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3話 怒れるレン

遅くなりました。


脚を踏み入れた第2エリアは、鬱蒼とした森の中だった。


「……失敗したかな」


脚を踏み入れてから考えようと思っていたのだが、その矢先に退くという選択肢が立ち消えた。レンが脚を踏み入れてすぐにエリアボスへのフィールドが閉じた。エリアボス戦が始まったのだ。


エリアボス戦は、該当プレイヤーおよびクランのメンバーしかフィールド内には立ち入ることができない。勝つか負けるかの決着が着くまでは助太刀はおろか、横やりさえも入らない。


ゆえにエリアボス戦が始まってしまったらフィールドには立ち入ることはできない。


「……他に往き来できるルートってあるかな?」


ボスフィールドを経由してエリア間を往来するというのは、あまりにも不便すぎる。エリアボスを討伐したプレイヤー専用に、エリアボスを跨がずに往来できるルートもあるのではないかとレンは思い、掲示板を眺めてみるもその手の情報はほぼなかった。


唯一あったのは「エリアボスを跨がないルートはあるけど、自分で探してこその醍醐味だろう」というなんとも反応に困るものだった。


たしかにその書き込みの内容は正しいと言えなくもない。なんでもかんでも人に尋ねるのではなく、みずから開拓することも時には必要である。必要であるのだが、退くことを考えているプレイヤーにとってみれば、はた迷惑としか言いようがない。


とはいえ、エリアボス戦後に次のエリアに進むかどうかは、各々のプレイヤーの考え次第。


エリアボス戦で消耗していれば戻り、大して消耗していなければ進めばいいというのは共通された認識である。


中には一歩先に進んだらすぐに戻ればいいという考えのプレイヤーもいるにはいるが、その手のプレイヤーはわりと少数であり、かつクランを組んでいることが多く、ほかのメンバーにボスフィールドに残ってもらい、みずから偵察を行うものであり、レンのようにソロでというのはわりと珍しい。


そもそもソロプレイヤーの場合は、すべて自己責任となるため、事前の情報収集はもちろん引き際の判断もきっちりと行うため、レンのような事態になることはほぼない。


もちろん、ソロプレイヤーとて完璧ではないため、引き際を見誤り手痛い教訓を得ることもある。だが、レンのように「とりあえず」という考えはほとんどしない。


そのときのレンはソロプレイに慣れていなかったということが大いに災いしてしまい、退路を塞がれたのだ。


「……はぁ、先に進むか」


退路がなければ前に進むしかない。レンはため息混じりに森の中を進んだ。が、それがまた災いを起こした。


レンはエリア間の移動方法ばかりを調べていたため、第2エリアの詳細を調べていなかった。北部の第2エリアは通称「迷いの森」という広大な森林地帯である。その名の通り、迷路のように入り組んで自生する木々が行く手を妨げる。


加えて森の中はすべて同じような景色が広がっており、周囲の木々により日の光が常に届かないこともあり、感覚があっという間に狂わされてしまうのだ。


その事は掲示板にはきちんと書かれていたのだが、退路のことばかりを考えていたレンは一番重要なエリアの特性には一切触れていなかった。


ゆえに「迷いの森」の突破経路である通称「最短ルート」から即座に外れることになった。


ちなみに「最短ルート」とは最初に西へ赴くという本来ならありえないルートのことだ。


だが、「最短ルート」はそこからが本番となる。西へ赴くと木々がうまい具合に道を阻んだ一本道を形成しているのだ。その一本道は北部第2都市である「ベルス」近郊までやや大回りに続いている。所要時間はだいたい2時間ほどになる。


が、レンが向かったのは北。エリアボスのフィールドから「ベルス」は真北にあり、一見北に向かうのが正解に見える。しかし北は蛇行や行き止まりが多く、戻ろうにも同じ景色ばかりが広がっているため、方向感覚の狂いが起こりやすルートであり、エリアボス突破後に進みやすいルートでもある。つまり北部第2エリアは全体的に初見殺しのエリアとなっていた。


