28話 眷属の長
えー、またもや、中断してしまって申し訳ないです←汗
どうにもまぁいろいろとありまして←超汗
というわけで更新再開です。
今回はだいぶアンフェアです
赤い燕尾服を着た執事こと一頭のフレイムドラゴンの後をレンとガルドは追いかけていた。
「熱い」
レンとガルドが歩いているのは、地底火山という焦炎王の根城だった。
火山というだけあり、マグマだらけだ。どういう構造なのかはわからないが、マグマと陸地にはきっちりとした境目がある。レンとガルドが歩いているのは、その境目からそれなりに離れていた。
しかしどんなに離れていたところで、摂氏約1000度、溶解した超高熱の固体からそう離れていない場所をふたりは歩いていた。これで熱さを感じないわけがない。
歩くたびに汗が噴き上がるも、その汗はマグマの熱によりあっという間に蒸発する。
とはいえゲームであるため、かなりマイルドになっているであろうことは間違いない。でなければマグマの近くを、なんの用意もなしに歩けるわけがない。
ただマイルドになっているとはいえ、熱いものは熱い。その熱さにレンとガルドは耐えることしかできない。いや、耐える以外に方法がない。
一歩進むごとに体力が削られていくのがわかる。それでもなおふたりは、悪路を歩くしかなかった。
そんなふたりとは違い、その案内役であるフレイムドラゴンは涼しい顔で淡々と歩いていた。
足取りは決して速いわけではなく、レンとガルドに合わせた速度だった。ゆえにその速度はとてもゆっくりである。ゆっくりであるが、そのことがかえってレンとガルドの体を痛めつけていた。
だが、痛めつけられようとも速度を上げるわけにもいかない。
速度を上げればふたりを置いていくことは避けられない。かと言って速度を落とせば、よりふたりを痛めつけることになる。
つまり歩行速度を上げることも落とすこともできない。むしろいまの速度こそが、レンとガルドを案内するのにもっとも理想的な速度であった。
それでも、とフレイムドラゴン時折ちらりと振り返り、レンとガルドが着いてきているのかを確認している。焦炎王からの命を忠実に守っているようだ。その目にはほかのドラゴンたちにあった敵意はない。
だが、敵意はなくてもその目には懐疑的な光が宿っている。「案内するだけの価値がありますか」と。もしくは「価値を見せてください」と物語っているように思えた。
少なくともレンとガルドの前にいるフレイムドラゴンは、ほかのドラゴンとは違い、レンとガルドを下に見ているわけではないことは確かだった。
ただ下には見ていないが、焦炎王の眷属の長。すなわちフレイムドラゴンにとっては雲の上の上司に会わせるのにふさわしいのかを試してはいるようだ、とレンは思う。
もっとも眷属の長がいる場所までたどり着けないのであれば、会う資格などはじめからないということだろうが。
その資格があるのかどうか。レンは汗さえも即座に蒸発する道程を進みながら考えた。
まず考慮すべきなのは、焦炎王が長の元へと向かえと言ったこと。
地底火山の支配者である焦炎王自らがそう言ったということは、資格があると言えなくもない。
ただ別の見方をするとすれば、焦炎王は向かって話を聞いて来いとは言っただけで、会える資格を与えたとは言っていないのだ。
つまりは「命令を出したが、命令が遂行できる道筋を整えてやったとは言っていない。後は自分たちでどうにかしろ」と言われたと言い換えてもいい。
命令をするだけして後はこちらに任せるというのは、なかなか困ったものだが、えてして命令というのはそんなもの。
中には行動を完璧に把握されたうえで、想定の範囲内であれば好きにしろという命令をする上司もいるかもしれないが、焦炎王の場合ははたしてどうなのだろうとレンは思う。
(行き当たりばったりっぽいんだよなぁ、あの人。というかその場の勢いで言っているような気がする)
一見勢いのままで言っているような焦炎王だが、本当に深い考えなどはなく、その場の勢いで言っているようにしかレンには思えない。
(長という人に会えって言うのも、相手をするのが面倒だから押し付けたって考えるのが妥当かな?)
