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22話 雷電一閃

遅くなりました←汗

クリムゾンリザード戦終了です。

「流水斬!」


何度めかの「流水斬」をレンは放っていた。


クリムゾンリザードの体を水の力を纏ったミカヅチの刀身が切り裂いた。


クリムゾンリザードから弱々しい声が上がる。その声に比例してクリムゾンリザードの体は傷だらけだった。


片目はガルドにより潰され、もう片方も自身の流した血で半分以上が塞がっている。口元からは血が滴り、それを吐き出す暇もないようだ。


体は体で、腹部近くまで覆っていた鱗はところどころで剥がれていたり、壊れていたりしており、当初の防御力は失われていた。


機動性は最初から高くなかったが、四肢のうち後ろの右脚は切り落とされ、ほかの脚も大なり小なり傷を負っており、その巨体を支えるだけでやっとのありさま。


誰がどう見てもクリムゾンリザードに勝ち目はない。それどころか数秒後には、息絶えたとしてもなんら不思議ではない。


だが、そんな半ば死体のような姿になってもクリムゾンリザードの目からは、ほぼ視力を失った目からは光は消えない。


むしろ傷つけば傷つくほど、その目には強い意思の光が、闘志が宿っていくようだった。絶命するそのときまで戦い尽くさんとする強い闘志が、クリムゾンリザードの目には宿っていた。


その闘志にレンは何度も呑まれそうになっていた。「恐慌」になったわけではない。ただ圧倒されかかっていた。

たとえこの場で息絶えようとも一矢報いようとする意思の光に呑まれそうになっていた。


「坊主!」


ガルドの声。見ればクリムゾンリザードが突進してきていた。脚をひとつ失い、ほかの脚とて体を支えるのでやっとというありさまであるのに、クリムゾンリザードはその大きな口を開いて、半ば体を滑らせる形での突進を仕掛けてきていた。


だが、いまある力を用いての突進でも、いや、その他の攻撃であっても当たってやることはできない。


1度でも貰えば、それだけで逆転されかねない。特に目の前にいるクリムゾンリザードのように死体同然となってもなお闘志を燃やすような相手には、同情で攻撃を貰うわけにはいかない。


「「雷電」」


「雷電」を使用し、レンはクリムゾンリザードの上を通って、その攻撃をあっさりと回避した。回避しながらもミカヅチでその背中を切りつけた。


クリムゾンリザードが小さな苦悶の声をあげた。苦悶の声をあげながら、勢いのついた体を止めることなく壁に突っ込み、その巨体を強かに打ち付けた。


壁の一部が瓦礫となり、クリムゾンリザードの体に降り注いでいく。


「やった、か?」


クリムゾンリザードは動かない。だが、光となって消える様子はない。「まさか」とは思ったレンだったが、その「まさか」の光景が続いた。


「……まだ、やるかい」


ガルドが呆れたような声を出す。クリムゾンリザードが瓦礫の中で体を動かしたのだ。それから体をゆっくりと起き上がらせていく。その身を大きく震わせながら。


「……攻撃した方がいいですか?」


「……本来ならそうする。だが、いまはまだいい。奴の体勢が整うまでは待つ。そしてそれが勝負時だな」


ガルドは淡々と言った。待つとは言ったが、ガルドは同情しているわけではない。レンもまた感じ取っていた。クリムゾンリザードが最後の攻撃に移ろうとしていることに。クリムゾンリザードは大きく体を震わせているが、まだ動いていた。まだ動いて戦おうとしている。戦わないのであれば、あのまま倒れていればいいだけだ。


それに本来ならガルドは誰よりも攻撃に移りたいはずだった。


ガルドが使用している「獣謳無刃」は全ステータスを底上げするが、その分デメリットも存在していた。時間経過とともに少しずつ理性を蝕まれていき、最終的には敵味方関係なく攻撃をしかける暴走というデメリットがあった。そのことを最上階に至るまでの道中でレンは教えられていた。「獣謳無刃」は切り札ではある。だが、デメリットも抱える切り札であることを教えてもらえたのだ。


