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年越し特別編

ギリで間に合わなかったΣ

とりあえず、明けましておめでとうございます!

というわけで年越しちゃいましたけど、年越し特別編です。

時空は気にしないでとだけ←

即席のかまどに乗った鍋の中には、縁一杯にまで張った水があった。


そのかまどに向けてタマモは指を鳴らした。


──ボゥッ。


火の点いていなかったかまどから火が上がる。鍋に張られた水が、かまどの火によってゆっくりと熱せられていく。

まだ鍋の中の水は変化を見せていない。が、それも時間の問題だろう。


「さて、と。次は──」


火加減は問題ない。かまどの火はタマモ自身の狐火によるものなので、加減はそれこそ指を鳴らすだけで十分である。


なので鍋を見ている必要はない。正確には鍋だけを見ている必要はなかった。


鍋を見つつ、以前作ってもらった石のまな板の上に青菜のナッチ(ゲーム内で言うほうれん草)を置いた。


ナッチは事前に茹でおいたものだ。そのナッチを一口大に切り分けていく。


──タンタンタン。


ナッチを切り分ける音は、一定の間隔、リズムで行っていく。その手際はとてもこなれたものだった。


「旦那様、お揚げの準備できましたよ」


後ろから声を掛けられた。振り返るとそこには黒みが掛かった緑色の髪と毛並みの妖狐の少女が立っていた。その手には少女が言ったとおりの茶色く染まった油あげの入ったボウルがあった。油あげのボウルを大事そうに抱えながら、にこやかに笑っていた。


「あぁ、ありがとうです。アンリさん」


妖狐の少女ことアンリにと笑いかけるタマモ。だが、アンリはいくらか不満げに頬を膨らましていた。その心情を現すように黒みが掛かった緑色の尻尾は地面をてしてしと叩いていた。


が、なんで不満げなのかがタマモにはわからなかった。


「えっと?」


「むぅ。旦那様はどうしていつまでも他人行儀なのですか?アンリは旦那様のものなのですから、呼び捨てにしてくださいと何度も言っておりますのに」


ぷいっと顔を背けるアンリ。呼び捨てにするまで意地でもタマモを見ないと言うかのようである。


だが、チラチラとタマモを見ているあたり、実際に見ないようにするという意思はないようである。その尻尾がパタパタと振られている様子は「まだかな、まだかな」と言外で言っているかのように思えた。


タマモはそんなアンリの姿に思わず苦笑いしていた。


「……ありがとうです、アンリ」


苦笑いしながらアンリを呼び捨てにすると、アンリは尻尾をブンブンと振ってタマモを見やる。その表情はとても嬉しそうだった。


「かわいいですねぇ」としみじみと思いながらアンリの頭に手を置き、撫でていくタマモ。


アンリの方が上背があるのだが、アンリはわざわざタマモが撫でやすいように頭を下げていた。タマモに頭を撫でられながらアンリは恍惚顔で、「ふにゃぁ」と珍妙な声をあげていた。


そんなアンリを眺めつつ、タマモはそっとアンリの頭から手を離した。が、アンリはすかさずタマモの手を取ると、グリグリとみずからの頭に擦り付けていく。


「……撫でられたいんですか?」


「はい!」


目をきらりと輝かせながら、はっきりと頷くアンリ。その尻尾はこれでもかと振られている。


ただ体勢が体勢であるため、丈の短い巫女服を、ミニスカートと言えるような巫女服を着ているアンリがそんなに大きく尻尾を振ったら、下着が見えてしまうのではないかと、少しだけ気が気でないタマモ。


