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78話 試練と招待状

遅くなりました←汗

長いおやすみを得ましたが、かえって気が抜けてしまいますね←汗

あとがきにて、称号の詳細があります。こちらも遅くなりましたけど←汗

薄暗い階段にタマモはひとりで座り込んでいた。


その目にある光はとても弱々しい。目の端には涙が浮かんでいるが、拭うこともせずにタマモは手の中にある煙管を見つめていた。


「……ここから出たいのです」


煙管に話しかけるタマモ。だが、煙管はなにも言わない。そもそも言葉を発するわけもない。それでもタマモは煙管に向かって、延々と話しかけていた。


「……ここから出たいのに、どうしたらいいのかわからないのです」


タマモは煙管を見つめる。煙管を見つめていると、不思議と心のざわめきが薄れていた。


だが、現実に立ち返ると心はまたざわめく。いったいどれだけ心の中でそのやり取りを繰り返していただろうか。


タマモにはもう時間の経過さえもわからない。ログイン限界までもうわずかなのかもしれないし、まだ数分も経っていないのかもしれない。


薄暗い地下の階段に腰かけていると、時間の経過はわからなくなってしまっていた。


(強制的にログアウトされても、ログインしたらまたここなのです。ここから出られないのであれば、ログインしても意味はないのです)


ログイン限界が訪れれば、強制的にログアウトすることになる。


が、強制ログアウトであっても、ログインは通常と同じくログアウト時の場所となるため、強制ログアウトされたところで、ここに戻ることになるだけだ。


それではログインしてもなんの意味もない。


だが、いまのままではこのままログアウトすることにしかならない。


「……どうすればいいの?」


タマモはほろりと涙をこぼしながら、煙管を見つめる。見つめてもなにもできないし、なにをすればいいのかもわからなかった。


できなくてわからないまま、タマモは煙管をぎゅっと抱き締めながら、「お母様」と呟いた。


「ふふふ、すっかりと弱々しくなってしまったねぇ、タマちゃん」


不意にタマモの耳に声が聞こえた。顔を上げるも誰もいない。周囲を見回してもやはり誰もいない。


「……聞き間違い、かな?」


幻聴だろうと断じてタマモは顔を俯かせようとした。そのとき。


「大丈夫。タマちゃんはここを乗り越えられるよ」


ふわりと花の匂いがした。同時に背中に心地いいぬくもりが触れた。首だけで振り返るとそこには金髪の和服の美人さんがいた。


「……ぇ?」


「ふふふ、()()()()()ねぇ」


「……また?」


美人さんの言っている意味がタマモにはわからなかった。だが、美人さんはタマモのことを知っている。その違和感は若干気味が悪かった。


しかし不思議と抱きしめてもらうことは嫌ではなかった。むしろとても心が落ち着いていく。


「ええよ、タマちゃんはアタシのことを覚えてないと思うけど、アタシはタマちゃんのことを覚えている。タマちゃんなら大丈夫だってことをアタシは知っているよ」


「……どういうこと、ですか?」


美人さんがなにを言っているのか、タマモには理解できなかった。


だが、美人さんは笑っている。笑いながらタマモの頭を撫でてくれた。


「……ちゃんと周りを見るんよ」


「え?」


「タマちゃんの周りをちゃんと確認すればええよ。もしくは目印を作ってもええかもね。そうすればタマちゃんなら気づけると思うよ?」


「気づける?」


()()()()()()()()()、ということにね」


クスクスと美人さんは笑った。なにを言っているんですかと尋ねようとしたが、それよりも早く美人さんはふっと消えてしまった。包み込まれていたぬくもりもまた消えていた。あるのは少し前まで下っていた階段があるだけ。タマモの周囲には誰もいなかった。


撫でられていた頭にも、抱き締められていた背中にもぬくもりが残っていた。


タマモのものではない、別の誰かのぬくもりがたしかに残っていた。


「……狐につままれている?」


謎の美人さんの言葉をタマモは呟いた。いったいどういうことなのか。


言葉の意味はわかるのだ。


要は狐に化かされる。騙されているということである。


「……()()()()()()?」


騙されているという一言がやけに気になった。


「……反響がいつまでも続くこと。やけに長い階段。薄暗い通路」


その他にも気になることがあった。それをあえて口に出して羅列していく。


止まっていた思考が少しずつ巡っていく感覚があった。


「……確かめてみますか」


タマモは立ち上がると、すぐそばの壁に触れた。


「特にこれといったギミックはなし。となれば、お願いします、「三尾」」


タマモは「三尾」に指示を出した。「三尾」はその身を伸ばし、それぞれ一回ずつ壁を攻撃した。「三尾」の攻撃を受けた壁には大きな傷痕が残った。


その傷痕をタマモはしばらくの間じっと眺めた。


「……変化する様子はない、と。よし進みますか」


タマモは再び階段を下り始めた。相変わらず足音が反響するも限界になるまで歩き続ける。しばらくして立ち止まる。


「……()()はどういうことでしょうね?」


呼吸を乱しながらタマモは壁を見やる。()()()()()()3()()()()()があった。


「よし。次は戻ります」


タマモはいままでとは逆に今度は階段を上っていく。息は切れていたため、下りとは違い、あまり上ることはできなかったが、上りきれなくなるまで上ってから壁を見やると──。


「……やっぱり、傷痕がありますね」


壁には上がる直前にも見た3つの傷痕があった。その傷痕に向けてタマモは「三尾」を伸ばすと傷痕に沿うようにして、それぞれを振るった。3つの傷痕と「三尾」の動線は()()()()()()()()()()


