表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

379/1006

29話 「焦炎」の謁見者

間に合わなかったorz

近くから音はなかった。


遠くからならわずかに音はある。焦炎王の眷属であるドラゴンたちの鳴き声なのか、それともほかの種族の鳴き声なのかはわからないが、尾を引く重低音が響いていた。


響き渡る重低音の中でレンはガルドと隣り合いながら、目の前にいたフレイムドラゴンを見つめていた。


フレイムドラゴンはなにも言わないまま、背中を向けている。その背中に向かってレンは言った。


「あなたが焦炎王様の眷属の長であることはわかっています」


一度口にしたことを、もう一度あえて口にするレン。そんなレンの言葉を聞いてもフレイムドラゴンは一切の動きを見せなかった。


聞いていないわけではない。呆気に取られているわけでもない。かといって立ったまま眠っているという特殊なことをしているわけでもない。


フレイムドラゴンがなんの反応も見せないのは、レンの続く言葉を待っているからだ。ゆえになにも言わない。なにも言わずに続く言葉を待っているのだろう。


(……まるで論文かなにかの発表みたいだな)


会話をするだけだというのに、不思議な緊張がレンの中にはあった。


その理由が背中を向けたままのフレイムドラゴンにあることは明らかである。だが、そのことを指摘するつもりはない。


フレイムドラゴンは背中を向けながら、「たどり着いた答えを言ってみろ」と語っているのだ。加えてマグマの熱の影響もあり、余計なことを言っている余裕はない。


「……いま思えば、()()()()()()()()()()()()()()()()のでしょうね」


「ヒント?」


フレイムドラゴンが口を開いた。喋れないわけではないのだがら、答えるのは別に不思議ではない。だが、それまで一切なにも言わなかったはずなのに、突如として口を開いたことは、少しだけ驚かされた。だが、レンは感情を抑え込んで続けた。


「眷属の長の元へと向かえと言われましたが、いま思えばそれこそがヒントだった」


「どういうことだ、坊主?」


それまで黙っていたガルドが言う。ガルドはまだ理解できていないようで首を傾げていた。ただ現時点ではわからないのも無理はないことである。


「焦炎王様は眷属を集められていた。ドラゴンもそれ以外の種族でも関係なく。だというのにその長たる存在だけが近くにいないというのは、どう考えてもおかしい」


「……それはそうだが。でもほかに重要な仕事があったとかじゃないか?なにせ長と言われるほどの相手だ。となれば長じゃないとできない仕事もあるだろうよ」


ガルドは腕を組みつつ言った。たしかにガルドの言う通り、長とまで言われる相手なのだから、長にしかできない仕事もあるはずだった。ゆえに焦炎王が眷属を呼んでいてもそばにいなかったということもあるだろう。レンとガルドの相手よりも優先するべき仕事があった。そう言われれば否定することはできない。


だが、それはないとレンは思っていた。


「それはないですよ、ガルドさん」


「なんでだ?」


「焦炎王様は長の元へと向かえと言っていたじゃないですか。優先すべき仕事があるのであれば、そもそも焦炎王様だって、その仕事の邪魔をすることはさせないでしょう。なにせ仕える主の呼び出されているのに、それを蹴ってまで続けている仕事なんです。それは焦炎王様とてわかっていること。だというのにその仕事をわずかな間とはいえ、中断させることをはたして焦炎王様が命じられますかね?」


「……それはそうだが。でも中断させることができることかもしれないだろう?」


「だったら、焦炎王様ならば、少しの間でもいいから顔を出せとか言われると思うんですよ。なにせ相手は焦炎王様の眷属を纏める長です。顔を出させて、直接話をすることもあるでしょう。でも、長はいなかったということは中断させることができない仕事に就いているということ。そんな仕事に就いているはずの長に、俺たちの身の振り方の話をさせるためだけに向かわせるというのはありえない。仮にわずかでも中断させられる仕事だとわかっているなら、顔を出させるように命じられると思うんです。わざわざ向かわせるよりも、顔を出せておいて、その場で説明させた方が効率がいいのだから」


「……たしかにな」


ガルドは腕を組んで考え始めた。あくまで推測にしかすぎないことだが、完全に的外れというわけではないはずだった。


「それでももし長にしかできない仕事があり、わずかにでも中断させられない仕事だったとしたら、事前に長に連絡はするでしょう。だけど焦炎王様はそんな連絡をしたようなそぶりはなかった。仮に事前に連絡をしていたとしても、あの人であれば「長には申し訳ないと伝えておいてくれ」と言うでしょう。でもそれもなかった。それは長があの場にいたから。言伝てを口にするまでもなかったからということだと思うんですよ」