言動だけを見れば、焦炎王に深い考えなどないというのはなんとなくわかる。
だが、そこに焦炎王のカリスマが加わると、なにかしらの深い考えがあってのものなのかもしれないと思えてしまうのが、焦炎王の厄介なところなのかもしれない。
だが、深い考えがあろうとなかろうと、レンとガルドのするべきことは変わらない。長の元にと向かうということには変わらない。
(このまま長の元へ向かうことで、会う資格くらいもらえればいいのだけど)
長の元へと向かうこと。それだけで会う資格が与えられるのであれば嬉しいが、さすがにそう簡単にはいかないだろう。
(でも、このゲームだとありえそうなんだよなぁ)
「ならうな。目指せ」がキャッチコピーである「エターナルカイザーオンライン」ならば、長の元へと向かうということだけで、資格ありと判断される可能性があった。
もちろん、キャッチコピーだけではなく、ほかにも理由はある。
特殊クエストの説明の際に、レベル等が足りず、報酬のランクが低くなるということだった。ほかの特殊クエストに関しては情報がなくて判断はつかないが、少なくともこの特殊クエストに関しては、本来ならもっと後で受注可能となるものだったのだろう。
それこそプレイヤーのクラスチェンジとEKの進化がもう2段階必要となると言われるほどにだ。2段階というと、クラスチェンジも含めて第3段階ということ。第3段階がどれほどのレベルなのかも、全体的にどの辺りの能力なのかも詳しいところはわからない。
ただ、EKに関しては最全線だと第2段階が当たり前となっているそうだが、プレイヤーの中でクラスチェンジを果たしたプレイヤーはまだいない。それはプレイヤーのレベル平均値が20となってもまだレベルが足りないということだった。
ガルドの話によると、プレイヤーの最大レベルが28くらいということなので、おそらくはレベル30でクラスチェンジとなるのではないかということだった。
VRMMOのみならず、大概のゲームだと最初のクラスチェンジはレベル15ないしは20くらいだろう。だが、「エターナルカイザーオンライン」では、レベル30でようやく最初のクラスチェンジを向かえるというのは、かなり遅めである。
だが、EKという存在のことを踏まえるとレベル30というのは真っ当と言えなくもない。いや、むしろ成長速度がありえないほどに速いと言ってもいいだろう。
なにせEKはレベル5の時点で能力が進化する。EKの進化はほかのゲームで言えば、クラスチェンジ。つまりはレベル5でクラスチェンジするということ。
レベル5でクラスチェンジというのは類を見ない早さだった。
むろん、EKの進化はプレイヤーそれぞれではあるのだが、基本的にはレベル5で進化をする。ほかのゲームで言えば、レベル5で最初のクラスチェンジとなり、プレイヤー自身の最初のクラスチェンジとなるであろうレベル30は、ほかのゲームで言えば2回目のクラスチェンジにあたる。
ほかのゲームであれば2回目のクラスチェンジは通算でレベル40前後が多い中、レベル30で2回目のクラスチェンジを迎えるというのはかなり早いと言っていい。
そんな圧倒的な速さで成長していく「エターナルカイザーオンライン」であっても、EKとプレイヤーそれぞれにもう2段階ずつの進化とクラスチェンジが必要となるということは、特殊クエストとは、本来かなり先で受注可能となるクエスト群なのだろう。
それをリリース初期と言ってもいい状態で受注した。本来であれば、そこそこの難易度であったとしても、現時点では相当の高難易度となるのは当然のことだろう。
その高難易度を現時点でクリアするということは、長の元へと向かうだけで資格を得ることになっても、なにかしらの称号を得ることは十分に考えられあ。
そもそも地底火山にいることが、まずおかしいのだ。
どういうフラグを踏んで地底火山に来たのか、レンには検討もつかなかった。
