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11話 バディ

遅くなりました&昨日は更新できず、すみません←汗

「──まぁ、いろいろと妙なことがあったが、久しぶりだな、レンの坊主」


「はい、お久しぶりです、ガルドさん」


違法営業していた店主ことカネルの粛清が終わり、レンはガルドとともに屋台にいた。


ちなみにカネルの屋台は、カネルがいなくなっても存在していたが、それもいまや取り壊されてしまい、跡形もなかった。


取り壊したのはNPCと表記されたゴーレムだった。


NPCとわかるまでは、村の中は騒然としていた。モンスターが出現しないと前提が、突如として否定されたのだから、騒然としないわけがなかった。


ただそれもゴーレムがNPCとわかるまでの間ではあったのだが。


ゴーレムがNPCだとわかったのはひとりのプレイヤーが「鑑定」を行ったからだった。


だが、その「鑑定」にしてもわかったのはゴーレム種という種族だけであとはなにもわからなかったそうだ。


しかも、それだけで「鑑定」がレベルアップしたそうだ。その一言にほかのプレイヤーもみな一様に「鑑定」を行った。


レンもそのひとりであり、「鑑定」した結果はスクリーンショットで保存していた。




ゴーレム種以降鑑定不能




ほんの一文だけだったが、その結果だけで、そのゴーレムがはるかに格上であるということだけはわかった。


それ以外でわかったのは見た目くらい。


そのゴーレムは全身が黒かった。アルト周辺にはゴーレムは出現しないが、「ベルス」のある第2エリアからはゴーレムは出現する。


だが、「ベルス」周辺に出現するゴーレムはアイボリー、クリーム色を薄めた白であるため、件のゴーレムと明らかに別物だった。


そもそもそのゴーレムは第2エリアでも下から数えた方が早い程度の強さのモンスターであり、「古塔」にたどり着けたプレイヤーであれば、単なるカモにしかならない。なにせ動きは鈍く、攻撃力は普通、防御力はそこそこだが、圧倒的に魔法に弱い。それこそ下級の魔法ひとつでHPバーの大半を奪えるのだ。重装備のタンク系プレイヤーがヘイトを集めている間に、魔法使い系プレイヤーが一発お見舞いすればいいというお手軽に討伐が可能なモンスターだった。


そのうえ鴨が葱を背負うかのごとく、ドロップアイテムがわりと高値で取引されている。そのドロップアイテムは「石灰石」で、「ベルス」ではわりと重宝されているが、基本的にはそのゴーレムからしか入手できないため、第2エリアのモンスターのドロップアイテムの平均よりも高い1000シル程度で売れる。そのうえ、ドロップ率もそれなりに高く、10回戦闘して6、7個は入手可能である。リアルラック次第では毎回入手できる可能性もあるが逆に10回中0個という可能性もなくはない。


だが、仮に連戦してもそこまで消耗も大きくないうえにドロップ率の良さから金策目的に狩られてしまうモンスターの筆頭と数えられている。


そんな悲しきゴーレムとは違い、件のゴーレムは全身が真っ黒だった。それもただ黒いのではなく、艶のある黒さで、どこか品を感じられた。その見た目から、「漆黒のゴーレム」というそのまんまな異名が付けられているが、掲示板でもほかに目撃証言はなく、NPC表記がされていることもあり、通常ではエンカウントしない特殊なモンスターではないかと推測されていた。


もっとも通常にエンカウントしたとしてもゴーレム種であることしかわからないのだから、相当な格上であることは間違いない。


それこそまだリリースされて3ヶ月も経っていない現状では、相手にさえならないほどの強敵であることは間違いない。


もっともそんなことは誰もがわかっていることだが、未知の強敵相手に想いを馳せるというのもプレイヤーとしての性なのかもしれない。


そんな未知のゴーレムにより解体されたカネルの屋台跡には、もうすでに別の屋台が経営を行っている。レンとガルドが利用している屋台から見ると、目と鼻の先にある屋台で、メニューはもつ煮込みひとつだけのようだが、一部のプレイヤーからは受けているようで静かな賑わいを見せている。


(「武闘大会」のときにもああいう屋台がいたなぁ)


