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14話 強敵出現

今日も遅くなりました←汗

「グルルルル」


曲がり角から現れたモンスターは虎型のモンスターだった。


エリアボスだったレッドタイガーに似ているが、いま目の前にいる個体の方が強そうだ。四肢は記憶の中のレッドタイガーよりも太かった。体つきもレッドタイガーを一回り大きくして筋肉を増量させたように、大きくそしてしなやかだった。


なによりも目を引くのは体の、毛皮の色の違いだ。


レッドタイガーは全身が赤かったが、目の前にいる虎型のモンスターの毛皮の色は赤と白のまだら模様だった。


「おめでたい色だなぁ」とレンも最初は思った。だが──。


「最初から、か。持っているのか、それとも運が悪いのか」


──前方にいるガルドが頭をがしがしと掻きながらも戦闘態勢に入ったのか、背中の筋肉を膨張させていく。ガルドの変化を見て、レンは警戒レベルを引き上げた。


エリアボスであるレッドタイガーよりも大柄な体を持ったモンスター。その強さはレッドタイガーよりも強いはず。そしてガルドが戦闘態勢に入ったことを踏まえると、「おめでたい」のはどちらなのかは容易にうかがい知れた。


レンは試しにと「鑑定」を使った。



クリムゾンホワイトタイガー 危険度C-



表示された結果にレンは目を見開いた。


「危険度Cって」


表示された結果は、名前は見た目通りのものだった。レッドタイガーよりも位階が上であるからか、「レッド」から「クリムゾン」にと変化していた。名前からして火属性ということなのだろう。漢字にしたら「紅白虎」というところ。「紅なのか白なのかはっきりしろ」と言いたくなるが、問題なのは名前ではない。その危険度だった。


エリア1のモンスターは強くてもEランク程度。エリアボスはそれよりも強くDランクだった。位階で言えば2。これはエリアボスだけではなく、Dランクの個体はすべてが第2段階ということになる。そしてCランクからは位階がまたひとつ上がる。つまり第3段階である。ただ-がつくということは、第2段階のモンスターよりも少し強いということになる。


「坊主。こいつはこの階で、いやこの「古塔」でもっとも強い種族だ」


ガルドははっきりと言い切った。「古塔」で最強のモンスターが入口近くで出現する。言うなれば村を出てすぐに魔王が待ち構えていたようなものだった。


もし現実でそんなゲームがあったら、誰もがはっきりとクソゲーと宣言することだろう。


だが、目の前にいるのはラスボスではない。「古塔」内で最強というだけ。


最初から最強に歓待されるというのは勘弁願いたいものだが、逆に言えば最強を打倒できるのであれば、「古塔」をクリアすることは可能であるということ。つまりは試金石にちょうどいい相手ということだった。


ただ試金石にしては、難易度が跳ね上がるにも程があるのだが、いまさらである。このゲームの運営が鬼畜であることはもう周知の事実である。そしてその鬼畜どもの思惑を乗り越えてやるという気概のプレイヤーが多いのだ。いや、そういう気概のプレイヤーたちが残っているという方が正しい。そしてレンもまたそのうちのひとりだった。


(いまわかった。あのゲームマスターの「ごめんね」ってこういうことだったんだ)


あのときは屋号を勝手に使われていたがゆえだと思っていた。


だが、クリムゾンホワイトタイガーの出現で理由はわかった。


(こいつをぶつけるからということだったんだろうなぁ)


ガルドの口調からして、真っ先にクリムゾンホワイトタイガーが現れるというのは、相当な低確率なのだろう。


だが、その低確率を自分が引き当てたことに違和感がある。なんとなくだが、このクリムゾンホワイトタイガーは運営、特にあの女性のゲームマスターが用意したのだとレンには思えた。


(……試金石を用意するのが、お詫びなのか?)


それは果たしてお詫びと言っていいのだろうか?と、レンは内心首を傾げながらも、目の前にいるクリムゾンホワイトタイガーを相手にするべく、ミカヅチを抜くと──。


「坊主!」


──ガルドの声が聞こえた。同時にすぐ目の前に紅いものが見えた。まるで炎のように紅いなにかがすぐ目の前にあった。


「ら、「雷電」!」


レンは慌てて高速移動スキルである「雷電」を使用し、三次元な動き、壁や天井を足場にしてガルドの背後にと移動した。移動しながら聞こえたのは、「ガチンっ!」というなにかが噛み合わさるような音。眼下を見やれば、クリムゾンホワイトタイガーが少し前までレンのいた場所で唸り声を上げていた。まるで獲物を見失ったかのように。


