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86話 後悔しない方を

えー、3日ぶりです、こんにちは。

なかなか続きが書けなくて、ふて寝を繰り返していたらもう2日もすっぽかしていたというね←超汗

今後は気をつけたいものです←しみじみ

「──というわけなのですよ」


まりもは莉亜にかいつまんだ説明を終えた。


氷結王のことはまだ話さない方がいいだろうと思い、詳しくは語っていない。高貴な人と出会い、その人のために食事を用意することになったとは伝えた。


その他に話したのは、特殊なクエストが起こり、その最中にNPCから求婚されているということ。だが、そのNPCはそばにいられるだけでいいとも言ってくれていること。とても性格がよく、とてもきれいな子であること。


だが、どんなに性格がよく、きれいな子であったとしても、しょせんはデータだけの存在であり、いつかは別れが訪れる。


であれば最初から好意など抱かずに、人の形をした数字の羅列だと思いたいのに、ほんのわずかな間で見た笑顔がちらついてしまい、データだけの存在ではなく、本物の血肉が通った人のように見てしまっていることを、まりもは吐き出すようにして莉亜に伝え終えた。


だが、どんなに想いを吐露したところで、まりもの心は軽くなってはいなかった。


むしろ、こんなことで悩んでいるのかと莉亜に言われたらどうしようとさえ思ってしまった。


精神的な袋小路にまりもはみずからを追い込んでいた。


袋小路からの脱出路は見つからないし、見当たらない。


すべてが真っ白な空間に追い詰められたかのようだ。


まりもとしては、白という色は嫌いではない。むしろ好きな方だ。


だが、なにもかもが真っ白というのはかえって恐ろしいこともある。


白とは純粋さを意味するもの。一点の汚れもない純粋さを意味するもの。


だが、そんなものは存在などしない。


どんなものであっても染まることはあるのだ。真珠は真っ白なように見えるが、光沢により虹色になる。本物の真っ白というのであれば、その光沢さえ許されないということになる。


真っ白と言うのであれば、艶やかな光沢さえも必要ではないのだ。白以外のものはすべて必要ではない。


白とは自由の色とされている。どんな色にも染められるからだ。


しかしまりもにとって、白とは拒絶の色だ。


たしかに白はどんな色にも染まる。赤だろうと青だろうと、茶色や紫色にも染まる。自由自在に色を変えていく。


が、白の成り立ちはすべての色素を抜けさせること。白以外のすべてを必要ないと切り捨てること。つまりは自由自在のためにすべてを拒絶した結果だった。


その拒絶の色に四方を囲まれる。ある意味拷問に近いとさえ言える。


まるでいままでの自分を否定させられるような気分になる。事実いままりもはそんな気分になっていた。


莉亜からの続く言葉が怖いのだ。なんて言われてしまうのかがわからなくて怖くて仕方がない。


ゆえに沈黙も怖い。沈黙から続く一言がどんなものになるのかわからなくて怖い。会話をしていれば、続く一言は話の流れから想像はできる。


だが、沈黙からの一言となると、どんな言葉が飛んでくるのかが予想できない。


予想できないということがまりもには怖くて仕方がなかった。


だが、どんなに怖くても、先が見えなくても終わりというものは必ず訪れる。


「……そっか」


莉亜は溜めを作りながら言った。どこか遠くを眺めるように、目を細めながら「そっか」とだけ言った。


その言葉の意味がまりもにはわからなかった。わからないことはそのまま恐怖にと繋がっていた。まるで知れない人と会話をしているかのような気分にまりもはなった。


「……やっぱり変だよね」


まりもは絞り出すようにして言った。


莉亜に否定される前にみずからを否定した。否定されるよりも先に否定した方がまだダメージは少ないのだ思ったからだ。


あとは莉亜が頷けばいい。それであればまだダメージは少ない。莉亜から直接否定の言葉を投げ掛けられるよりかははるかにましだった。


ゆえに求めたのは否定。否定されればそれで構わなかった。


だが莉亜は、玉森まりもの幼馴染み兼親友である秋山莉亜は、ある意味で優しくだが、とても厳しかった。


「バカ。誰もそんなことは言っていないでしょう?」


「……え?」


「私は同情したの。大変だろうなぁって。あんたは否定してほしかったんだろうけど、否定はしないよ」


「なんで?」


「だって、その子の気持ちは本物だもの」


「ほん、もの?」


言っている意味がわからない。アンリはデータだけの存在だ。つまりは偽物でしかない。だが莉亜はアンリを本物だと言った。なにを以てデータだけの存在を、数字の羅列によって成り立っている存在を本物と言えるのか。まりもにはその意味がわからなかった。


「そばにいられるだけでいい、っていうのはそう簡単には言えないもの。本当にあんたのことを想っていなければ言えないものよ。たとえその子がデータだけの存在であったとしても、その言葉に込められた想いは偽物じゃない。その子の心からの想いだもの」


「でも、本気になったって」


「そうね。だけど、本物の想いに対してなぁなぁで済ませていいわけじゃない。それは失礼なことだもの。だから本物には本物で返せばいい。あんたなりの本物の想いでその子に応えればいいのよ」


「……でもそうするとボクは」


「どちらにしろ傷つくのよ。断ろうが受け入れようと、それは変わらないの。大事なのは後悔するかしないかというだけのこと。あんたはどちらであれば、より後悔するの?」


莉亜はまっすぐにまりもを見つめていた。


莉亜の言葉にまりもはなにも言うことができなくなっていた。なにも言えないまま、莉亜を見つめ返した。莉亜はなにも言わない。なにも言わないまま、まりもを見つめる目は、どこまでも深かった。踏み込もうと思えばどこまでもできる。だが、踏み込んだ先は見通せないほどに深い。そんな莉亜の目にまりもは少しだけ怖じ気づいた。


すると莉亜は小さくため息を吐くと、ベッドから腰を上げた。


「そろそろバイトの時間だから。またね」


「え、あ、うん」


バイトの時間と言われたら、「待って」とは言えなかった。仮にそうでなくても、いまの莉亜に「待って」とは言えなかった。


莉亜であるはずなのに、莉亜でないように思えていた。ゆえになにも言えなかった。なにも言えないまま、まりもは立ち去っていく莉亜の背を見つめていることしかできなかった。


ぱたんと軽い音を立てて閉まるドアの音を聞きながら、まりもはベッドに仰向けに倒れこんだ。


「後悔しない方か」


答えになっているようでなっていない莉亜からのアドバイスを口にしながら、まりもは今後のアンリとの関係を悩むのだった。

そのうち複数更新しようと思いますが、いまのところ未定です

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