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5話 神器

遅くなりました←汗

「うわぁ、すごいですね」


トロルの後を追いかけて、トロルの工房の奥に向かったレンは、工房の奥に広がる光景を見て唖然となった。


工房内にも武具のコレクションが飾られていたのだ。それもひとつやふたつではなく、十数個のガラスケースに納められた武具が至るところに置かれていた。中に納められているのは、すべて剣であり、ガラスケースの中で鈍い光を放っている。


トロルは個人スペースには武具のコレクションを置いていると言っていたが、工房の中にもあるとは言っていなかった。もしくはここが個人スペースなのだろうかとさえレンには思えた。


「ここにあるのは一部だけさ。剣を打つ時は、剣を持ち出してじっくりと眺めてから。鎧を鍛えるときは、鎧を周囲に置いて意匠を確かめてから。そうしてきっちりとイメージを膨らませてから打つことにしているんだ」


「それって一般的なんですか?」


「いや、たぶん俺だけだろうよ。工房は熱がこもりやすい。鉄にしろ、鋼にしろ、金属ってのは基本的に熱に弱いんだ。まぁ、直接熱せなければ問題はない。仮に傷んでもここにあるのは、そこまで珍しいものじゃないから、買い直せばいい。もしくは自己流に打ち直すこともたまにしているよ。……だいたい失敗しているがな」


トロルは苦笑いしていた。だが、その話だけでもトロルの職人としての情熱がどれ程のものであるのかは理解できた。


(……なんとなくうちの親父や兄ちゃんたちに似ているなぁ)


姿形はまるで似ていないものの、仕事に対する熱意は実父やテンゼンを除いた実兄とよく似ていた。


レンの家は、ほぼ家族経営だが小さな会社を営んでいる。


職務は清掃系の会社だが、もとは地域密着型のなんでも屋だった。父の代から清掃系に本格的に移行した。


レンも簡単な仕事であれば昔から手伝っているが、そのうち本格的にアルバイトとして仕事をしようと決めていた。


そんなレンに父や兄たちは仕事に対する姿勢を懇切丁寧に教えてくれた。……鉄拳が飛んで来ることを懇切丁寧と言っていいかどうかはさておくが。


だが、父や兄たちがそれだけ熱意を持って仕事にあたっていることは、子供の頃から背中を見て知っている。


そんな父や兄たちの姿とトロルの姿は、見目はまるで似ていないというのに重なって見えた。


それは父や兄たちも職人肌であることが理由なのだろう。トロルがそうであるように、父や兄たちも仕事に対しての妥協はしない職人タイプだった。


そしてトロルが腕を磨くことにしか興味のない職人であることも理解できた。金を稼ごうと思えば、いくらでも稼げるくらいの腕前はおそらくあるだろうし、バカ正直と言ってもいいほどに誠実なタイプの職人であることもまた。


初対面の人間に対して、わざわざ打ち直しに失敗しているなんて不利になる情報を口にする必要はない。もっと自信満々に打ち直しているとだけ言えばいい。失敗しているなんてことを言わなくてもいいことをトロルは言っていた。それは自身の腕が悪いと認めているようなものである。もっと言えば自分は大した職人ではない、とみずから言いふらしているようなものだ。


珍しい武具を見て子供のようにはしゃいで目を輝かせるところは、金になるから武具を鍛えているタイプがするようなことじゃない。そういうタイプなら大金か、大金に繋がる仕事だからこそ目を輝かせる。トロルのようにちゃんと見てもいない武具にも目を輝かせはしないだろう。


そしてちゃんと見てもいないにも関わらず、ミカヅチの希少性を見抜く眼力がトロルにはある。


ミカヅチについてはレン自身、そこまで詳細を知らないのだが、ゲーム内における高位の武器群であるSSRランクの一振り。その一振りをろくも見ていないのにも関わらず、業物だと言い当てたのだ。


反面、個人経営者にはあまり向いていないタイプ、絶望的に商売に向いていないタイプだった。自身の腕の未熟さを語ったうえに、自身の工房の作品を勧めるという営業さえも考えていないのだ。レン個人的には好感が持てるが、トロルが一家の大黒柱だったら、家族は相当苦労させられそうである。


