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35話 補習終了

遅くなりましたというか、もうぎりぎりですね←汗


全力の一撃。


渾身の力を込めたカウンター。その刃はまっすぐにフェニックスにと迫っていた。


フェニックスはどこか嬉しそうに笑っていた。だが、レンにはフェニックスの笑みの理由はわからない。


理由はわからないが、いまはどうでもいい。いまはただフェニックスにと一撃を当てることだけを考えればいい。それだけを考えた一撃はフェニックスの首筋にと伸び、そして──。


「ふむ。悪くない一撃ですね」


──ガキィンという硬質な音を奏でた。ミカヅチの刀身はフェニックスの体を傷つけることなく弾かれた。その瞬間掌から吹き飛んでしまいそうな衝撃が走ったものの、どうにか掌から落とすことはなかった。


だが、渾身のカウンターが通用しなかった。それはレンではフェニックスを傷つけることはできないというなによりもの証拠だった。


「さて、次は私の番ですか。私なら確実に殺せますからね?」


口元を歪めて笑うフェニックス。その笑顔にレンはとっさに後ろへと下がり距離を取る。だが、フェニックスの笑みは変わらず、右手を水平に伸ばしていた。そうして水平に伸ばした右手をフェニックスはゆらりと動かした。


レンはミカヅチを縦に掲げるように構えた。生身では受けきれないから、生身で受ければ首を飛ばされるからこそ、ミカヅチで受けるしかなかった。


「ふむ。判断としては間違ってはいません。が、わざわざ意識が向いている場所に攻撃などするわけがないでしょうに」


フェニックスがため息混じりに言った。その次の瞬間には右脚が熱くなった。視界の端に噴き上がる血が見えた。


「あぁ、安心してくださいね?脚を切断はしていません。ただ深く抉っただけですから」


ニコニコと笑いながら、フェニックスは右手に付着した血を舐め取っていく。艶かしく動く舌で絡め取られていく血は、なんとも言えない感情を抱かせてくれるが、いまはそんなことを考えている場合ではない。いまはこの死地をどう抜け出すかだけを考えていたかった。


「ふふふ、よろしい」


フェニックスは満足げだが、その目は相変わらず瞳孔が割けたままだ。無機質的な光を宿したまま、レンを見つめている。


(攻撃に移るべきか?)


右脚の痛みはひどい。だが、動かせないわけじゃない。


ただ「雷電」を用いた高速移動はできない。もししようとしたら、脚がちぎれかねない。それに加えて血を流しすぎているからか、頭がぼぉっとする。


(いくらVRとはいえ、ここまで再現するなよ)


出血多量で意識を保つのが難しくなっていく。いまはまだ動けるが、いずれは倒れることになる。そうなる前に死地から脱出したい。


しかしいくらリアリティを追求するためとはいえ、「出血」という状態異常まであるというのはいかがなものかとレンは思う。


ちなみに「出血」はほかの状態異常、「恐慌」と「朦朧」という二大状態異常に比べるとまだましなものである。その効果は一定時間毎にHPダメージと思考力の一時低下という、「毒」と重度に酔った状態である「酩酊」が合わさったもの。


ただHPダメージと思考力の低下は、「毒」と「酩酊」よりかは軽い。ただそのふたつが同時に襲われるのだから、わりと凶悪な状態異常でもある。


現在のレンも「出血」により、少なくはないHPダメージと思考力の低下に襲われている。時間が経つに連れて息は上がり、思考力は徐々に失われていく。


いまはまだフェニックスの行動を読んで対処しようとしているが、いずれは対処しきれなくなるのは目に見えていた。


とれなれば、いまのうちに行動を起こすべきだ。受けているだけでは決してフェニックスには敵わないし、いまはまだ戦えている。だが、それもいつまでも続かない。


であれば、戦えるうちに行動を起こす。死地から抜け出しつつ、一矢報いる。そのためになにをするべきか。鈍る思考と歪む視界に苦しみながら、レンは次の行動を必死に考えていく。