「……頷けなくはないが、まだ弱いというか、証拠がないぞ?あくまでも推測だし」


「そうですね、俺が言っているのはすべて推測です。でも証拠になりえることがあるとすれば、()()()()()()()()()()と思うんですよ」


「俺に?もしかしてデスペナルティがないってことか?」


ガルドの言葉にレンは「はい」と頷いた。


実際、デスペナルティがなかったことが、フレイムドラゴンが長であるという推測に成り立った理由であった。


「フレイムドラゴン。わりとよく聞く名前の種族ですけど、俺はいままでフレイムドラゴンに他者を癒す力があるというのは、聞いたことがありません。あるにはあるかもしれないですけど、能力減少を回復させられる能力がある種族にしては、フレイムドラゴンという名前は攻撃的なイメージが強すぎる。正確には炎というのは攻撃的なイメージが強い」


「まぁ、たしかにな。炎で癒しという風に思える奴はいねぇな。むしろ炎っていうのは敵を焼き尽くすイメージが強いから攻撃的というのも間違いではないな」


フレイムドラゴン。直訳すれば炎竜となる。だが、その名前から癒しの力を持つというのはあまり考えられなかった。


「あの場にはほかのドラゴンもいたし、ほかの種族もいた。けど、どれも癒しの力を持つような存在はいなかった。それは焦炎王様だって同じです。むしろあの人ほど癒しの力ということから程遠い存在はいないですよ。……怒られかねないことですが」


焦炎王や、火属性のドラゴンを始めとした、あの場にいた眷属たちの中でステータス減少を回避ないし回復させる力を持ったような存在は見受けられなかった。


もともと炎というのは攻撃的なイメージが強い属性である。その炎の力を持ったモンスターたちに癒しの力があると言われても納得はできない。……()()()()()()()()を除けば、だ。


「さきほど、あなたの種族はわからないと言いましたが、ひとつだけ思いつくものもあるんですよ。それは伝説の霊鳥と言われる存在。炎の中から蘇ると言われる不死鳥ことフェニックス。フェニックスであれば、ガルドさんのステータス減少も回復させられてもおかしくはない」


フェニックスが焦炎王の眷属の長というのは当てずっぽうだ。いや、いままでのすべてが当てずっぽうでしかない。


だが、当てずっぽうだと仮定しても、不思議と納得はできた。穴の方が多い、というか穴しかない推測だろうが、賭ける価値はあった。


「あなたこそが焦炎王様の長であり、ガルドさんのステータス減少を回避させた存在であるフェニックスだと俺は思います」


確信もなければ、証拠もない。本来なら口にすることも憚れる内容だったが、それでもあえてレンは口にした。


そうして口にした内容を受けてフレイムドラゴンは手を鳴らして拍手した。拍手しながらフレイムドラゴンは振り返った。だが、振り返った姿は、レンとガルドがいままで見ていたフレイムドラゴンの、赤い燕尾服を来た執事風の姿ではなくなっていた。


「……穴しかない推測でしたし、ヒントを貰ったうえではありましたので、()()()()()()()()()()。私の種族を言い当てられたことですし、ここで過ごすことを認めましょうかね」


そう言って振り返ったのは、赤と黄色が入り交じった髪をした女性だった。着ていたはずの燕尾服はなく、赤いローブを身につけ、背中に一対の大きな赤い翼を持ったひとりの女性が立っていた。


「改めまして、私は焦炎王様の眷属の長であるフェニックスです。以後よろしくお願いいたします」


女性ことフェニックスに深々とお辞儀をされながら、どうにかなったかとレンは思った。



「おめでとうございます。サブイベント「フェニックスの謎かけ」を()()()()()しました。暫定クリアした功績を称えまして、称号「考えるもの」を獲得いたしました。これにより称号「「焦炎」の謁見者」を獲得いたしました」



同時に場違いにも程があるファンファーレが鳴り、ふたつの称号を得たようだ。これで資格ありということなのだろう。


「これでここにいてもいいんですかね?」


「ええ、ご自由にどうぞ。我が君に呼び出しを受けるまではお好きに過ごされてください」


にこりと笑うフェニックス。その目は穏やかだった。ただ好意的なものはあまり感じられないが、致し方がない。


(()()()()()じゃそうだよなぁ。暫定って言うくらいだから、あくまでも及第点なんだろうし。論破できたら完全クリアだったのだろうけども)


フェニックス自身及第点と言い切っていた。だが、及第点であっても一応は合格ということだろう。地底火山で過ごす資格は与えられたということには変わらない。


「……いまは及第点ですけど、いつかは完全に合格させてもらいますからね」


「楽しみにさせていただきます」


フェニックスは笑っていた。その笑顔は「頑張ってください」とはっきりと書かれており、レンには煽っているようにしか感じられなかった。いつか「ぎゃふん」と言わせてやるとレンはひそかに誓った。


こうしてレンとガルドは改めて地底火山での滞在を許されることになったのだった。

考えるもの……フェニックスの謎かけにおいて及第点を得た者に与えられし称号。脳筋ではないようですが、まだまだですね。特殊効果は戦闘中にINTとMENに補正(微)あり。取得方法はフェニックスの謎かけにおいて、一応の正解を出すこと。


「焦炎」の謁見者……フェニックスの謎かけを乗り越えし者のみに与えられし、「焦炎王」に謁見するための称号。力だけの者では尊顔は叶わぬ。取得方法はフェニックスの謎かけをどのような評価であっても突破すること。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