9話 営業妨害?
ん~、間に合わなかった←汗
というわけで、日中にもう1話上げます、たぶん←
今回は偽装ですね←エ
「ベルス」から真北にある「紅き古塔」への道のりを進むレン。
遠目にモンスターの姿は見かけても、そのモンスターに襲われることはなかった。近寄っては来るのだが、一定以上の範囲からは踏み込んでこなかった。
「古塔」までの道にはなにもなかったが、モンスターと戦うことなく、その姿を観察することはできた。
虎やライオンなどの肉食系のモンスターやウサギや鹿といった草食系のモンスター、中にはレンには見慣れたリトルビートルやリトルボールバグなどの甲虫系のモンスターの姿も見受けられた。
その様子はさながらサファリパークのようだった。移動は車ではなく徒歩という本来のサファリパークであれば、ありえない移動方法だったが、本来のサファリパークよりも安全にモンスターたちの姿を観察することはできた。
もっとも甲虫系のモンスターは、人によっては受け付けないようで敬遠されていたため、人だかりはなかった。
もっぱら人気だったのは、ウサギたちで、互いに毛繕いをしている、ほんわかとした光景だった。そんなウサギたちを密かにライオンが狙っていることに気づいたときは、「ウサギさん、逃げてぇ!」と誰もが叫んでいた。
特に声が大きかったのは、腹に一物を抱えたプレイヤーたちことPKたちであり、顔を真っ赤にして叫んでいたのが、とても印象的だった。その後ろでPKKが「本当になんでこいつらPKなんてしているんだよ」と、いまにも死にそうな顔で呟いていたのが、やはり記象的だった。
ちなみにウサギたちは、後ろ足からの蹴り一発でライオンを撃退したのだが、その光景に叫んでいたプレイヤーたちが揃ってスタンディングオベーションをしていた。PKたちに至っては号泣し、PKKは「もうやだ、おうち帰る」と言い出していた。
そんな面白おかしい道中を経て、「古塔」にたどり着いたレン。
正確には「古塔」の麓にたどり着いたのだ。「古塔」は遠くから眺めていたときには見えていたため、わかっていたことではあったが、近くから見上げるととても高かった。
それこそ麓から見上げると、首が痛くなるほどには。
そんな麓に立ち尽くしつつ、レンは視線を正面にと下げた。
「さぁさぁ、「古塔」に挑戦する前にうちで買い物していってくれ!ロープから食糧までなんでもござれだ!」
「防具に関してはうちがここいらで一番だよ!「古塔」のモンスター素材で作った逸品揃いだ!」
「「古塔」に挑戦する前に景気付けの一杯はいかがですか!?お通しに自家製マヨネーズで和えたマカロニサラダもつけちゃいます!もちろん、未成年者用のジュースやほかのおつまみも各種取り揃えていますよー!」
「なんの、うちは──」
「いやいや、うちなんて──」
「古塔」の麓は活気に満ち溢れていた。「ベルス」の大通りを切り取ったかのような、雑多とした賑わいを見せている。
「賑わっているなぁ」
「古塔」の麓にはよろず屋もあれば、工房直結の商店や立ち飲み屋、宿屋やしまいには民家さえあった。
プレイヤーメイドの店や民家が立ち並ぶ姿はたしかに小さな村のようだ。
敷地的には街のように広くはない。ただそこそこの大きさはある公園くらいか。
その公園くらいの敷地の中央部に「古塔」は建っていた。いや、「古塔」を中心にしてその周囲に村が形成されたという方が正しいだろうか。
よく見ると、村の入り口には「ようこそ、ビレッジオブクリムゾンへ」と書かれた立て看板があった。
「……ビレッジオブクリムゾン」
悪くはないネーミングだなと思うレン。この場にヒナギクやタマモがいたら、「ぇ?」と言葉を失ってしまうだろうが、残念ながらレンは本気である。
そんな残念なレンと同じ感性なプレイヤーは、わりと多いようで皆「うんうん」と頷いているのが、なんとも言えない。
そんな「ビレッジオブクリムゾン」に突如として怒鳴り声が響いた。
「おいおいおい!てめぇ、ふざけてんのか!?」
いきなり聞こえてきた怒鳴り声は、活気を文字通りに掻き消してしまった。
「なんだろう?」と思いつつ、レンは声の聞こえた方を見やる。
声の聞こえた方には一軒の屋台が見えた。その屋台はわりと客が入っているようで、村の中ではかなり繁盛しているらしく、客に次々と料理を提供していた。
ただ客の表情はなんとも微妙そうだった。人混みゆえに並んでしまったというよくある失敗なのだろう。
そんな屋台の前で体格のいい男性プレイヤーが仁王立ちし、しかめっ面を浮かべていた。
「な、なんですか、あなたは!?」
屋台の店主らしきプレイヤーが慌てていた。見た目だけを言えば、屋台にいちゃもんをつけている性質の悪いプレイヤーとその被害者というところ。
だが、屋台に近づくにつれて、男性プレイヤーがクレーマーではないことにレンは気づいた。そして男性プレイヤーが怒鳴った理由もまた。
「「タマモの屋台~ビレッジオブクリムゾン支店~ 」?」
その屋台の屋号を見て、レンはあんぐりと口を開けていた。
「タマモの屋台」はタマモがみずから経営する屋台の屋号である。そのまんまな屋号であるが、タマモがひとりっきりで始めた屋台であり、レンとヒナギクがタマモと知り合うきっかけとなったものだ。
その屋台がなぜこんなところにあるのか。それも見覚えのないプレイヤーが屋台を経営しているのだろうか。
(うさん臭ぇなぁ)
レンはタマモから支店を出すとは一言も聞いてはいない。
