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21話 油断なく

遅くなりました。

最近はなんか2日に1話更新になっているのが情けないですが、どうにか頑張ります。

ブレス。


本来の意味は呼吸ないし息吹という単語。


呼吸をするのはだいたいの種族で当たり前のこと。ゆえにブレスというのら本来なら当たり前の行為だった。


だが、ことドラゴンという種族において、ブレスは他種族における呼吸と同意ではない。ドラゴンにおいて、ブレスとはもっともな厄介かつドラゴンという種族を象徴する攻撃方法だった。


「来るぞ!」


ガルドの声とともにレンは大きく動いた。それまでレンがいた場所に向けて大きな火の玉が放たれたのだ。直径にしたら1メートル近い。そんな火の玉がレンが立っていた場所に放たれた。


火の玉は着弾と同時に大きな火柱を上げていた。その火柱はほんの数秒ほどで消えたが、火柱が上がった地面が結晶化していた。


「……これだからドラゴンという種族は」


レンは冷や汗が背筋を伝っていくのを感じていた。1発でも直撃したらそれだけで軽く死ねる威力はある。


その威力の攻撃が単なる呼吸によるものなのだから。レンとて他人事であれば乾いた笑みを浮かべていただろうが、これが他人事ではなくみずからに降りかかっているのだから、乾こうが乾いていなくても笑えるわけがない。


誰もが知っていることだが、ブレスはドラゴンという種族 であれば、当たり前のように所持しているであろう能力。そしてドラゴンの属性によって、ブレスにも様々な種類、様態がある。


例えばもっともポピュラーであろう火のブレスであれば、熱線だったり、火の玉だったり、と個体によって同じブレスという名称でも大きく異なる。


ただ共通しているのは、ブレスはドラゴンにとって当たり前の能力だが、他種族にとってはそれ事態が脅威となるということ。


他種族が同じように息を吹いたところで、様々な属性の塊が飛来してくることはない。


しかしその飛来するはずのないものが、現在レンやガルドに向かって牙を剥いていた。


「よし、しばらくは撃ってこないだろう!畳み掛けるぞ!」


「はい!」


「返事をする余裕があるなら、攻撃に集中しろ!」


クリムゾンリザードのブレスを回避すると、ガルドが反撃を指示した。レンはいつものように返事をしたが、かえって怒られてしまった。だが、ガルドの言い分が間違っているわけではない。


クリムゾンリザードはダンジョンのボスにしては、狩りやすい部類のモンスターだが、その強さはクリムゾンホワイトタイガーを超えていた。


クリムゾンホワイトタイガーはあくまでも、通常に出現するモンスターの中では「古塔」内最強のモンスター。


だが、ボスであるクリムゾンリザードには遠く及ばないが、それは種族の差による。


実のところ、クリムゾンリザードの位階は第2段階だった。本来なら第3段階のクリムゾンホワイトタイガーの方が圧倒的に強い。


しかしクリムゾンリザードは亜種とはいえ、ドラゴンだった。ドラゴンは基本的なスペックが異なるため、同じ位階では他のモンスターを超越している。ゆえにドラゴンは例外的に本来の位階よりもひとつ上の位階として判断される。つまりクリムゾンリザードは本来なら第2段階だが、その戦闘能力は第3段階相当、しかも第3段階でも上位の能力を誇っていた。


ちなみにクリムゾンホワイトタイガーも第3段階で、身体能力の高さは目を見張るものがあれど、肉弾戦しかできないことを踏まえると、第3段階でも下位の実力しかない。


むしろ第2段階の上位レベルと大差ない程度しかない。


レンがクリムゾンホワイトタイガーに勝てたのも、SSRランクのミカヅチを所持していたこととクリムゾンホワイトタイガーが第3段階でも弱い部類のモンスターだったからである。


そしてなによりも1番の要因は、レンが倒した個体はクリムゾンホワイトタイガーに進化したばかりであり、レベルが低かったということ。


クリムゾンホワイトタイガーに進化し、全能感に酔っていた状態、つまりは調子に乗ってしまっているうえにクリムゾンホワイトタイガーとしての戦い方を習熟していない状態だったということ。言うなれば、レンたちを格下だと思って侮り、自身を倒しえる脅威だと認識していなかったのだ。その油断と隙が彼の個体を死に至らしめた要因だった。


