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16話 協力者

遅くなりました←汗

あと今回はちょっと長くなりすぎたので、半分こにしています。

(──末恐ろしい子だな)


ガルドはまぶたをうっすらと開きながら、レンとクリムゾンホワイトタイガーの戦いを見守っていた。


現状は互角だ。


第3段階のモンスター相手にレンは互角で戦っている。恐ろしいことに第1段階のEKのままでだ。


レベルもおそらく高くはない。だが、圧倒的なプレイヤースキルで以て喰らいついていた。


端から聞いていたら、ガルドは「そんなことあるわけがねえだろう」と言っていた。


だが、その「あるわけがない」光景がいま目の前で繰り広げられていた。


(さすがは()()()()()()()()か)


ガルドの頭の中にあるのは、「武闘大会」で知り合ったテンゼンの姿。


「武闘大会」からまだ一月も経ってはいない。だが、一月もあれば親交を深めることは可能だった。たとえ、それが「死の山」に常駐しているプレイヤーとでもだ。


そう、ガルドは「武闘大会」が終わって間もなく、テンゼンを訪ねるために「死の山」にと単独で向かったのだ。


なぜ向かったのかはガルド自身もわからない。


たまたま掲示板で「個人部門の優勝者に似た子が「死の山」にいた」と、嘘か本当かわからない内容が書かれたのだ。


普段のガルドなら「ふぅん」としか思わないことだ。食指が動くはずがないことだった。


だが、気づいたときには「死の山」の情報を調べていた。


なぜそんなことをしたのかは、ガルド自身にもわからなかったが、なせが向かわなければならないと思ったのだ。


ただそれはあくまでもガルドがそう思っただけ。言うなればわがままであり、危険極まりない死地にまで、仲間を巻き込むわけには行かなかった。


ゆえに「ガルキーパー」も一時的な解散をすることにしたのだ。レンにはそれぞれで修行するためと言ってはいたが、実際はガルドのせいで解散しているだけ。


もっとも解散している間も、仲間たちがなにもしていないわけではない。それぞれに思うところがあり、それぞれにやるべきことをやっている。それぞれに修行しているするために解散しているというのは嘘だが、解散している間にそれぞれにたりないものを求めて行動していることはたしかだ。そしてそれを修行と言えば修行になる。言うなれば、理由は嘘になるが行動そのものは嘘ではないということだ。


そうして解散した結果、ガルドは「死の山」でテンゼンと立ち合いという名の模擬戦をゲーム内時間で7日間行ったのだ。()()()()()()()()となった。


とはいえ、ガルドはそれでテンゼンと互角だったという気はない。


(……どうにか勝率は半々だったが、ほぼ攻めこまれていたから、あれを勝ちとは言えねぇしな)


模擬戦の過程において、ガルドはテンゼンに一方的に攻め込まれていた。肉を切らせて骨を断つを実践するつもりはなかったが、そうするしかなかったのだ。そうする以外に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


それはテンゼンとてわかっていたことだろう。テンゼンが本気でヒットアンドウェイに徹していたら、ガルドは全敗を喫していたはず。


だが、テンゼンは徹底的に超接近戦しか仕掛けてこなかった。


普通にやれば、ガルドに勝つことは容易だっただろうに、勝ち方にテンゼンは拘っていた。きれいに勝つのではなく、泥臭かろうが勝つという意思をその姿からは感じ取れた。


最初は「舐めるなよ」と思ったが、超接近戦においてもテンゼンはガルドを圧倒したのだ。テンゼンの剣は光だった。1本の剣から無数の閃光が放たれて襲いかかって来ていた。その閃光に対応するだけでガルドにはやっとだった。


結果最初の模擬戦はあっさりと落とした。それからは戦法を変えた。相手が泥臭い方法で勝とうというのであれば、ガルドもまた泥臭い方法で望むしかなかった。それでようやく勝率が半々なのだから、テンゼンがどれほどに強いのかをガルドは痛感させられたものだ。