その初見殺しのエリアに、事前の情報なしに脚を踏み入れたレンに待ち受けているのは、もはや必定の未来であった。


「……ここ、どこ?」


北ルートの罠に早々に掛かったレンは、第2エリアの洗礼をこれでもかと受けることになった。


ちなみにだが、残る東ルートは踏破にゲーム内時間で1日掛かる。西ルート以上に大きく蛇行しながら森の中を練り歩くためである。


そしてレンが進んだ北ルートは東西南北に蛇行して森全体をさ迷い歩くことになるため、踏破に最短でも3日は掛かる。


ただ道中にはセーフティゾーンが各所に存在しており、モンスターからの襲撃を一応は防げるのは運営からの恩情とも言える。


もっとも恩情というのであれば、そんな罠をしれっと仕掛けるなと罠に掛かったプレイヤーの総意だろうが、その総意には運営は知らん顔をするだろう。「エターナルカイザーオンライン」の運営がわりと鬼畜なのは、タマモに関してだけではないというありがたくない証明と言える。


そうしてレンは3日間「迷いの森」をさ迷い歩き、ようやく森の外に出られたのだった。


「あの、ロリっ狐め」


「ベルス」を一望できる崖の上でレンは静かな怒りに燃えていた。


3日間、鬱蒼とした森の中を練り歩かされたのだ。タマモに対する怒りを抱くには十分すぎる。


だが、タマモにもある意味では責任があるかもしれないが、さ迷い歩いたのはすべてレンの不注意によるものだ。


普段のレンであればきっちりと情報収集をするだろうが、タマモの思わぬ行動に動揺した結果であるため、レンの意見もわからないわけではない。


だが、そんなことを言い出したら、すべてのソロプレイヤーはフレンドの思わぬ行動に動揺したら、その結果起こり得るすべてをフレンドのせいにしていいという謎の決まり事ができてしまうし、そもそもきちんと情報収集を行っていなかったうえに、軽率に行動を起こしたことが原因であるため、仮にタマモが責任を負うとしてもその比率はレンが9の、タマモが1くらいのものだろう。


はっきりと言えば、レンのそれはただの逆恨みでしかない。


だが、得てして逆恨みをしている者というのは冷静な判断力が欠如しているもの。もっと言えば自身の行動は正当性のあるものだと思い込んでいることが多い。


レンもそのときはそういう精神状態であったために、タマモへの報復についてを怪しい笑みを浮かべて思案していた。


「次会ったら、あの柔らかい頬をこれでもかと横に伸ばしてやる!泣きわめいても絶対にしてやるからな!覚えていろ、ロリっ狐めぇぇぇ!」


思案していた内容はなんとも健全なものであった。


いざ報復と言っても穏やかな性格をしているレンでは、報復の内容はどたかが知れていた。


余談ではあるが、後にタマモと再会した際、レンはタマモへの報復を行おうとしたのだが、涙目になってタマモを庇うアンリの姿に良心の呵責を覚えることになるのだが、それはまた別の話となる。


「ふぅ、さて、そろそろ行くかな」


ひとしきりタマモへの報復に思考を巡らしていたレンだったが、ある程度吐き出すとスッキリして遠くに見える「ベルス」へと向かった。


正確には「ベルス」近郊にあるダンジョンこそが、今回のレンの修行の目的地であった。


そのダンジョンの名は「紅き古塔」──。


その名の通り、外壁が真っ赤に染まった塔であり、全10階層からなる経験値効率のいいダンジョンだった。


「絶対に強くなるぞ!」


レンはまだ見えぬダンジョンに想いを馳せながら、人知れず闘志を燃やすのだった。

ソロプレイは基本的に自己責任なので。もちろんパーティープレイ中も基本的には自己責任なわけですが、ソロの方がより責任の幅が広いわけですから、レンのは逆恨みというわけとなります。まぁ、なんと言ってもレンはレンなので←しみじみ

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