もっともそればかりはレンが知るよしもないことである。


そんなクリムゾンホワイトタイガーと比べて、クリムゾンリザードには油断はない。レンたちを脅威だと認識し、確実に討ち滅ぼそうとしていた。


実際、レンとガルドのバディとクリムゾンリザードとの戦いは一進一退の攻防を繰り広げていた。


クリムゾンリザードは狩りやすい部類のボスモンスターとはいえ、その強さは本物だった。


ドラゴン特有のブレスに加え、下手な金属よりも硬い鱗に覆われた体は、生半可な攻撃では通用しなかった。


ただし、クリムゾンリザードには致命的な弱点があった。それはクリムゾンリザードだけではなく、火属性のモンスターであれば弱点となりえるもの。


「「流水斬」!」


そう、水属性の攻撃だった。


クリムゾンリザードは火属性のモンスターの中でも致命的とも言えるレベルで、水属性の耐性が低い。いや、もう低いというよりも耐性など皆無なほどに水属性に弱かった。


ドラゴンの亜種の幼体だからなのだろうか、属性攻撃の耐性は火属性を除くと軒並み低く、特に水属性に対しては圧倒的に弱い。


その水属性の攻撃をレンとガルドは交互に使っていた。


レンは剣士の武術である「流水斬」を、ガルドは戦斧士の武術「水冷断」を、それぞれに放っては離れるというヒットアンドウェイを徹底していた。


それゆえにクリムゾンリザードはレンとガルドのバディを脅威の敵だと認識したのだ。最初はクリムゾンホワイトタイガーのように侮りがあったが、レンとガルドが徹底したヒットアンドウェイを繰り返した結果、HPの3割を削ることに成功した。


同時にクリムゾンリザードは、それまで使わなかったブレスを用いて攻撃を行い始めた。それも明らかにレンとガルドに向けて、ふたりの攻撃の隙を衝くようにしてブレスを放ったのだ。


それまでは、羽虫を追い払うように手足や尻尾を使って、まとめて薙ぎ払っていたのが、それぞれの相手の動きに合わせての迎撃を始めたのである。


ガルドはブレスを使い始めたクリムゾンリザードを見て、「本気になったぞ」と言った。


だが、本気になったところで戦法は変わらない。やることは決まっている。徹底的なヒットアンドウェイを繰り返し、クリムゾンリザードの攻撃を1度も貰わないつもりで戦う。


クリムゾンリザードの体は、レンたちヒューマンと比べると巨体だった。


そして巨体であるがゆえに、攻撃の隙が大きく、ひとつひとつの動きが鈍重なのだ。クリムゾンリザード自身は、全力で動いているのだろうが、レンたちから見たら、その動きは遅いとしか言いようがない。


だが、鈍重な動きであっても、その攻撃の威力は十分に脅威であるし、おまけにそれなりにタフな相手でもある。


いまは狩りやすいボスモンスターと言われるクリムゾンリザードだが、それはあくまでも他のダンジョンのボスモンスターに比べたらの場合であるし、必ず狩れるという但し書きがあるわけでもない。


あくまで狩りやすいというのは、勝率が他のボスモンスターに比べたら高いというだけ。そういう意味ではダンジョンのボスモンスター中最弱と言えるかもしれないが、片手間で勝てるボスではない。全力でそれぞれがそれぞれのするべきことを行うという前提での勝率だった。


将来的には片手間で勝てるプレイヤーは現れるだろうが、現時点では全力でぶつからねばならないモンスターであることは間違いない。


事実レンもガルドにも余裕などない。それぞれに攻撃と回避に意識を集中していた。


1撃でも当たったら、流れは一気に変わる。いまは一進一退の攻防となっているが、直撃はその流れを一気に傾きさせかねない。


もしレンとガルドのどちらかが魔法タイプであれば、もう少し楽にクリムゾンリザードと戦えただろう。片方がヘイトを稼いでいる間に、もう片方が魔法を使うというターン制バトルのような展開をえんえんと繰り返すだけでよかった。


だが、ふたりとも物理攻撃を主眼とするタイプであるため、自ずと接近しての攻撃を繰り返すほかない。


だが、それは相手の攻撃範囲にみずから飛び込んでいくようなもの。いわば自殺行為のようなものだ。その自殺行為をすれすれのところで回避しながらレンとガルドはクリムゾンリザードとの戦いを行っていた。