(あんな場所に常駐できるんだから、当たり前と言えば当たり前か)


ガルドは「エターナルカイザーオンライン」における最上位のひとりになる。


さすがに5本の指にまでは入らないが、10本の指には入る。弟分のバルドや盟友であるローズも上位プレイヤーだが、10指には至らない。


それでもバルドやローズもまた上位のプレイヤーであることには変わらない。だが、ふたりを以てしても単独行で「死の山」踏破はできない。だが、ガルドであれば可能だった。可能ではあるが、かなりギリギリだった。


(……さすがに何度も死に戻ると思ったが、運良くテンゼンさんに会えたからなぁ)


「獣謳無刃」を用いてギリギリなのだから、「死の山」という名称は、伊達ではないとガルドは何度も思ったものだ。


その甲斐あって、たまたま滝壺の洞窟を超えた先にいたテンゼンと出会えたのだ。


テンゼンはガルドが現れたことに驚いていたが、すぐに歓迎してくれた。


テンゼンが歓迎をすると、それまで鬼気迫る勢いだったモンスターたちもぴたりと敵対行動をやめてくれた。


それでようやく息が吐けたし、「獣謳無刃」を解除することができた。


それからテンゼンと話をした。その過程で模擬戦をすることになったのだ。どうしてそうなったのかは、ガルド自身さっぱりと理解できなかったが、格上の相手とやりあえるのであれば、なんの問題もなかった。


7日の間でテンゼンと時間の許す限り戦ったが、ずっと戦っていたわけではないのだ。


テンゼンの手伝いとしてガルドもホーラの栽培をしたし、お礼にホーラの葉を使った天ぷらを食べさせてもらった。


逆にガルドは手持ちのアイテムや食糧をテンゼンに分けた。大抵は街に行けば、いくらでも補充できる程度のものだったが、テンゼンは申し訳なそうに、だが、ありがたそうに受け取ってくれた。