だが、人がいいために孤立はしないタイプだろう。その手の人間は最終的には恵まれた人生を送るのだ。中にはどん底まで落ちることもあるので心配と言えば心配なタイプだが。


「まぁ、とりあえず、この剣を見せますね」


「お、おう!楽しみだなぁ」


一瞬言い淀むトロルだったが、その目を相変わらず輝かせていた。言い淀んだのは興奮のせいだろう。そんなトロルを微笑ましく思いつつ、レンはミカヅチをゆっくりと抜いた。


雷の模様が描かれた刀身を見せると、トロルは口をあんぐりと大きく開けると──。


「ま」


「ま?」


「ままままま、マジかぁぁぁぁぁぁーっ!そそそそそ、それ神器じゃねぇかよぉぉぉぉぉーっ!?」


トロルは大声で叫んだ。その歓声に耳鳴りが起きそうになるレン。しかしレンの様子をまるっと無視してトロルは続けた。


「マジか、マジか、マジかぁぁぁぁぁーっ!夢じゃねえよなぁ!?これ現実だよな!?あの神器が、あの「ミカヅチ」が俺の目の前にあるんか!信じられねぇぇぇぇぇーっ!」


トロルの目は血走っていた。目を血走らせながら、レンの持つミカヅチをじっと見つめていた。


「うん、うん、うん!どう見ても普通の鉄や鋼じゃねぇ!神鋼製の逸品に間違いねぇ!まぁ、神鋼製の逸品なんざ見たことねぇけどよ!」


「あ、あの、トロルさん。ちょっと落ち着いて──」


「落ち着けるわけねぇだろう!?神器は職人の憧れだぜ!?」


トロルの血走った目がレンに向けられた。あまりの迫力にレンはちょっぴり引いた。だが、トロルは止まらなかった。


「な、なぁ、ちょっと、ちょっとだけでいいから触らせてくれねぇかな?」


鼻息を荒くしつつ、トロルは言う。強奪防止がEKには施されており、それはNPC相手でも変わらないので、貸しても問題はないかと思うレン。むしろ貸さないとトロルがなにをしでかすのかわからないので、貸すしかなかった。


「……刃こぼれさせないでくださいね?」


一旦鞘に納めてからトロルに神器を渡すレン。トロルは「ありがとうよ!」と満面の笑みを浮かべて、やや引ったくるようにミカヅチを受け取った。


「うわぁ、すげぇなぁ。軽い剣のはずなのに、鋼の密度が半端じゃねぇ。切れ味も相当なもんなのに、この厚みはありえねぇぇぇ!」


鞘からミカヅチを抜いたトロルは、小振りのハンマーで軽くミカヅチを叩く。とても澄んだ音が鳴り響くが、その音だけでミカヅチのことがいろいろとわかったようである。


「ありがとうよ、兄さんよ!」


トロルは堪能したのか、とても幸せそうな笑みを浮かべた。レンはトロルからミカヅチを受け取った。


「いえ、ご満足いただけたなら結構です。あと」


「うん?」


「俺はレンと言います」


「おっと!こいつはいけねぇ!すっかりと名前を聞くのを忘れていたぜ!すまねぇな、兄さん、いや、レンさんよ」


「いえいえ」


「あとすまねえついでに聞きたいんだが」


トロルはいくらか躊躇しながらレンを見つめていた。いったいなにごとだろうと思っていると、トロルは言った。


「ミカヅチを持っているってことは、あんた「霊獣様」となにかしらの関係があるのかい?」


「霊獣様?」


いきなりよくわからないことを尋ねられた。レンが首を傾げると、トロルは驚いたようだった。


「なんでぇ、「霊獣様」のことを知らんのかい?」


「ええ、まぁ」


「そうか。まぁ、無理もないか、レンさんは「旅人」だしなぁ」


なにかひとりで納得するトロル。いまいみ言いたい意味がわからなかった。


「あの、どういうことで?」


「あぁ、この世界の住人なら知っていることなんだよ。「霊獣様」と「神獣様」の逸話はさ」


「神獣様?」


またわからないことをトロルは言った。トロルはレンの反応を確かめつつ、近くにあった椅子に座るように促した。


「おぅ、主神エルド様に仕える方々のことさ。そしてあんたが持つミカヅチは、「霊獣様」の持つ神器の片割れなのさ」


トロルはレンの対面側の床に腰を下ろしてから神獣と霊獣の話を始めた。

今回でトロルさんが一時退場するはずだったのに←トオイメ

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