しかし当のアンリは、気にすることなくみずからの尻尾を振っていた。


「わかりました。わかりましたから、尻尾を振るのはやめてくださいね」


「なぜですか?」


わけがわからないとその顔に書くアンリ。どうにも理解されていないようだった。


「……そのまま振っているとですね?中がその」


「中?」


はてと首を傾げるアンリ。仕草がいちいちかわいいなと思いつつも、どう言えば理解してもらえるだろうかとタマモが頭を抱えていると──。


「おーい、タマちゃん。出汁ってこんな感じで──」


──野外キッチンの方から声が掛けられた。タマモが視線を向けるのと同時に、レンが野外キッチンの方から顔を出した。が、そこはちょうどアンリの背中側である。つまりは現在進行形で尻尾を振っているアンリを後ろから眺めるということであった。となれば自然とタマモが指摘している問題が露になるわけであって──。


「ぁ」


──それは誰の声だったか。レンとタマモは同時に固まっていた。


ただアンリだけは不思議そうに首を傾げるだけである。


「どうされましたか、旦那様?レン様?」


アンリは不思議そうに首を傾げるだけだった。そんなアンリにどう言えばいいのやら。タマモはため息を吐きつつ、アンリを背に隠す形でレンの前に立つと、大きく息を吸い込み、そして──。


「ヒナギクさーん!レンさんがアンリさんにセクハラしているのですよぉ!」


「な!?」


──タマモはヒナギクを大声で呼んだ。レンが慌てる。慌ててタマモの口元を覆うとしたが、それよりも早く「鬼」は現れた。


「レぇーン?」


ログハウスの窓が開き、ニコニコと笑うヒナギクが顔を出した。


「ちょっと来な」


「は、はひ」


ログハウスの中を親指で指すヒナギクに、レンはいまにも死んでしまいそうな顔で頷くと、重い足取りでログハウスへと向かっていった。


「……俺悪いことしていないのに」


レンはぽつりと呟いた。その声はやはり死んでしまいそうなほどに重たいものであった。


「……ラッキースケベは許しませんよ」


はっきりと言いきるタマモ。だが、アンリはやはり理解していないのか、首を傾げるだけであった。


「とりあえず、年越しそばの準備を進めましょう」


「はい、旦那様」


アンリが頷くのと同時にログハウスから悲鳴が上がったが、タマモはあえて気にすることなく、用意していたそばを茹でることに集中するのだった。


その後、そばを茹で終えるとボロボロになったレンとニコニコと笑うヒナギクが出汁を持って来てくれた。


アンリは油あげだけではなく、かまぼこやワカメなどの準備をしてくれていた。器は事前にお湯を注いで温めてくれていた。


その温めてもらった器に出汁とそば、具材を順に盛っていく。そして──。


「よし。できました!」


タマモは額を拭うと、器に盛ったそばをお盆に乗せようとした。


「あ、そちらはアンリにおまかせを!」


ぽんと胸を叩くアンリ。巫女服で隠れていてわからないが、年齢のわりには豊かな胸がふるりと揺れた。が、慌ててタマモは視線を反らす。アンリをそういう目で見ることはできないのだ。だが、当のアンリはどこか不満げである。


「はいはい。そこの新婚夫婦さん。おそばが冷めるよ?」


ヒナギクが呆れていた。タマモは慌てるもアンリは「新婚さん、あは」と嬉しそうに笑っていた。その笑顔に思わず頬を染めてしまうタマモ。


そんなタマモを放ってヒナギクはさっさとお盆に年越しそばを乗せて運んでいく。その後をタマモとアンリはそれぞれに追いかけていくと、いつもの木材をテーブル代わりにして、4つの器が置かれていた。


「タマちゃん、アンリちゃん。座って、座って」


ヒナギクは笑っていた。レンは相変わらず憔悴していた。先に座っていたふたりに倣ってタマモとアンリはそれぞれに席に腰掛けた。


「それではいただきます!」


タマモの挨拶を合図にして4人はそばをすすっていく。


するとゴォーンという鐘の音がどこからともなく聞こえてきた。


「みなさん、今年もよろしくです」


「こちらこそです、旦那様」


「タマちゃん、アンリちゃん、よろしくね」


「よろしく」


それぞれにらしいセリフを口にして「フィオーレ」の年越しは無事に行われたのだった。

今日は本編を後程アップします。たぶん正午くらい?

とにかく今年もよろしくお願いいたします。

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