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37話 死刑宣告のような一言

間に合わなかった←汗

「──なぜ、「死」を恐れさせたのか。わかりますか、レン殿?」


フェニックスはレンを見つめていた。赤と黄色のオッドアイは、少し前までのような瞳孔が割けているわけではなかった。


だが、瞳孔は割けていなくてもレンへと向ける視線は相変わらず鋭い。が、表情はまだ柔らかい。あくまでもレンから見れば、の話だが。


「……おそらくは、簡単にやり直せると思われたのかな、と」


死に戻り。それはアクションゲームであれば、わりとよくあるものでいわゆる「死にゲー」と呼ばれるもののこと。

何度もゲームオーバーを繰り返して、少しずつ攻略法や立ち回り方を研究していくというのが、「死にゲー」の醍醐味である。


正確には何度も繰り返した結果自分なりの攻略法を見つけ、ボスキャラを打倒したときに得られるカタルシスが、「死にゲー」に熱中させる要因であった。


そういう「死にゲー」同様に、「エターナルカイザーオンライン」にも死に戻りはある。もっとも他のネットゲームでも死に戻りというのは、たいていつきものである。


基本的にネットゲームというのは、多人数でのプレイが推奨される。ソロプレイもできなくはないが、基本的にはパーティープレイ前提で敵モンスターはプログラミングされているわけであるため、ソロプレイでは基本的に難易度が跳ね上がる。


中にはソロプレイでも可能な難易度のクエストやらモンスターもいなくはないが、基本的には多人数でのパーティープレイが前提かつパーティープレイでも苦戦するレベルの強敵が用意されるものだ。そしてその強敵に最初から勝てるわけもない。


何度も繰り返し挑み、相手の攻撃範囲や手助けにもなれば、かえって不利となるかもしれないギミックなどを理解していく。その際に重要となるのが、死に戻りである。


要は何度も死んで攻略法を体に叩き込むということ。現に第1エリアのボス4体を攻略組のプレイヤーたちは、何度も死に戻ることで攻略法を確立させていった。


初見で攻略法を確立させられれば一番いいかもしれないが、基本的にはトライ&エラーを繰り返してこそ成功に近づくわけである。


そのため、死に戻りという行為は、ネットゲームに触れたことがある人物であれば、当たり前のものとも言える。


ただ死に戻りにもペナルティはある。それが経験値の減少である。なんのペナルティもなしに、死に戻る場合、完全な作業となりかねない。


逆にペナルティがあれば、そのペナルティが重ければ重いほど、ペナルティを被らないように緊張感ある戦闘になりやすい。


それは「エターナルカイザーオンライン」も同じで、こうしているいまも別のフィールドで死に戻っているプレイヤーはそれこそ毎分現れる。


レンもまたその口だった。


フェニックスとの稽古で追い詰められた際、レンはあっさりと死に戻ることを覚悟した。


何度だろうと死に戻り、最終的には勝てばいい、と思ったからだ。だが、それはレンだけではなく、大抵のプレイヤーが同じ意見だ。いわば常識と言ってもいいことだった。


だが、その常識こそが問題だったのだろうとレンは思った。でなければ、短時間に何度も殺されるということはありえない。……そもそも短時間で50回も殺してくるフェニックス自体がありえないわけだが、やぶ蛇にしかならないだろうから、あえて詳しくは言わなかった。


「……そうですね。あなたたち「旅人」は、普通であればひとつだけの命を無限に持っています。言うなれば事実上死にません。ですが、それこそが侮りになるのです。「負けても何度でもやればいい」と思いがちになるのです。つまりは必死さがなくなり、一戦一戦の質が落ちるのです。それはレン殿あなたにも同じことが言えたのですよ」


「それは」


否定できないことだった。


実際何度負けても、最終的には勝てばいいとレンは思っていた。


だがそれこそが油断となり、おのずと動きの質が悪くなる。


死に戻らずに勝てればいいかもしれないが、相手が圧倒的に格上であれば、死に戻ることなく勝つというのはかなり無理があることだ。


圧倒的に格上相手でも勝てるようにするための死。言うなれば必要経費のようなものだ。


だが、その考えこそが「死」というものを、軽く考えてしまうということである。


フェニックスが危惧しているのはまさにそういうことなのだろう。


あまりにも簡単に死んでしまうのは、何度でも生き返れるから。普通であれば、死ねばそれで終わりだ。


だが、プレイヤーたちであれば、何度も死んで生き返ることができる。


それがいつのまにか油断となり、動きの質を落としていた。


いや、動きの質だけではなく、考え方が甘くなってしまっているのだろう。


その結果、必死さがなくなる。ただでさえ格上相手だというの、必死さがなくなっては勝てるものも勝てなくなる。


ゆえに「死」というものを肌で感じさせようとしたのだろう、とレンは仮定した。おそらくは大きく間違ってはいないだろう。完全に合っているわけでもないだろうが、当たらずとも遠からずだとレンは思った。そのままのことを伝えると、「よろしい」とフェニックスは笑った。


「「死」というもの、本来恐れるものです。ですが、恐れすぎても問題がある。大切なのは「死の恐怖」をコントロールすること。コントロールし、力に変えることです。レン殿はきっかけをえました。あとは実際に力に変える方法を得ることです。というわけで──」


にこりとフェニックスがまた笑う。その笑みにレンは背筋が大きく震えた。


「これから定期的に殺しにかかりますので、頑張って堪えてくださいね?」


フェニックスの一言は死刑宣告としか思えないものだった。


おそらくは拒否しても無駄だ。


ゆえに「お手柔らかに」としかレンは言えなかった。そんなレンに「努力しますね」とフェニックスは笑う。その笑顔がただただ怖いとレンは心の底から思った。

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