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26話 特殊クエスト開始

今日も遅くなりました←汗

「──さて、具体的な話をしようか」


赤い女性こと焦炎王は、ニヤニヤと笑いながら、曰く「具体的な話」を始めた。


「先ほどもそちらの獣の小僧には言ったが、そなたらにはここで我が眷属どもの遊び相手をしてほしいのだよ」


焦炎王は脚を組みながら言った。その脚はすね当てに覆われていたが、すらりと長いというのがわかる。いわゆる美脚であるが、そのことに反応できる余裕などレンにもガルドにも存在していない。


もっともガルドの場合は違う意味で興奮状態にあるが、焦炎王はどちらにしろ気に留めることもないだろう。


焦炎王にしてみれば、ガルドもレンも幼い子供同然である。むしろ幼い子供という括りになるかどうかも危ういところだ。下手をすれば、どちらも乳幼児扱いであってもおかしくないほどに、焦炎王との年齢差があった。


ただそれを口にすると、いろんな意味で危険であるのだが、そのことをレンもガルドも気づいていなかった。


バトルマニアの括りに入るふたりであるため、焦炎王がどれほど妖艶であろうと、その姿に魅了されることはない。


そのことがちょっぴり残念かつ少し面白くないと思いつつも焦炎王は続けた。


「無論最初から竜の眷属どもと遊ばせはしない。そんなことをすれば、獣の小僧のように死にかねん」


「でも、ガルドさんは」


焦炎王は最初からドラゴンのモンスターたちと戦わせはしないと言っていたが、ガルドはそのドラゴンのモンスターたちと戦って死に戻ったようだった。


戦わせないと言っているのに、戦わせているというのは、どうにもおかしいように思える。というか矛盾しているとしか思えない。


そんなレンの言葉に焦炎王は呆れたようにガルドを見やった。対してガルドは困ったように笑いながら頭を掻いている。ガルドの反応でだいたいの事情を理解するレン。


「もしかしてガルドさん、自分から突撃したんですか?」


まさかとは思う。だが、焦炎王とガルドのふたりの反応を見る限りはそうとしか思えなかった。そんなレンの言葉にガルドは苦笑いしながら頷いた。


「いやぁ~、クリムゾンリザードよりも上位のドラゴンがゴロゴロいると言われたら、怖いもの見たさで戦いたくなるじゃねぇか」


「……怖いもの見たさで戦いたくなるというのは、なかなかに矛盾しておるぞ?まぁ、気持ちはわからんではないがな」


くくくと喉の奥を鳴らしながら、ガルドの言葉に否定とも肯定とも取れるような返事をする焦炎王。その表情と言動に居並ぶドラゴンたちが、わすがに、だが、一斉にため息を吐いた。


ドラゴンたちの表情はあいにくとわからないが、雰囲気から察するかぎり、焦炎王の発言に困りに困っているようであった。


どうやら焦炎王は、居並ぶドラゴンたちの王であるのと同時に、この中でもとびっきりの問題児でもあるようだった。


だが、そのことを理解しているのか、それともあえて無視しているのか、焦炎王はいくらか上機嫌に笑うだけである。


カリスマ性は高いが、基本的にはワンマンタイプの上司の部下というのは、大変なんだなぁとしみじみと思うレン。


ちなみに数年後に特大のブーメランが盛大に反ってくることになるのだが、そのことをこのときのレンは知るよしもない。


「……焦炎王様は、王様なんですよね?」


「ん?そうだが?」


「なのに戦闘を好まれるので?」


「竜が戦闘を好まないとも?」


「なにを言っているんだ、こいつは」みたいな顔をする焦炎王。そんな焦炎王にレンはなんて返事をしていいのかわからなくなってしまった。


だが、そんなレンを無視するように焦炎王は続けた。


「とにかくだ。獣の小僧が先走りよったが、最初は竜ではない眷属どもの遊び相手をしてもらいたい。無論報酬を出そう」


「報酬?」


「うむ。我が眷属どもの体の一部、古くなった鱗や生え代わりで抜け落ちた牙、甘噛みして欠けた爪、あぁ、もしくは結石などもくれてやろうか。どれも我らには大して意味のないものだが、そなたらにはどれも貴重な素材となるであろう?」