「来るぞ、ブレスだ!」


ガルドが叫ぶ。


クリムゾンリザードの口が大きく開き、大きな火球がまっすぐに放たれた。火球の着弾点はちょうどレンが立っている場所だった。


「また俺かよ!」


レンは舌打ち混じりに叫びながら移動をした。クリムゾンリザードの攻撃の大半は、ずっとレンに集中していた。


レンの方がわずかにだが、与えているダメージ量が多く、ガルドよりもヘイトを稼いでいたからだが、もし他に理由があるとすれば、クリムゾンリザードにとってレンが鬱陶しいということもあるだろう。


レンの攻撃は1撃1撃が軽いのだが、その軽い攻撃であっても1度に数発放たれれば、いくら頑丈な鱗に覆われていてもダメージは入る。


加えてレンは攻撃の際、ミカヅチに雷を纏わせているため、雷属性のダメージも入っていた。その雷属性のダメージが通り、クリムゾンリザードの体をわずか、ほんの一瞬だけ痺れさせているのだが、あまりにも一瞬すぎるため、レンもガルドもクリムゾンリザードが麻痺していることに気づいていない。


そんな物理と属性の双方の攻撃のダメージ自体はは大したことない。だが、鬱陶しさを感じるには十分な威力だった。


そのため、クリムゾンリザードはレンを一方的に狙い打ちしていた。


だが、狙い打ちしてもレンは圧倒的な速度で回避する。それがクリムゾンリザードをより苛立たせ、レンだけに過剰なほどの攻撃を加える要因となっていた。


「坊主、合わせろ!」


ガルドの声が聞こえた。レンは「はい!」と頷くと、「雷電」を用いて一気に加速し、最高速に達したレンはスピードを落とさないまま、「流水斬」をクリムゾンリザードの後ろ足にと放っていた。


クリムゾンリザードがうめき声をあげ、憎たらしげに目を細めたそのとき。


「俺を忘れたら困るな」


高々とガルドがジャンプをした。ジャンプしたガルドの体は「獣謳無刃」の効果により、合成獣の姿になっていた。


クリムゾンリザードがガルドを見つけたときにはすでにガルドは攻撃体勢に入っていた。両手斧を頭上に掲げてぐるぐると回転させていた。クリムゾンリザードは慌ててブレスの準備をしたが、それは悪手だった。


「俺を忘れんなよ!」


クリムゾンリザードの後頭部目掛けてレンは「流水斬」を放った。


完全に不意打ちとなったその1撃は、通常よりも多くダメージをクリムゾンリザードに与えていた。しかもその1撃でクリムゾンリザードのブレス攻撃は失敗し暴発した。


クリムゾンリザードの口から黒い煙が上がり、その体がのけ反った。そこにガルドの1撃が降り注いだ。


「獣波激震衝!」


ガルドの奥の手である「獣波激震衝」がクリムゾンリザードの後ろ足に、レンが攻撃したのと同じ足に放たれ、クリムゾンリザードの巨体を支えていた足が、地面に大きな音を立てて落ちた。同時クリムゾンリザードの口から大きな悲鳴が上がり、背中から地面に体を強かに打ち付けた。


すると鱗に覆われていない腹部が、クリムゾンリザードの弱点部位が露になる。クリムゾンリザードは後ろの片足を失い、うまく起き上がれないでいた。


「畳み掛けるぞ!」


ガルドの声にレンは返事ではなく、「流水斬」の1撃で以て応じた。それはガルドも同じで「水冷断」での1撃で応じていく。


ふたりはクリムゾンリザードが起き上がるまで、ひたすら弱点部位への攻撃を仕掛け続けた。クリムゾンリザードの口からは悲鳴のような叫ぶが上がり続けた。


やがてクリムゾンリザードは起き上がったが、そのときにはもう戦いの情勢は決まったも同然だった。


すでにクリムゾンリザードは虫の息同然。対してレンとガルドは疲労していたが、意気軒昂である。


「油断するんじゃねえぞ、坊主」


「わかっています」


肩で大きく呼吸をしながらレンとガルドはそれぞれの相棒を強く握りしめた。


クリムゾンリザードは、もともと鈍重だった動きをより緩慢とさせながら、ブレス攻撃を放とうとしていた。


それよりも早くレンとガルドはその懐に飛び込み、すれ違い様に1撃を入れていた。クリムゾンリザードの体がわずかに崩れた。


「あいつが息絶えるまで続けるぞ」


「はい!」


ガルドの言葉に返事をしながら、レンは油断なくミカヅチを構えたのだった。

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