テンゼン曰く「「武闘大会」の優勝賞金しかまとまった資金がないうえに、金策がないので困っていた」そうだ。


その理由については、すぐに理解できた。まず山の中で金策など早々あるわけもない。


テンゼンが育てているのは本ホーラ、現実で言うわさびだったが、まだ掲示板等でも発見されていないものだった。


だが、発見されたとなれば、当然採取に向かう生産職やその生産職から依頼されたプレイヤーが訪れることだろう。


しかし「死の山」はガルドでさえも、ギリギリな超高難易度ダンジョンだった。


その超高難易度ダンジョンに、裏山へ山菜を採りに行くような気軽さで来たら、死に戻りは必至だ。自殺志願者と言われても文句は言えない。


同じように生息するモンスターの素材もだ。現時点ではありえないレベルのモンスターの素材なのだ。誰だって喉から手が出るほどに欲しいだろう。


だが、採取目的の者同様にあっさりと返り討ちに遭うことは容易に想像できた。


商品になるだろう素材はあるが、その経緯を聞かれたらいつまでもごまかせない。


下手をすれば、一部の連中が情報の独占だと言いかねない。


ガルドからしてみれば、個々のプレイヤーが手に入れた情報を誰かと共有しなければならないという決まりがないのだから、独占したところで問題はない。


その情報が欲しければ、相応の対価を支払えばいい。資金でもいいし、レアアイテムでもいいし、匹敵する情報でもいいのだ。


それをなんの見返りもなしに「情報の独占だ」と言われても筋が通らないとしか言いようがない。


そしてテンゼンの場合は、筋ががどうだのこうだのと言える問題ではなかった。


場合によっては、死地に誘きだされただの、騙されただのと風評被害を受けるし、風評被害の果てに逆恨みをされる可能性だってある。


だがなによりも、静かな「死の山」に自殺志願者たちの悲鳴や断末魔が響き渡るのは、あまりにも不粋すぎた。


ゆえに金策にできるものはあれど、その後の問題のことを考えると、実行に移せないものしかテンゼンにはないのだ。


強さのわりに資金難というのは、なんとも世知辛いことだが、テンゼンの金銭面での事情は納得できることだった。


そんなテンゼンよりもはるかに格下の連中がこぞって宝の山を目指すというのは、ある意味皮肉だ。


だが、そんな志願者たちの相手をすることに、「死の山」のモンスターたちはもう飽き飽きしているとテンゼンは言っていた。


曰く「弱いもの虐めにしかならない」ということであった。


そのくせ、毎日のように来るから相手をするのが、面倒で仕方がないそうだった。


ただテンゼンはこうも言っていた。「ガルドさんには感謝しているみたいだよ。久しぶりに本気で戦うのに相応しい相手が来たと言っていたし」とテンゼンは笑った。「そいつは光栄だ」とガルドは笑って答えた。


自殺志願者たちとは違い、ガルドは強いと認めてもらえたのだ。「死の山」のモンスターたちと他ならぬテンゼン自身にもだ。


ガルドは10指に入るプレイヤーだが、テンゼンはそれ以上の強者だった。5指、いや3指にも手が届くほどのプレイヤー。そのプレイヤーに強いと認めてもらえて嬉しくないわけがなかった。


そうしてガルドはテンゼンと模擬戦をする中で、テンゼンといろんな話をした。時には模擬戦ではなく、口喧嘩もしたが、概ね仲良くできた。その最中でテンゼンの事情を知った。だが、あくまでもテンゼンが語れる範囲でのことなのだが。


その範囲で知ったのは、レンはテンゼンの妹ということと、テンゼンは()()()()()()()()()()()()()()()()()という二点だけ。


なぜテンゼンがレンを鍛えるのか、その理由までは教えてもらえなかった。ただテンゼンは「あいつには役目がある」とだけ語った。


その役目がなんなのかは当然わからない。だが、テンゼンはレンを鍛えるためなら何度だろうと斬ると断言したのだ。


ガルドから見てテンゼンは、レンを嫌っているわけではない。むしろ家族として愛していた。守らなければならない相手だと考えているようだった。


そのレンを斬る。それがどれほどの苦悩と決意に彩られた結果であるのかは、ガルドには想像することしかできなかった。


だからだろうか、ガルドは言っていたのだ。「俺にも手伝わせてくれ」と。


テンゼンは最初遠慮していたが、最終的に「では頼みたいことがある」と言ってくれた。その答えが眼前に広がっていた。


(点と点を結ぶことしかできない者と線を面にできる相手との戦いか)


レンとクリムゾンホワイトタイガーの戦いは言ってしまえば、一点集中型と多面的な戦法が取れる者の戦いとなる。


一点集中型ははまれば強い。だが、総合的に見たら、多面的な相手には及ばない。


レンのプレイヤースキルは高いが、それは全般的に高いわけではない。むしろ歪な形をしていた。


その歪な中で突出している速度関係だけは、レンとテンゼンは互角だ。


しかし他の面で言えば大きく劣る。


だが、一面だけとはいえ、テンゼンと互角に渡り合えるものがあるということは、素直にガルドはすごいと思う。


だが、その長所が「古塔」の中では、制限されてしまっていた。


もし「古塔」の内部が、だだっ広い平面となっていたら、おそらくクリムゾンホワイトタイガーはすでにレンによって狩られていた。


最高速度に差がありすぎるのだ。


そんなクリムゾンホワイトタイガーがレン相手に押しぎみで戦えているのは、レンの長所を封じているからだろう。


スペースがないと本領を発揮できないレンと、「古塔」の中での戦闘に特化したクリムゾンホワイトタイガー。


この場における強者がどちらなのかは、どちらが有利なのかは、もはや考えるまでもないことだった。

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