焦炎王が提示した素材は、たしかに貴重である。リリースして数ヵ月で上位のドラゴン素材を大量に入手できるとあれば、これ以上とない報酬となるだろう。


もっとも入手したところで、NPCでもプレイヤーでもそれほどの素材を加工できる職人はいないので、当分はタンスの肥やしになることは確定だろう。


だが、たとえ加工できず、現時点では死蔵扱いになったとしても序盤も序盤でそれほどの素材を手に入れられるチャンスを逃す手はない。


「だが、ただでくれてやるつもりもない。我が眷属どもを楽しませることができれば、それぞれがそなたらに渡すだろう。逆に蝿を叩き潰す程度で終わったらどれだけ戦おうとも報酬をやるつもりはない。あくまでも眷属どもを楽しませることができれば、くれてやるというわけであり、戦った回数ではない。まぁ、楽しませることができるのうになれば、回数も重要になるだろうが、いまのそなたらでは回数よりも質を重要視するといい」


焦炎王が口にした内容は、レンもガルドも納得できるものだった。


数の力というのは偉大なものである。数があるというだけで、一種の箔がつく。


しかしどれだけ数があろうとも、優れた質には時には叶わないものである。


極論ではあるが、おままごとで作った木の葉や泥の無数の料理じみたものと、プロが本気で作った一品とでは、大きな違いがあるし、どちらがより優れているのかは言うまでもない。


もしかすれば、無数の中にはプロでさえも唸るなにかはあるかもしれない。しかしそれがある確率は非常に低い。むしろ皆無と言っていいだろう。


現時点でのレンとガルドは、焦炎王から見たらおままごとに興じる子供のようなものなのだろう。


だからこその遊び相手だった。


戦闘の訓練相手ではなく、遊び相手をしろというのは、隔絶という言葉でさえも足りないほどに差があるからこそである。


例えるならば、積み木をするだけでも遊びとなる幼児が、テレビゲームで遊ぶ小学生の相手をするというところか。なかなかに無茶というか、むしろどうすればいいのかというレベルの隔絶さだった。


そんな隔絶した能力差がレンとガルドのふたりと、焦炎王の眷属たちとの間にはあった。そしてそれを焦炎王は把握している。


だからこそ最初からドラゴンたちの相手をさせないと言ったのだ。


最初からドラゴンたちの相手をさせても、ガルドのように死に戻ることにしかならないのは明らかである。そうして死に戻ってもなお、ドラゴンたちの遊び相手にもなっていないのだ。たとえレンが協力しても遊び相手になれないことは明らかであった。


だからこそのドラゴン以外のモンスターからというのは、いわば焦炎王の気遣いとも言える。


同時に最終的にはドラゴンの相手ができるようになれという啓示でもあるのだ。


そのことをレンとガルドが理解したとき、目の前にウインドウが表示された。


「特殊クエスト「焦炎王の稽古相手」が成立しました。戦闘内容と戦闘回数によって報酬が変化します。なお現時点では上位ドラゴンの素材は入手できません。プレイヤーのクラスチェンジとEKの進化が最低でももう2段階必要です。現時点で手に入るのは、クリムゾンリザード素材、クリムゾンホワイトタイガー素材、ほか第2段階相当のモンスター素材となりますが、特殊クエストを開始しますか?」


ウインドウに表示された内容に目を通したレンとガルドは、迷いなく「Yes」を選んだ。


すると焦炎王はにやりと楽しげに笑った。


「くくく、やる気はあるようだな。ではよかろう。まずは、そうさなぁ。我と一戦行ってみるとするか」


焦炎王は立ち上がりながら言った。いきなりのことだったが、レンもガルドも揃って頷いた。その結果、レンは焦炎王に成す術なく敗北を喫し、現在にと至るのだった。

ようやく話が現在に戻ります。

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