だが、検討がつかなくても将来的に訪れるはずの場所にリリースして数ヵ月で来られたというのに、なにもしないというのはありえない。
できることはなんだってするべきだろう。たとえ何度死に戻ることになったとしても──。
「あれ?」
──レンは不意に疑問を抱いた。
ガルドはレンが目を覚ましたときには、死に戻って来た。
この地底火山のモンスターと戦って結果、死に戻りになったのだ。
そうして死に戻ったのであれば、ステータスが一時的に減少するはずだ。
だが、いまのところガルドからは、ステータスが減少したような雰囲気はない。通常通りのガルドのままである。
そもそもステータス減少しているのであれば、すでにガルドはまた死に戻っていてもおかしくはないはずだ。それだけ過酷な場所にレンたちはいる。ステータス減少したままで、まともに歩けるわけもない。だというのにガルドはまともに歩いていた。
それが意味することはレンにはひとつしか思いつかなかった。
「ガルドさん。死に戻ったんですよね?」
「うん?あぁ、そうだけど?」
「ステータス減少しています?」
「ステータス減少?そりゃして──」
ガルドは「なにを言っているんだ?」という風に首を傾げた。首を傾げつつもステータスを表示させると──。
「……は?」
──あんぐりと口を大きく開いた。
その表情にはありえないとはっきりと書かれていた。
その表情が意味することはひとつだけだった。
「ステータス減少していない、んですよね?」
「あ、あぁ。まるで減っていねえ。どうなっているんだ?もうペナルティなんて当たり前のはずなんだが」
ガルドは理解できないと顔に書いてあった。最前線の攻略をするということは幾度となく死に戻るということ。それはガルドほどのプレイヤーであっても同じだ。
であれば、デスペナルティ無効となる回数はとっくに終わっているはず。
なのにガルドは死に戻ったはずであるのに、ステータス減少を起こしていない。いや、回避したということ。
(デスペナルティを回避したってことは、なにかしらの要因があるはず。たとえばこの地底火山がそういう特性のエリアってことか、特殊クエスト中はデスペナルティを回避できるということ。もしくは──)
「デスペナルティを回復させられる誰かがいるってこと、かな?」
ぼそりとレンが呟くとフレイムドラゴンが足を止めた。それまでレンたちと歩行速度を合わせていたはずのフレイムドラゴンが立ち止まったのだ。
フレイムドラゴンは立ち止まったが、振り返ることなく背中を向けている。
「どうしたよ、フレイムドラゴンさんよ?」
ガルドが怪訝そうな声を出す。だが、フレイムドラゴンは答えない。
フレイムドラゴンの突然の行動の意味をレンは考えた。そしてひとつの答え、いや、仮定に達した。答えとするにはまだ情報が足りなさすぎる。
だが、悪くはない仮定であった。その仮定をレンはあえて口にした。
「……謎かけだったんですね?」
フレイムドラゴンに言うと、隣のガルドが「なにを言っているんだ?」と不思議そうにした。
だが、あえてガルドには返事をせず、レンは続けた。
「あなたの種族まではわからないんですけど、ただあなたが誰なのかはわかりました。あくまでも仮定でしかないですけど」
フレイムドラゴンはなにも言わない。ただ黙ってその場に立ち尽くしている。
「おいおい、坊主。なにが言いたいのかさっぱりとわからないんだが?」
「……一言で言えば、俺たちはもう目的の相手に会っているということ。ずっと行動を共にしていたということです」
「は?いや、そうすると」
ガルドが困惑した様子でフレイムドラゴンを見やる。だがフレイムドラゴンはやはりなにも言わない。なにも言わないまま立ち尽くしている。
「ええ、焦炎王様の眷属の長というのは、目の前にいるこの人のことです」
レンはフレイムドラゴン、いや、焦炎王の眷属の長をじっと見つめるのだった。
もうちょうい丁寧に書けばよかったなぁ←しみじみ




