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初めてのバレンタインデー その1

昨日は更新できずすみません。

今日から3日間は特別更新となりまして、バレンタイン編となります。

主役はアンリです。

が、だいぶおかしなテンションですので、それでも大丈夫な方はどうぞ。


はじめに。


・時系列がおかしいです。

・テンションはだいぶおかしいです。

・初々しいけど、方向性がやっぱりおかしいです。

・受難するのはいつものようにタマちゃんですが、そこは別におかしくないです。だって受難と書いて「愛される」と読みますので←

・こまけぇことはいいんだよ!と言われる方は私と握手しましょうか←


以上すべてがオールグリーンな方はお読みください。なお、用途用法用量はただしk(ry





「──ばれんたいん、ですか?」


年が明けてから1ヶ月と少し。


寒さが身に凍みるような日々をいつものように過ごしていたアンリは、100年近い日々で初めて聞く単語をその日耳にすることになった。


「うん。その様子だと知らなさそうだね?」


バレンタインを教えてくれたのは、名実ともに「フィオーレ」の陰の支配者であるヒナギクだった。


そのヒナギクの言葉にアンリは「はい、初めて知りました」と頷いた。ヒナギクは「そっか」とまぶたを閉じつつ、うんうんと頷いていた。


「よし!じゃあ善は急げだね!」


だが、急にまぶたを開くと、輝かんばかりの笑顔でサムズアップしてくれた。いきなりのヒナギクの変化に戸惑いを隠せず、「ふぇ?」と自身でもおかしな声だなぁと思う返事をしてしまうアンリ。


しかしヒナギクはそれで止まらなかった。


「うんうん、やっぱりアンリちゃんも女の子だし、バレンタインは情熱を燃やさないとダメだよね!」


「え、あ、はい。そう、ですね?」


「うんうん。じゃあ行こうか!」


「は、はい。承知いたしました?」


ヒナギクの言葉の意味を理解できず、首を傾げたまま頷くアンリ。そんなアンリの両肩を掴みながら、なぜか凄みのある笑みを浮かべるヒナギク。そんなヒナギクの勢いにアンリは負けてしまった。


もっともアンリがヒナギクに勝つことはほぼ不可能である。


唯一の可能性があるのは、頭を撫でてもらっているときの「ふにゃぁ~」となっているアンリくらい。


「ふにゃぁ~」となっているときのアンリは、ヒナギクでさえも勝てない。「く、かわいいな!」と言って顔を真っ赤にして反らさずにはいられないのだ。


もっとも「ふにゃぁ~」となっているときのアンリに勝てるものはほとんどいない。アンリが「旦那様」と慕うタマモでさえも、「ふにゃぁ~」となっているアンリには敵わないのだ。


敵わないと言ってもつよいというわけではなく、愛らしさの前に撃沈することになるだけなのだが、どちらにしろ「ふにゃぁ~」状態のアンリには「フィオーレ」内で勝てるものはいない。


だが、いまアンリは「ふにゃぁ~」となっていないため、ヒナギクの押しの強さには抗うことはできなかった。抗えないまま、ヒナギクに引きずられる形で、「フィオーレ」本拠地のログハウスを後にした。


(結局ばれんたいんとは、なんなんでしょうか?)


引きずられながらも、バレンタインがなんであるのかをアンリは考えていたが、その答えはアルトの街中に向かうまで出ることはなかった。


アルトの街中に出ると、街中には「バレンタインデーフェア」という垂れ幕が至るところに掛かっていた。


よく見ると街中を行き交う人々は、チョコレートが詰まった紙袋を持っていた。それも女性ばかりだ。紙袋を持つ女性は様々だった。若い女性もいれば、幼い少女もいるし、髪の毛が真っ白になった老婆もいるのだ。


ただ誰もがどこか嬉しそうに、そしてどこか緊張した面持ちでチョコレートが詰まった紙袋を抱えていた。その姿は不思議とキラキラとしていた。


そんな女性たちを男性たちはなぜかそわそわとした様子で、その光景を見守っている。


中にはどんよりとした表情を浮かべて、小石を力なく蹴る男性もいる。いや、むしろそういう男性がわりと多い。比率的には6対4くらいだろうか。


「あぁ、夢がほしいな」


ひとりの男性がひどく落ち込んだ様子で呟いていた。


よく見ると、目から光がなくなっており、いまにも路地裏の闇と同化しそうなほどだ。


だが、闇と同化しそうなのは、その男性だけではなく、どんよりとした様子の男性たちは大なり小なりそういう雰囲気を纏っていた。


なぜそんな落ち込んでいるのかがアンリにはわからない。わからないが、 その姿は哀愁を漂わせており、声を掛けるのは憚れた。


「……あの方々はなぜ哀愁を漂わせておいでなのですか?」


「……チョコレートを貰える予定がない、からだね」


アンリの問いかけにヒナギクは顔を反らしつつも答えてくれた。


だが、アンリは言われている意味がよくわからなかった。


「チョコレートを貰えないのは、ダメなのですか?」


「……いや、ダメというわけではないけども」


なんて言えばいいのやらとヒナギクは、言葉に詰まっているようだった。だが、アンリにはヒナギクの言いたい意味がよくわからなかった。


「聞いてきてもよろしいでしょうか?」


「いや、それはダメ。いや、というかやめてあげてください」


「は、はぁ?」


わからないのであれば直接聞こうと思い、ヒナギクに許可を取ろうとしたが、ヒナギクは引きつった表情で止めた。


どうして顔をひきつらせているのかはさっぱりと理解できないが、なにやら問題があることだけは理解できた。その問題がどういうことなのかまでは理解できないが、少なくとも自身がしようとしていることが非常識に近い行いであることを理解したアンリだった。


「アンリちゃんって、本当にバレンタインデーのことを知らないんだね?」


「はい。初めて知りました。いったいどのようなものなのですか?女性の方々はみなさんチョコレートが入った紙袋を抱えておられますが」


「そうだねぇ、アンリちゃんにわかりやすく言うと──」


ヒナギクは眉間をぐりぐりと擦りながらバレンタインデーのことを噛み砕いて教えようとしてくれている。


(それほど難しいことなのでしょうか?)


