店とその店主がいた。
「トロル、さん?」
「なんだ、俺の顔を忘れたか?」
トロルは怪訝そうにしている。というよりも困惑しているという方が近いか。
だが、困惑しているというのであれば、レンも同じであった。
「えっと、ここって、「ベルス」ですよね?」
さっきまで焦炎王の玉座があった「地底火山」にいたはずだったのだが、いまレンがいるのはどう見ても北の第2都市「ベルス」の街のトロルの工房の前だった。
周囲には上位ドラゴンたちの姿もなければ、真っ赤に染まった岩石も煮えたぎるマグマの音も聞こえてこない。聞こえるのは空を飛ぶ鳥の声と威勢のいい呼び込みの声だった。
「……大丈夫か、レンさん?頭でも打ったのか?」
レンの問いかけに対して、トロルは本気で心配しているのか、やや慌てているようだった。
「あ、いえ、大丈夫です。なんというか、その気づいたらここにいたので」
「あぁ、それか。俺も驚いたぜ?誰かが転移してきたなぁと思っていたら、レンさんだったからな。いったいどこから転移してきたんだ?」
「転移?」
「違うのか?転移するときの魔法陣が店の前に現れたから、何事かと思ったんだが」
「あー、たぶん違わないかなと。俺もいきなり「行ってこい」と言われたんで」
「ふぅん?訳ありみたいだが、まぁ、いいや。それよりも素材の調達はできたのかい?」
「あ、はい。それに関しては」
このままいろいろと話をしたいところだが、地上に戻ってきたのは装備更新のための素材を預けに来たからである。その素材に関してもすでに手に入っているため、あとは渡すだけだった。
「そうかいそうかい。じゃあ、立ち話もなんだし、奥で見せてくれや」
「はい。あとひとつお願いしたいことが」
「うん?」
「一振り剣を打って欲しいんです。その素材も手に入ったので、そちらは別途で」
「おぅ、構わんぜ」
「ありがとうございます」
頭を下げるとトロルは笑いながら工房へと向かっていった。レンはその後を追いかけて工房へと向かうと、トロルは作業台の用意をしていた。作業台はかなり大きなものであり、会議室に置かれている長机ふたつ分はある。
「じゃあ、この台の上に置いてくれや」
「はい。では失礼しますね」
インベントリから「赤麗皮」以降に手に入れた素材を置いていくレン。クリムゾンリザードの各種素材を見て「ほぅ」とトロルは唸っていたが、「炎魂」や「闘炎牙」を見て「マジか」と固まっていた。
(これなら十分そうだな)
レンは満足感を覚えつつ、素材を出していると、ふと見知らぬ素材が入っていた。
(なんだ、「とこしえの産毛」って?)
レン自身覚えのない素材がなぜがインベントリに仕舞われていた。順番的に見ると「闘炎牙」の後のようなので、クリムゾンリザード戦以降に手に入った代物のようだった。
だが、クリムゾンリザード以降で狩ったモンスターはいない。なのになぜが「とこしえの産毛」という謎の素材アイテムが仕舞われていた。
これはいったいなんだろうと首を傾げつつも、レンはとりあえず「とこしえの産毛」もインベントリから取り出し、作業机にと置いた。
「……はっ?」
トロルが固まった。「炎魂」や「闘炎牙」を見たときも固まっていたが、いまはそれ以上に固まっていた。
「……レンさん。そいつはどこで手に入れたんだ?」
「えっと、気づいたら持っていたみたいで」
「そ、そうか。う、うん。そう、なのか」
トロルは明らかに動揺していた。それは返事だけではなく、視線があらぬ方向へと向かっている時点で明らかだ。
だが、なぜトロルはそんなにも動揺しているのかがレンにはわからなかった。
(「産毛」を見たときから動揺しているってことは、「産毛」が原因だよな?)
トロルの動揺は明らかに「産毛」にある。であれば、「産毛」を「鑑定」すればいいだけだった。レンは何気なしに「産毛」を「鑑定」した。
とこしえの産毛
レア度15 品質S
不死なる鳥王の産毛。産毛とはいえ、その偉大なる炎の力を宿している。
「……なにこれ?」
「鑑定」の結果を見て、レンは言葉を失った。そして納得した。「トロルさんも動揺するわな」と。心の底からそう思ってしまった。
「……どうしたらいいと思います?」
「……すまん、俺もわからん」
トロルは申し訳なさそうに謝った。だが、無理もない。まさかの爆弾だったのだ。わからないのも無理もない。
(レア度って10以上あるんだ)
てっきり10が最高だと思っていたが、15以上はあるようだった。
(区切りよく100が最高かなぁ)
レンは気が遠くなりそうになりながらも「道理でぽんぽんとレア度6が出てくるわけだなぁ」と思った。そう思わないと衝撃が凄すぎてやっていられなかった。
「……とりあえず、これも使ってください」
「おう」
「あと、この牙で剣をお願いします」
「わかった。「炎魂」も使わせてもらうが、構わんかね?」
「はい、問題ありません」
「そうか、わかった。全部で2週間ほど掛かると思うが、いいかい?」
「ええ、お願いします」
「おう、承ったぜ」
トロルも若干気が遠くなっているような顔をしていたが、依頼を受けたことで持ち直したようだ。もしくは現実逃避をしたのかもしれない。
だが、これで装備更新のための依頼はした。あとは出来上がるのを待つだけである。
「……どんな性能になるんだろう」
見てみたいような、見たくないような、そんななんとも言えない気分になりながらもレンはトロルの工房を後にした。
まぁ、レア度は必ずしも10が最高とは決まっていないので←