その予兆はすでにガルドに現れていた。ガルドは汗だくになり、肩を大きく動かしていた。表情にも余裕はない。もともと余裕のある相手ではなかったが、いまは時間という敵とも戦っているため、ガルドにはより余裕はない。


それでもガルドは、クリムゾンリザードは立ち上がるのを待っていた。勝つためにではなく、勝ち方にこだわるために。ただ勝つのではなく、自身が納得する勝ち方のためだけにクリムゾンリザードを待っている。


それをクリムゾンリザードは感じ取っているのか、ボロボロの体であるはずなのに、もう倒れたままでいてもおかしくないほどの傷を負ってもなお、クリムゾンリザードは立ち上がろうとしていた。立ち上がりながら最後の攻撃の準備をしている。


だが、それは一矢報いようとしているからではない。そういう気持ちも多少はあるかもしれないが、それ以上の理由があるのだ。レンにもようやくわかった。クリムゾンリザードは──。


(……生きるために戦おうとしている。一矢報いようとか、恨み辛みが重なってとかじゃない。ただ生きるために、生きていたいからこそ戦おうとしているんだ)


──一矢報いようとしているわけではない。クリムゾンリザードが闘志を燃やすのは生きるために。生きていたいからこそ戦おうとしていた。たとえその攻撃の果てに息絶えようとも、生きようとする意思を手放さないでいる。


「……これがドラゴン、か」


人によっては生き汚いと言うのかもしれない。しぶといともしつこいとも言うのかもしれない。


だが、レンにはとてもではないが、そう思うことはできなかった。


ただただ「凄い」と。その生きようとする強い意思に感銘を受けた。


「……あぁ、これこそがドラゴンだ、と言いたいところだが」


ガルドが含むような言い方をした。その表情は合点がいったと言うように、なにかしら納得するものがあったように見えた。「どうしたんだろう」とレンが思ったとき。瓦礫が崩れ落ちる音が聞こえていた。


見ればクリムゾンリザードが立ち上がっていた。失った脚の代わりを尻尾が行うことで立ち上がっていた。地面を穿ち、その穴に尻尾を差し込み固定し、どうにか体勢を整える姿は、もともとの姿を知っているとひどく不恰好に見えた。


だが、不恰好であってもレンにはその姿が尊く見えた。


だからこそ、ガルドはクリムゾンリザードを待ったのだろう。


ただ倒すべき敵としてではなく、その姿に感銘できる強敵として。ひとりの戦士として正々堂々と戦おうとしている。


そんなガルドの心意気を理解しているのか、クリムゾンリザードはまっすぐに見つめてきていた。まっすぐに見つめながら静かに頭を下げていた。それは時間がないというのにも関わらず、自身の体勢が整うのを待っていたことへの礼なのか、それとも真っ向勝負を、最後の真っ向勝負をするからこその礼儀であるのかまではわからなかった。


だが、どちらにしろ、クリムゾンリザードは立ち上がった。その目にはいままで以上の闘志に燃えている。ゆっくりと口が開き、いままで見た中でもっとも大きな火球が生成されていく。渾身の、いや、クリムゾンリザードのすべてを込められたかのような火球だった。


(半端な攻撃じゃ通用しないし、失礼になるな)


レンはミカヅチを鞘に納めると、脇構えを取った。


全身全霊には全身全霊を以て対する。それが礼儀だとレンは思ったのだ。それはガルドも同じで「歴戦の重斧」を高々と掲げていた。


時は満ちていく。


だが、まだ潮合いには早い。


二対半の視線が絡み合う中、時間はゆっくりと過ぎていく。


滴る汗が地面に落ちるも、拭う余裕は誰にもない。


拭うことなく、時間が過ぎていく。このまま時間が過ぎていくかと思われたとき、不意に瓦礫が崩れる音が聞こえた。


崩れた瓦礫はひと欠片ほどのとても小さなものだった。


欠片はゆっくりと地面に向けて加速しながら落ちていき、やがて軽い音を立てて地面とぶつかった。


それはほんの小さな音だった。戦闘中とは思えない静寂さがあったからこそ聞こえた音。


だが、その音と同時に彼らは動いた。


「いっくぜぇ!」


まず動いたのはガルドだった。「歴戦の重斧」を掲げながら高く飛び上がり、クリムゾンリザードへと向けて落下していく。落下しながらガルドは雄叫びを上げつつ、「歴戦の重斧」を頭上で回転させた。その動きは奥の手である「獣波激震衝」を使うと宣言しているようなもの。