「武闘大会」では、「タマモの屋台」が人気店になっていたが、その裏で「もつ煮込み」の屋台も人気があった。


哀愁漂う大人のプレイヤーに絶大な人気のある屋台であり、タマモやヒナギクも「美味しそう」と言うほどの店であった。


その件の屋台を想わせる屋台がすぐ目の前で営んでいる。値段も300シルとカネルのキャベベ炒めよりもはるかにリーズナブルであり、醤油ベースの美味しそうな香りを漂わせていた。


「あの屋台のもつ煮込みって美味しそうですね」


「あぁ、あそこは「武闘大会」でもわりと人気があったからなぁ」


「え、じゃあ」


「おう。タマモの嬢ちゃんの屋台と同じく、レッドボアの肉を使わずに、独自路線を突っ走った、あの屋台だよ」


ガルドが笑った。その言葉にレンは思わず屋台を二度見する。たしかにあのもつ煮込みの屋台とそっくりだが、細部までは見ていないので詳しいことはわからない。


ただ、あの屋台と同様に立ち食い専門だなぁとは思っていたが、まさか同じ屋台だとは思ってもいなかったので、レンは少し驚いていた。


「ちなみにあの屋台の店主は「おやっさん」というプレイヤーなんだが、タマモの嬢ちゃんのことは誉めていたぜ?」


「え?タマちゃんをですか?」


「おう。まだ若いのに、大した腕前だとな。加えて流行りに乗らずに、自分の道を突っ走る姿に感銘を受けたとも言っていたなぁ」


ガルドは屋台で注文した串焼きをひとつ頬張った。レンも同じものを食べているが、口の中で広がる肉汁がなんとも言えない。だがガルドはもの足りなさそうな顔をしていた。


「あぁ、おやっさんのもつ煮込みが食べてえな」


「買って来ますか?」


「いや、おやっさんのもつ煮込みを食べたら酒も飲みたくなるから、いまはいい」


そう言いつつもガルドの視線は、もつ煮込みの屋台に注がれていた。レンは苦笑いしつつも、ガルドのオンオフをきっちりとしているところを素直に「すごい」と思っていた。


オンオフの切り替えというのは、なかなかに難しいことだが、それをガルドはあっさりとやってのけている。社会人としては当然かもしれないが、その当然ができない者もいると言えばいるのだ。その点ガルドはきっちりと行っており、素直に尊敬できることだ。が、そのこととこれからのことは話が異なる。


「それでガルドさん」


「うん?」


「俺に話があるとのことでしたが」


そう、レンがガルドと屋台で食事をしているのは、カネルの騒動が終わった後に、ガルドから話があると言われたがためである。


最初は件の女性プレイヤーたちに囲まれていたのだが、その囲いにガルドは突撃したのだ。相当な覚悟がなければできないことであり、すなわち相当な用事がガルドにはあるということだった。


「あぁ、そのことか」


ガルドはいくらか躊躇しているようだ。まだ話せる段階ではない、というよりもまだ言葉を纏めている段階なのだろう。


仕方がないか、とレンは助け船を出すことにした。女性プレイヤーたちから助けてくれた礼代わりになるだろうと思いつつ、とりあえず、元の会話に戻すことにした。


「おやっさんという人に比べて、あの人だいぶダメでしたね」


「そうだなぁ。まぁ、おやっさんと比べる方が間違いと言ってもいいかもしれんなぁ」


ガルドは申し訳なさそうにしつつも、話に乗ってくれた。レンはガルドに向かって笑いかけつつ頷いた。


「ガルドさんの話を聞く限りでは、おやっさんという人は相当の凄腕ですね」


「そりゃそうさ。あの人のもつ煮込みはもはや人生と言っても過言ではない」


「人生ですか」


だいぶ大きく出たなとレンは思ったが、ガルドは気にすることなく続けていく。


「おうよ、あの人のもつ煮込みがあれば俺は頑張れるのさ。そしてそのもつ煮込みに込められた想いを感じつつ、俺はまだまだだなと思うのさ。だからこそ頑張らなきゃならんと思うんだよ。ゆえにあの人のもつ煮込みは人生だな」


しみじみと呟くように言うガルド。ガルドにそこまで言わせるもつ煮込みとは、どういうものなのか、レンは気になってしまったが、そのおやっさんの屋台はすでに行列ができており、いまさら並んでも遅そうだった。