そもそもヒナギクから許しを得ていないはずなのに、支店を出せるわけもない。
(とりあえず、話は聞かせてもらおうかな)
頬がひきつるのを感じつつも、レンは大股開きで屋台に近づくと、メニューを見た。屋台のメニューは「キャベベ炒め」だけ。そこは本家と同じだ。ただし値段がおかしい。
「……キャベベ炒めが1000シル?」
そう、キャベベ炒めの値段が1000シルとある。本家の5倍もの値段となっていた。
「なぁ、この値段はどういうこと?」
レンは男性プレイヤーに絡まれている店主に尋ねた。店主は「は?」と首を傾げるが、すぐにニコニコと笑った。
「え、えぇ、これはですね!タマモ総料理長のご指示でして」
「総料理長?」
「はい!先日の「武闘大会」において大活躍した「フィオーレ」のマスターであるタマモ様のことです。私共弟子はあの方を総料理長とさせていただいておりまして」
ニコニコと笑いながらあからさまなことを言い募る店主。この時点でもう完全にアウトだが、とりあえず、話だけは聞いてあげることにしたレン。こめかみに血管が浮き出ていることは、自分でもわかるほどなのだが、目の前にいる店主はそのことに気づいてもいない。
すると後ろからため息が聞こえた。振り返ると例の男性プレイヤーが呆れていた。その顔には「相手の顔くらいは覚えておけよ」と書かれているのだが、そのことにも店主は、気づいていない。この場を乗り切れるというわけのわからない自信を抱いているようだった。
「それで、その総料理長様が1000シルなんて吹っ掛けた値段にしたわけ?」
ちらりと屋台周辺で食事をしているプレイヤーたちのキャベベ炒めを、キャベベの葉の部分だけではなく、芯の部分も使ったキャベベ炒めを見やるレン。そんなレンの視線に気づくことなく、店主は表情をしかめていた。
「吹っ掛けたとは失礼ですな。いいですか、このキャベベ炒めは厳選した素材を、総料理長みずから仕入れられているわけです」
「キャベベを仕入れる?」
「それがなにか?調理には材料が必要です。そのためには仕入れが必要なのは子供でもわかることでしょう?」
店主は「こいつバカなのか?」と言わんばかりに、表情を歪めていた。「バカはお前だよ」と言いたくなるが、ぐっと堪えて続けていく。
「……自家製栽培とかはしないわけ?」
「なにを仰るかと思ったら、そんな面倒なことをわざわざするわけがないでしょうに。たしかに自家製栽培であれば、材料費はほぼかからなくなりますが、そんな面倒なことをせずに仕入れた方が楽ではないですか」
「わかっていないな」とあからさまなことを顔に書きながら、店主は頭を振る。「わかっていないのはどっちだよ」と思いながら、レンはもうひとつ確かめることにした。
「……弟子と言うのであれば、その総料理長がなんで屋台を開いたのかは知っている?」
「そんなのは稼ぐためでしょうに。それ以外で屋台を開く理由などありますまい?」
「やっぱりこいつはバカじゃないか?」と店主は完全に呆れていた。それはレンのセリフであるのだが、もういまさらである。
「……ここまで来ると、もう怒る気力もなくなるなぁ」
やれやれと後ろからため息が聞こえてくる。男性プレイヤーもまたレンと同じ気持ちなのだろう。男性プレイヤーには、そこまで詳しい事情を話してはいないが、だいたいは察してくれていた。ゆえに目の前にいる店主のとんちんかんな答えには頭痛しかしないだろう。
とはいえ、店主の言っていることは決して間違いではないのだ。そう、普通であれば正しいことだった。
自家製栽培よりも仕入れた方が手っ取り早いということもそうだし、屋台を開くのは資金を稼ぐためという答えになるのは、ある意味当たり前なのだ。
ただ、値段だけは頷けない。
キャベベ自体は高い野菜ではないのだ。タマモが農業ギルドに卸しているキャベベが、農業ギルド内では、一玉120から180シル程度で売られていることをレンは知っていた。
卸し値はその3割から4割ほどで、そこまで稼げる野菜ではないのだ。
だが、農業ギルドには世話になり続けていることもあり、タマモはいまも農業ギルドに大半のキャベベを卸しているが、それは置いておこう。
とにかく、キャベベはそこまで高い野菜ではないため、いくら厳選しているからとはいえ、一皿1000シルもするというのはさすがにありえない。
加えて厳選しているというのであれば、使う部位もきちっとしておくべきだろう。
少なくともキャベベの芯を使ったキャベベ炒めなどを、タマモは客に提供などしない。提供したとしても芯を細かく刻んだうえでちゃんと説明するだろう、この店のように芯ばかりのキャベベ炒めなど提供するわけがない。
「さっきからあなたはなんなんですか?営業妨害はやめてほしいのですが」
店主は鼻息を荒くして言った。営業妨害などよく口にできるなぁとレンは思う。後ろの男性プレイヤーなど頭を痛そうに押さえる始末だ。
だが、そんな反応を見ても店主は理解していない。自身の目の前にいるのが誰であるのかがわかっていないようだった。
「営業妨害ねぇ。よくまぁそんなふざけたことを言えますね?」
「ふ、ふざけたこととはなんですか!私は総料理長の一番弟子で──」
「タマちゃんに弟子なんているわけねぇだろうが」
「は?タマちゃん?」
誰のことを言われたのか理解できていないでいる店主に、レンはため息を吐きつつも、はっきりと言ってやろうとした、そのとき。
「あ、あー!れ、レン様だぁぁぁぁぁーっ!」
不意に黄色い悲鳴が聞こえてきた。
次回決着です。