「危なかったな、坊主」


ガルドの背後に着地すると、ガルドが振り返らずに声を掛けてくれた。


振り返る余裕がガルドにもないのだろうとレンは思いながらも前を見やる。クリムゾンホワイトタイガーが姿勢を低くして、蒼い瞳を向けてくる。


「あいつ、どうやって俺のところに?」


「ちらっとしか見えなかったが、坊主同様に壁と天井を蹴って移動していたぜ。相変わらず面倒な奴だ」


やれやれとガルドがため息を吐く。その隣に立ちながら、レンは右半身を傾けるようにして剣先を体で隠すようにして下げて構えた。剣道で言う脇構え。奇襲に向いたものだった。ただし、剣先を後ろに向けているため即応には向いていない。だが、右側に刀があるため、攻撃は自然と無防備な左半身に集中しやすい。いわば誘いこむための構えである。


「へぇ、あいつ相手にその構えかい」


ガルドは呆れつつも感心したような顔をしていた。若干呆れの色が強いように見える。要はお前の攻撃はすべて受けきってやると言うようなものだ。それをクリムゾンホワイトタイガーという高速で三次元的な動きをする相手にしているのだから、呆れないわけがない。


「坊主は意外とバカだな。だが、嫌いじゃないぜ、そういうバカは」


ガルドが笑う。と同時にクリムゾンホワイトタイガーの目が鋭く細められた。挑発されていると判断したのだろう。

ダンっ!という大きな音を立てて、クリムゾンホワイトタイガーの巨体が消える。壁と天井を三次元的に移動していた。その動きは紅と白のまだらな軌跡を閉鎖空間に刻んでいく。


「ガルドさん」


「おぅ、叩き落としてくれ。トドメは必ず差す」


クリムゾンホワイトタイガーの動きに着いていけるのは自分だけだと判断したレンは、床に必ず叩き落とすからトドメを頼もうとした。


だが、ガルドはレンが語るまでもなく、レンの意思を読み取ってくれたようだ。


(これがバディとして初めての戦いなのに)


まるで昔からの相棒であるかのように、ガルドはレンの意思を読み取っていた。であれば余計な言葉はいらない。


「頼みました」


「おぅ、そっちも頼んだぜ」


ガルドの言葉に頷こうとしたとき、レンとガルドのどちらにも直撃するコースでクリムゾンホワイトタイガーが突撃してくる。


レンは「はい!」と頷きながら、「雷電」を使用し、クリムゾンホワイトタイガーと同様に三次元的な移動を始めた。ガルドはその場で転がるようにしてクリムゾンホワイトタイガーの攻撃を避ける。


クリムゾンホワイトタイガーは、レンたちに避けられるとすぐさま方向転換をすると、ダンっ!と力強く地を蹴っていた。その狙いは──。


「……まぁ、俺になるよな」


──クリムゾンホワイトタイガーの狙いはレンに向けられた。動きの遅いガルドよりも、自身の攻撃を避けたレンを、自身と同じ速度で動くレンを先に仕留める。ガルドはレンを仕留めた後で、ゆっくりと料理すればいいとクリムゾンホワイトタイガーは考えたのたろうとレンは予測していた。


「高速機動戦、か。同じ発想になったな」


レンがクリムゾンホワイトタイガーを上回って叩き落として、ガルドが仕留めるというのがレンたちの作戦だった。


方向性は異なるが、過程と結果は同じようだった。


つまり両者ともに高機動戦の勝敗がそのまま決着となることを考えているのだ。


レンとしては退く理由はない。後ろにはガルドがいる。まだバディを組んだばかりだが、これ以上となく信頼できる相手だ。それこそタマモやヒナギクと変わらないほどに。なによりも──。


「……同じ土俵での真っ向勝負で負けてられないんだよ」


──強くなるためには、兄の背中に手を届かせるためには、こんなところで負けるわけにはいかない。レンはクリムゾンホワイトタイガーを見やりながら、頭の中で兄テンゼンの動きと比べていた。


(……わかっていたけど兄ちゃんは、こいつよりも強い。あの人なら初撃で俺を仕留めていた。でもこいつは仕留めなられなかった。その時点でこいつは兄ちゃんよりも弱い。その兄ちゃんに勝つためにはこんなドラ猫なんかに負けていられないんだ)


頭の中のテンゼンとクリムゾンホワイトタイガー、いや、レン曰くドラ猫とでは動きがまるで違う。


兄であれば、兄の攻撃が肉薄していたら、あの時点で負けていた。一太刀で斬られていた。


だが、レンはまだ生きている。それはドラ猫が兄に及ばないからだ。


兄に及ばない相手に勝てなくて、どうして兄に勝てるのか。いや、勝てるわけがない。


(だからこそ負けられないんだ)


兄の真意はわからない。


そもそも兄のことがレンにはわからなくなっていた。


優しかった昔の兄といまの兄は、まるで別人であるかのようである。


だが、それでも兄が兄であることには変わらない。


その兄を超えるためには、ここで負けるわけにはいかない。


こんなところで負けていいわけがないのだ。


(俺は負けない!)


レンは闘志を燃やしながら、「雷電」での移動を始めた。クリムゾンホワイトタイガーもまた高速機動を始めていく。


そうして奇しくも「古塔」内という閉鎖空間における三次元的な高機動戦が始まったのだった。

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