「お見合いではありませんのでね。こちらから行きますよ?」


フェニックスが再び右腕を伸ばす。だが、いつまで経っても右腕が揺れない。なぜだろうと思っていると、視界の端に揺らぎが見えた。


レンは直感で揺らぎに向かってミカヅチを振るった。ガキィンという硬質な音が響く。フェニックスの左手とミカヅチの刀身が鎬を削っていた。


「お見事、と言いたいところですが」


「っぁ!?」


背中に熱が走った。レンの体勢が崩れる。が、フェニックスはなぜか後ろへと下がっていた。フェニックスが血に濡れた自身の右手をゆっくりと舐め取っていく。


「背中ががら空きですよ?警告兼褒美として殺さないであげました」


フェニックスは笑っていた。だが、レンにとっては笑えないことだった。背中をそれなりに深く斬られた。すぐに死ぬような傷ではないが、「出血」がより強まるのがはっきりとわかった。


「しかし殺さないであげましたけど、このままだとあっさりと死んでしまいますがね?さぁ、ここからどう立て直しますか?」


フェニックスはまた笑っていた。だが、笑ってはいるが、本当に笑っているわけではないだろう。その目はひどく鋭かった。


たださきほどまでとは違う。さきほどまでは淡々と殺しに来ていた。それこそ家畜を食肉に加工するかのように、そうするのが当たり前であるかのように淡々と殺しに来ていた。


だが、いまはすぐに殺さずにいたぶっている。レンの反応を確かめるために、レンがどう行動するかを見ている。その意味がいまはわからない。


だが、いまのままだといずれは殺されることだけはわかっていた。


(怖くなかったのにな)


いままではゲームの中だからと怖くはなかった。むしろ進んで死んでもいいとさえ思っていた。だが、いまは違う。


フェニックスに両腕を切られ、首を落とされてから怖くなってしまった。


ゲームの中だからという考えはいつのまにかに消え、いまはただ「死にたくない」という気持ちが強く胸の中にあった。


(……ゲームだから現実には反映されないとわかっていても怖いもんは怖いんだな)


50回殺されたことで、ようやくレンは恐怖を覚えた。死にたくないと思えてしまっていた。それがいいのか、悪いのかはレンには判断がつかない。だが、いまはこの場を生き残ることだけを考えていたかった。


そのためには一矢報いるだけではダメだった。


(この場で倒すしかない)


生き残るためには、勝つしかなかった。それもあとわずかな時間でだ。レンがまともに戦えるのは残り一分もあるかどうか。正確な時間はわからない。


わかるのは残り時間は少ないということだけ。ゆえにレンにはもう迷いはなかった。


(次で決める!)


レンは震える体でミカヅチを鞘に納めた。放つのはただひとつ。クリムゾンリザードへの決定打となった一撃「雷電一閃」──。


(いまの状態で放てるかはわからないけど)


脚を抉られ、背中を斬られた。戦うのでさえやっとだろう。


だが、それでもやるしかなかった。いや、放つだけだった。


呼吸を整えることはしない。どうせ整えようとしても無駄であるし、それだけの時間も残されてはいない。


ならば、やるだけだ。すべてを一刀に込めて放つのみ。


レンは大きく息を吸い込み止めた。フェニックスをまっすぐに見つめる。


フェニックスは笑みを消してレンを見つめている。


目と目が合った。視線が絡み合うと同時にレンは「雷電」を使用した。同時に激痛に襲われた。だが、奥歯を噛み締めて前に出る。ただひたすらに体を前にと押し出していき、そして──。


「雷電一閃!」


──奥の手である「雷電一閃」をフェニックスにと放っていた。ガキィンという硬質な音が響く。だが、わずかだが手応えがあった。なにかを斬る感触が掌から伝わっていた。


「……お見事です」


フェニックスが手を叩いていた。フェニックスの着ていたローブの一部が破損していた。破損した一部はみるみるうちに一枚の羽となっていく。その羽はみずからの意思を持つかのようにレンの元へと向かってくる。痛みと寒気により意識が遠のく中、レンはその羽をたしかに掴んだ。


「補習はこれにて終了です。お疲れ様でした」


フェニックスの声。返事をしたかったが、もう意識を保つのが難しかった。レンはなにも言わずに倒れこんだ。


だが、ぽすりという音ともにとても温かく柔らかなものに包まれた。その正体を確かめることなく、レンはまぶたを閉じたのだった。

補習終了となります。

あ、ちなみにですが、「なんでも屋」再開しています←

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