ヒナギクの様子を見て、バレンタインデーとは相当に大変なものなのだろうと思うアンリだったが、その理由をヒナギクの続く言葉により理解した。


「うん。一言で言えば、タマちゃんに「大好きです」と伝えるということかな?」


「……ふぇ?」


ヒナギクの発した言葉により、アンリは言葉を失った。だが、すぐに見る見るうちにその顔はまっかに真っ赤に染め上がり、そして──。


「だだだだだだだだだ、旦那様にそそそそそそそそんな大それたことを!?」


──アンリは見ている方が恥ずかしくなってしまうほどにうろたえた。すでに顔どころか全身が真っ赤である。そんなアンリの姿にヒナギクはおかしそうに笑っていた。


いや、ヒナギクだけではない。チョコレートの入った紙袋を持つ女性たちは、みな微笑ましそうにアンリを見つめては、「頑張りなさい!」とエールを送るかのように拳をぎゅっと握る仕草をしていた。まるで軍隊かなにかのように、その動きは一糸乱れぬ、それはそれは見事な光景であった。


やはり「乙女の聖戦」と言われるバレンタインデーに懸ける想いは誰もが同じであり、そして同じ戦場を駆け抜けるということは誰もが戦友ということなのだろう。


そんな光景に大半の男性陣はより一層深いため息と、よりどんよりとした雰囲気をその身に纏って街中を進んでいく。その光景はまるで葬列のような静けさがあった。


だが、当のアンリはそんな周囲の光景には気づくことなくうろたえていた。緑色の目はすでに渦を巻いて涙目になっている。


だが、そんなアンリの両肩をヒナギクは掴むと、顔をずいっと近づけて言った。


「アンリちゃん」


「ひゃ、ひゃい?」


「女は度胸!うろたえるのは、後からいくらでもできる!でも行動を起こすかどうかはいましかできないんだよ!」


くわっと目を見開いて叫ぶヒナギク。よくわからないが、すごい説得力であった。その説得力にアンリは「は、はい!」と体を硬直させて受け答えていた。それはアンリだけではなく、戦友たちもしみじみと噛み締めるように頷いていた。


「いい、アンリちゃん。バレンタインデーとは戦なんだよ。戦においてそんなうろたえていて生き残れると思うの?」


「そ、それは」


「できるわけがない!ならばどうするか?答えはひとつ。チョコレートという相棒とともに突貫することだよ!」


「と、突貫」


「そう、突貫。突撃じゃない。なにがあっても自身の想いを貫き通すという意志が必要なんだよ。ゆえに相棒を、チョコレートという自身の想いを込めた相棒を片手に突貫するの。それがバレンタインデーなり!」


くわわっと目を見開くヒナギク。アンリは雷に打たれたかのような衝撃を受ける。だが、すぐに弱気になってしまった。


「で、でもアンリにそのようなことが」


「できる!誰もが最初はある。誰もが最初は新兵だよ。そしてそれを乗り越えて初めて、女の子は乙女という名のソルジャーとなるの!」


「そ、そるじゃー」


意味はわからないが、不思議と胸の奥が熱くなる単語だった。もう一度口にすると、目の前が開けたような気持ちになる。


「アンリちゃん、あなたは乙女(ソルジャー)になる?それともただ指を咥えて見守っているだけの女の子(ニュービー)のままでいたい?」


ヒナギクはじっとアンリを見つめた。アンリはごくりと喉を鳴らした。なぜ喉を鳴らす必要があるのかは理解できないものの、場の雰囲気というものはあながち馬鹿にはできないものであった。そんなある意味おかしな雰囲気のまま、おかしなテンションにアンリはあっさりと飲み込まれた。


「アンリは、アンリは!乙女(そるじゃー)となります!」


アンリは叫んだ。その瞬間、戦友たちからの拍手が注がれていた。誰もが涙ぐんでいるのだが、いままでの流れのどこにそんな空気があったのかはさだかではない。


だが、集団心理というものは得てしてそんなものである。


「その粋やよし!ではこれから聖戦(バレンタインデー)当日まで私がアンリちゃんを鍛えるよ!立派な乙女になるようにね!」


「はい。ありがとうございます、ヒナギク様!」


「違う!返事はイエス、マムだよ!」


「い、イエス、マム!」


「そう、それでいい!辛く厳しいけれど、耐えられる、アンリちゃん?」


「イエス、マム!」


「たとえ耐えられたとしても後はあなた次第。それていいんだね?」


「イエス、マム!」


「よし!じゃあ、着いておいで!いまこそが聖戦の始まりだよ!」


「「「「「イエス、マム!」」」」」


アンリだけではなく、戦友たちもまた心をひとつにしてヒナギクへの返事を口にしていた。ヒナギクの姿はさながら歴戦の女将軍と言えた。


そんなおかしなテンションを周囲に伝播させながらも、こうしてアンリの初めてのバレンタインデーは幕を開けたのだった。

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