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80話 見かけるたびに恋をしている

とても遅くなりました←汗

そしてサブタイトルがなんとも甘酸っぱいですが、まぁ、そういう感じです←

──トコトコ。


タマモは大ババ様の後を追いかていた。


大ババ様の足取りは変わらない。颯爽と里の中を進んでいく。そんな大ババ様の後をタマモはさきほどまで同様に追いかけていた。


だが、さきほどまでとは異なることもあった。


──カラン、コロン。


数歩後ろから下駄のような音が聞こえてきた。ちらりと後ろを見やると、アンリが顔をやや俯かせて歩いていた。


端から見れば、落ち込んでいるようにも見えるが、実際は違う。アンリは頬を染めてタマモの後を追いかけていた。その表情はとても幸せそうである。


(俯いていますけど、どこか幸せそうなんですよねぇ)


アンリとは出会ったばかりだが、なぜかアンリを嫁にすることになってしまっていた。


(いや、別に嫌というわけじゃないのですよ?ただ、まだ出会ったばかりで、ぜんぜんこの子を知らないというだけのことなのですよ)


そう、アンリが嫌いというわけではないのだ。むしろ嫌えるほどに知っているわけではない。


とはいえ、嫌っているわけではないからこそ好きだというわけでもない。


正直な話、好きでも嫌いでもないのだ。だからこそ、アンリの気持ちにはちょっとだけ重いと感じていた。


(まぁ、美人さんな子であることは認めますけどね)


だが、その重たい気持ちを向けられても、拒絶反応がないのは、アンリが美少女だからだ。


いままで見たことがないほどに、とは言わない。だが、いままで見てきた中でもトップにも食い込めるほどの美少女ではある。


そんな美少女に想われて嫌な気持ちを抱けるわけもない。むしろ少し嬉しいくらいだ。


(……これが現実なら大喜びなんですけどねぇ)


そう、どんなに好かれてもゲーム内のキャラクターに好かれてもと思ってしまうのだ。もっともゲーム内だからこその好意とも言える。


なにせ現実で同じことがあっても、「なにが目的だろう」と穿って見ずにはいられない。


だが、ゲーム内であればこういう設定があるからという理由が存在する。


たとえその理由が首を傾げざるをえないものであったとしても、明確な理由があるのであればまだ納得はできる。


現実のように虚実入り交じりよりもはるかに健全で、はるかにわかりやすいのだ。


(まぁ、現実でもうちの家の財力を目当てというわかりやす~い理由がありますけどねぇ)


現実は虚実入り交じりな理由があるものだが、タマモの場合はとてもわかりやすい理由がある。タマモの生家である玉森家の財産目当てという、とてもわかりやすい理由があった。


(いままでボクに近づく人のお目々には、はっきりと$マークがありましたもんねぇ)


中には$マークを宿した親に言われたからという子もいたが嫌々というのが丸わかりだったし、親によく言い聞かされていた子もいたが、そういう子ほど親の$マークが伝染っていたものだ。


どちらにしろ、玉森家の財力目当てのものということには変わらない。そしてその手の輩はとてもわかりやすいのだ。


彼ら彼女らにとっては玉森まりもという存在は、人ではなくお金にしか見えていなかったのだ。


だからこそわかりやすいのだ。玉森まりもに群がるのは、財力目当ての盗人がほとんどだったからだ。


しかしいまタマモに好意を向けてくれているアンリは、タマモの財力ではない。かと言って神獣の眷属たる「金毛の妖狐」だったからでもない。


おそらく出会うまでは、タマモが眷属だったからということもあっただろう。


しかしいまのアンリの目にあるのは、眷属であるタマモに嫁入りしたという喜びではなく、タマモに嫁入りしたという喜びがあるように見える。その理由がいまのところタマモにはわからない。


(出会ったばかりなんですけどねぇ)


そう、タマモはアンリと今日初めて会ったのだ。だが、アンリはタマモを眷属としてではなく、ひとりのタマモとして見ているように思えるのだ。


(……会った覚えはないんですよねぇ)


そもそも妖狐たちを見たのは、今日が初めてなのだ。いままで会った覚えがないのも当然である。


しかしアンリはまるで以前からタマモを知っていたかのように、タマモを見つめる視線はとても熱い。


その視線はどことなく心地よい。心地よいが、やはり理由がわからないのは、なんとも言えない気分である。


だが、どう言えばいいのかはわからない。いくらなんでもストレートに聞くのは失礼だろう。「ボクはあなたのことをなにも知りませんけど、あなたはなんでボクのことを知っているんですか」などとは口が裂けても言えるわけもない。


とはいえ聞かねばわからないままであるのも確かである。どうしたものかとタマモは思いつつ、アンリを見つめていた。


すると不意にアンリが顔を上げた。なんだろうと思っていると、アンリはとても柔らかく笑いかけてくれた。花が咲く笑顔というのはよく聞く話だが、実際に見るとこういうことなんだろうなぁとタマモには思えていた。ぶっちゃけかわいい。


「どうされましたか、旦那様?」


アンリは薄く笑いつつ首を傾げていた。その仕草ひとつとっても非常にかわいらしい。


「あ、いえ、別になんでもありません」


「……左様ですか」


アンリは少し残念そうである。どうやら用事があると思ったようだ。申し訳ないことをしたかもしれないとタマモは慌てた。慌てながら言った。


「え、えっと、そのアンリさんはきれいだなぁと思ったのですよ」


「え?」


「まぁ、つまりなんですか」


見惚れていたと言えればいいのだろうが、見惚れるほどにアンリのことを知っているわけではないし、アンリに対して感情を向けているわけでもないのだ。


ゆえに見惚れていたというのは憚れたのだ。が、いまこの場にいるのはタマモとアンリだけではないことをタマモは忘れていた。ゆえにそれは必然であったのだ。


「単純な話だ、アンリよ。眷属様は、おまえに見惚れていたのだろうさ」


「え?」


「おまえは別嬪だからのぅ。当然見惚れてしまうだろうさ」


ほっほっほっと扇子で口元を隠しつつ、大ババ様は余計な一言を抜かしてくださった。タマモは大ババ様に一言言ってやろうと思ったのだが、それよりも早く背中にとんと軽い衝撃があった。なんだろうと見やるとアンリがタマモの背中に抱きついていた。


「えっと?」


「……アンリも旦那様に見惚れております。旦那様をお見かけるするたびに恋をしておりますので」


えへへとアンリは笑っていた。その笑顔にどきっと胸が高鳴るタマモ。


(いまのは反則すぎません?)


いくらなんでもいまのは不意打ちすぎた。タマモの胸は大きく高鳴っていた。大きく高鳴る胸をどうにか抑え込みつつ、タマモはできるだけ平然としていた。が、その心情を現すように「三尾」はパタパタと振られている。そんなタマモの姿に大ババ様は楽しげに笑う。


「さて、そろそろじゃな。もう少しだけお付き合い願えますかのぅ、眷属様」


大ババ様は笑いつつも、また歩きだす。するとアンリは少し名残惜しそうにしつつも離れた。アンリが離れていくのが、少しだけ残念に思うタマモ。


(なんかすでに陥落されていませんか、ボク?)


まだ会ったばかりなのになぁと思いつつも、タマモは大ババ様の後を追っていく。その数歩後をアンリが続く。その視線はやはりとても熱い。


見かけるたびに恋をしているとアンリは言った。その理由はいつかわかるのだろうかと思いつつ、タマモは里の中を進んで行った。

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