「……そういうことですか」


タマモは大きくため息を吐くと、周囲を改めて確かめたが、タマモの目から見る限りで変わったものはなにもない。


「……「狐火」」


タマモは掌の上に「狐火」を作り出した。「狐火」は勢いよく燃えていた。揺らめることなく燃えていく。


「狐火」を出したまま、タマモは傷痕がある壁を起点にして周辺を歩き回った。階段にも目を向けはするが、基本的には「狐火」を見つめていた。


そうしてしばらく歩き回っていると、「狐火」が不意に揺らめいた。


「……ここですか」


「狐火」を近づけると、揺らめきは大きくなった。歩いているときでさえも揺らなかったのに、そこだけは揺らめていた。そこはちょうど傷痕のある壁の反対側だった。


「……「尻尾三段突き」」


タマモは躊躇うことなく、壁に向かって「尻尾三段突き」を放った。「三段突き」を放ったところでなんの意味もないはずだった。


だが、確信めいたものを抱きながら、タマモは壁を破壊すると──。


「ふふふ、()()()()()()()。さすがは眷属様よの」


──そこには広々とした空間があった。天井はタマモの背よりもはるかに高く限りがない。壁は果ての見えないほどに広がった部屋。真っ白な、病的なほどに真っ白な部屋。その部屋にぽつんと二脚のソファーがあった。そのひとつに大ババ様は腰かけていた。


「募る話もあろうが、まずは座られよ」


大ババ様は対面側、ちょうどタマモの目の前にあるソファーに座るように勧めた。勧められるままにタマモはソファーにと腰かけた。


「さて、まずは合格おめでとうと言わせていただこうか。それも()()()()()()()()()()とはのぅ。長生きはするものよな」


喉の奥を鳴らして大ババ様は笑っていた。その笑みはひどく人の悪そうな、それこそ邪悪と言ってもいいほどに歪みきったものだった。


「……ボクはどのくらい()()()()()()にありましたか?」


()()()1()()()()じゃな。いままでは早くても1時間を切れておらんかった。それを大幅に、圧倒的なほどに更新したのじゃ。さすがは眷属様よ」


体を小刻みに動かしながら大ババ様は笑った。その笑みにもその言葉にもタマモは大して思うことはなかった。が、ひとつだけ確認しようと思った。


「……ボクに「幻術」を掛けたのは、地下への扉を開けたときで合っていますか?」


「おや、それもわかったかえ。その通り。隙だらけであったのでな。ついついとな」


口元を扇子で隠しながら大ババ様は笑う。扇子で隠された口元が歪みに歪んでいることは想像に難くない。


わからないのは、なぜこんなことをさせられたのかということだった。


「なぜボクを?」


「……試しをしたくてのぅ」


「試し?」


「曾孫から眷属様のことは聞いておる。「旅人」であることもな。「旅人」が眷属様であるのは、異界にと眷属様方が向かわれたということであろう。もしくは()()()()()()()を異界にへと向かわせることで遺されたのかもしれぬ。その希望がこうして戻って来られた。であれば、試さずはいられなかった」


大ババ様は目を細めてタマモを見やる。タマモはなんと言っていいのかわからなかった。だが、大ババ様はそれでいいと思ったのか、淡々と続けた。


「その試しを眷属様は乗り越えられた。であれば、じゃ。()()()()()()()()()()()ぞ」


大ババ様が扇子をタマモにと向けると、場違いのようなファンファーレが響いた。


「おめでとうございます。称号「常春への招待状 」、称号「見極めし者」を獲得しました。「常春への招待状」の効果により、特殊マップへの移動が可能となりました」


ファンファーレに続いてアナウンスも流れた。どうやら2つ同時に称号を得たようだが、いまいち意味がわからない。


「さて、行きましょうか、眷属様」


大ババ様はソファーから立ち上がった。意味はわからないが、タマモは素直に頷いてソファーから立ち上がると──。


「……え?」


──景色が一変した。いままで見えていた真っ白な部屋はふっと立ち消え、代わりに太陽が見えた。青空を照らす太陽と鬱蒼とした木々、静かに流れるせせらぎ。そして──。


「あ、大ババ様ー!」


「お帰りなさい!」


──ボールのようなものを蹴って遊んでいる子供の「妖狐」とその母親たちらしき大人の「妖狐」たちと、いくつも連なる家屋が目の前に現れた。


子供の「妖狐」たちは大ババ様を見やると元気いっぱいに手を振っていた。着ている服は女の子はタマモやリーンのような巫女服で、男の子は宮司が着る白衣を身につけていた。


それは子供たちだけではなく、大人であっても同じだが、色はそれぞれに異なるようである。服の色は異なるが、耳や尻尾の色は多少の差異はあるが、基本的には緑系統だった。が、リーンほどにはっきりとした緑色の毛を持った「妖狐」はいないようだった。


タマモは言葉を失いなから、目の前の光景をただ見つめていた。


「ようこそ、眷属様。常春の国「()()()()()()」へ。歓迎致しますぞ」


大ババ様は恭しく一礼をしてそう言った。タマモはただその言葉に頷くことしかできなかった。

常春の招待状……妖狐の里の長の試練を乗り越えた者に与えられる称号。この称号を得た者は各妖狐の里へと無条件で往き来できるようになるが、ステータス欄には反映されない。取得条件は里長の試練を突破すること。


見極めし者……夢幻の試しをごく短い時間で乗り越えた者に与えられし称号。特殊効果は戦闘時におけるINTとMENの補正(大)を得る。取得条件は里長の試練を5分以内に突破すること。


物々交換者(水)……水棲系モンスターとの取引を行う変わり者なあなたに贈られる称号。効果は水棲系モンスターとの会話が可能となり、水棲系モンスターからの好感度が得やすくなる。取得条件は沼クジラを始めとした水棲系農耕モンスターとの取引を無事に終わらせること。

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