「獣波激震衝」は絶大な威力を誇る1撃ではあるが、そのモーションの大きさゆえに、テレフォンパンチ、動作が大きすぎる攻撃となってしまい、迎撃が容易いという致命的な弱点がある。


その「獣波激震衝」をガルドはうまく使いこなしていた。がこのときの「獣波激震衝」にはうまさはなかった。ただ全力を以て打ち下ろす。そんな意思だけが乗っていた。


クリムゾンリザードからすれば、迎撃は可能である。ガルドだけであれば、いまチャージしている火球をそのままガルドにと放てば終わりだ。


だが、この場にいるのはガルドだけではない。


「「雷電」」


レンの呟くような声が響いた。瞬間レンの姿が消えた。圧倒的な速度で駆け抜けているからかその動きは見えない。


だが、レンが駆け抜けた跡が、黒い雷の轍となって地面に刻まれていた。レンはまっすぐに駆け抜けている。その速度は速い。そして恐ろしいことにガルドの攻撃と同時に直撃するだろう。


レンとガルドの狙いが同時攻撃であると見抜いたのか、クリムゾンリザードはその動きに合わせて火球をチャージしていく。


やがてガルドが回転させていた「歴戦の重斧」をまっすぐに振り下ろし、奥の手である「獣波激震衝」を放とうしていた。


同時に黒いなにかが視界に写った。クリムゾンリザードはチャージしていた火球を黒いなにか、レンとガルドに目掛けて放った。


チャージした火球がガルドたちを呑み込まんと唸りを上げる。ガルドよりも若干早く火球が放たれため、火球の方が先に着弾する。そしてそのままガルドごとレンを呑み込むだろうとクリムゾンリザードは勝利を確信していた、そのときだった。


「残念、それは俺じゃない」


不意に声が聞こえた。その数瞬後、クリムゾンリザードの視界に流星が、黒い流星が駆け抜けていく。


クリムゾンリザードが目を見開いたとき、黒い流星は、黒い流星として降り注いだレンはその勢いのまま、クリムゾンリザードの前脚を、切断した後ろ脚と同じ側である右の前脚にとミカヅチを一閃させて通りすぎた。


「……名付けて雷電一閃、はストレートすぎるかな?」


お茶らけるような言い方をしつつ、レンはミカヅチを振り抜いた。クリムゾンリザードの右の前脚がその根元から体を離れていった。そしてクリムゾンリザードの体は前脚とともに地面にと倒れ伏した。


「「獣波激震衝」!」


倒れ伏してすぐにクリムゾンリザードの頭上で雄叫びとともに爆発が起きた。


そこには焦げつきながらも斧を振り下ろしたガルドがいた。


ガルドはクリムゾンリザードの全身全霊のチャージした火球を両断したのだ。


その代償にガルドの体は大きく火傷を負っていたが、致命傷というほどではない。


「死ぬかと思ったぜ」


ガルドは人の姿に戻りながら腰を下ろした。まだ戦闘は終了していない。


だが、勝敗は決していた。


「勝負あったな、クリムゾンリザード」


レンがミカヅチを頭上に掲げると、まるでそうなるのが決まっていたかのようにミカヅチの刀身を鞘が覆った。鞘はいくらか赤熱していたが、すぐに形が崩れそうにはない。クリムゾンリザードは黒いなにかは鞘であったことを理解した。


真っ向勝負といっていいかはわからないが、勝者は立ち、敗者は這いつくばるという光景が広がっていることに変わらない。


クリムゾンリザードは負け、レンたちは勝った。その事実が確定した。ただそれだけのこと。


「俺たちの勝ちだ」


レンはミカヅチを突きつけながら言った。その一言にクリムゾンリザードは静かにまぶたを閉じた。


そうして最上階での死闘は、レンとガルドのバディの勝利という形で決したのだった。

明日も更新予定です。

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