残念だなぁと思いつつも、レンは続けた。


「それにしても、そんなおやっさんに比べてあの人は雑でしたね」


「雑というか、杜撰かな?レンの坊主のこともわからないというのは、かなりお粗末だったしなぁ、あいつ」


ガルドはため息混じりに言った。あいつというのが、勝手に「タマモの屋台」の屋号を使っていたカネルのことであるのは明らかだった。


実際レンも拍子抜けするほどにお粗末さであり、かえって罠ではないのかと思うほどだった。


掲示板で調べれば、「フィオーレ」のことはすぐにわかるはずなのだが、それさえもしていなかったようだ。


偽装という言葉を使うのも憚れるほどに、雑な経営をしていたようだった。


むしろあれでよく「タマモの屋台」の屋号を使おうと思ったものである。


「タマモの屋台」を知っているものであれば、すぐにわかってしまうほどに、違いがありすぎていたのだ。あれを以て杜撰と言わず、なにを杜撰と言えばいいのかさえもわからない。


「……こちらが言葉を失うレベルでしたからね」


「おう。言い訳も見苦しいレベルだったしなぁ。本人はあれで言い逃れられると思っていたのかもしれんが」


「逆に尻尾を掴まれていましたもんね」


「まぁ、あれはレンの坊主のファンである、あの姉さんたちの勢いゆえにだろうけどなぁ」


「……あー」


なんと言えばいいのかわからなくなるレン。だが、ガルドの言うとおりレンのファンである女性プレイヤーたちの勢いがあってこそというのは納得できるのだ。レンもガルドもカネルの杜撰さに閉口していたのだ。


もしあの場に女性プレイヤーたちがいなければ、カネルの妙な自信溢れる姿に押しきられた可能性もなくはない。


むしろそうやって押しきってきたからこそ、いままで経営してこられたのではないかと思える。


もっとも今回ばかりは相手が悪すぎたのだろうが、実際のところはわからない。わかるのはカネルだけだろうが、そのカネルはアカウントの凍結処理をされてしまっている。それも期限なしでだ。要は事実上の引退勧告をされてしまったということだった。


「幾ばくかの疑問は残るが、まぁ、賽は投げられたわけだから、もうどうしようもねぇわなぁ」


「そう、ですね」


カネルの凍結処理に至るまでの流れがあまりにも速すぎた。それもまた幾ばくかの疑問のひとつである。レン個人としては、ゲームマスターの視線もまた気になることではあるのだ。


気になりはするが、それはあくまでもレンの感覚ではだ。

ガルドや他のプレイヤーに言っても納得してくれるかはわからなかった。


(もしかしたら勘違いかもしれないし)


そう、ゲームマスターの視線はレンの思い違いという可能性も十分にある。


ただ最後の「ごめんね」に関しては、実際に言われたと思う。


だが、それを前提にすると、ゲームマスターはやはりレンを見ていたということになる。


逆に思い違いだと考えると、最後の「ごめんね」はどういうことなのかということになる。


どちらを前提にしても矛盾が生じてしまうし、かと言ってゲームマスターに見つめらる理由がレンには思い付かなかった。心当たりがなにひとつとてないのだ。


強いて言えば、カネルの対処が遅れたせいで迷惑を掛けられたからということくらいだろうか。


実際にゲームマスターは「後手に回っていた」と言っていたので、可能性としてはありえなくない。


だが、それにしてはカネルへの処罰はあまりにも速すぎた。それこそ元々そう決まっていたのではないかと疑いたくなるほどにだ。


だが、それは推測にしかすぎない。いや、いま考えているすべてが推測にしかすぎないのだ。そのうえで事実はカネルのアカウントが無期限の凍結処理をされたということだけ。それ以上もそれ以下もないのだ。ただ幾ばくかの疑問を残しているが、ガルドの言うとおり賽は投げられたのだ。もうなかったことにはできない。


「……まぁ、あの野郎のことはいいとしてだ。なぁ、坊主」


ガルドの表情が真剣になった。来たかと思いつつ、レンは続く言葉を待った。


「はい?」


「唐突なんだが、俺とバディを組んでくれねえか?」


ガルドの言葉はまさに唐突であり、レン自身予想もしていなかったものだった。

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