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76話 眠れる母性さん、こんにちは。はい、母性です。今日は一仕事させていただきますよ←

サブタイトルが長いですが、まぁ、そういうことです←

「──さぁて、そろそろ本題としようかの」


大ババ様はにこやかに笑っていたが、主に向いているのはタマモに対してではない。か多少は視線を感じてはいた。


タマモは大ババ様の視線が主に向いている人物にと視線を下ろした。


「ぅ~!」


タマモと大ババ様の視線が集まっているのは、タマモに抱きついている少女だった。少女は緑色の髪に、髪と同じ色のたれ目と小振りの鼻、桜色の唇のかわいい系の美少女である。


美少女であるが、その頭の上には縦長の立ち耳、背中には2本の尻尾がある。そのどちらも緑色という珍しい色だった。


服はタマモ同様に丈の短い巫女服だが、少女のそれは肩が露出しているタイプのもの。タマモ的には「ボクよりも似合っているのです」と思えた。


外見年齢的に言えば、少女の方がいくらか上であり、13、14歳くらいに見える。


その少女が外見年齢では、10歳児にしか見えないタマモに抱きついていた。それも若干涙目でだ。涙目になりながら大ババ様とタマモを交互に睨んでいた。


というのもこの少女の頭をタマモが撫でているからである。外見年齢では年下なタマモだが、中身は19歳の浪人生である。従妹の希望がちょうどこのくらいの年齢ということもあって、タマモにとっては妹分のように思えていたのだ。


加えて少女自身がタマモに涙目で抱きついていることで、普段はぐーすか眠りこけている母性さんがお目覚めし、真面目に仕事をしてくれているということもある。


つまりはタマモに頭を撫でられているのは少女自身の失態であった。


しかし少女自身はそのことにはまるっと気づくことなく、自身の頭を撫でるタマモとタマモに頭を撫でられる原因を作った大ババ様に威嚇していた。


だが、たれ目でかつ涙目で凄まれたとしてもタマモにはまるで怖くないのだ。


むしろ小動物が恐怖に耐えつつ必死に威嚇しているかのようで、逆に愛らしい。その愛らしさゆえに少女の頭を撫でるタマモの手は止まらない。胸を見るときとは似て非なる若干だらしなさそうな笑みを浮かべつつ、加速して少女の頭を撫でていくタマモ。


「い、いい加減にしてください、タマモひゃん!」


少女がタマモの手を払い除けたが、興奮していたこともあり、舌を噛んでしまう。そんな少女にタマモは頭を再び撫でながら「いたいのいたいの飛んでいけ~」とお約束な一言を口にしてしまう。その余計な一言に少女はまた唸り、ついに爆発する。


「いい加減にしてください、タマモさん!私を誰だと──」


「わかっていますよぉ、リーンさんですよねぇ。いい子、いい子」


「むぅぅぅぅぅ~!」


タマモは少女の頭を撫でつつ、その名を呼んだ。そう、この少女はリーン本人である。正確には本来の妖狐の姿になったリーンである。


人間の姿になっているときは外見年齢に引っ張られているのか、精神年齢は見目同様にわりかし高めなのだが、本来の姿になると外見よりも子どもっぽくなるようだ。


普段の、農業ギルドの受け付けチーフであるリーンを知っていたら、いまとの落差には言葉を失くすことだろう。


実際タマモも最初は驚いたものだが、度重なる大ババ様からのセクハラとも言える発言に耐えきれなくなったリーンが、本来の姿に戻って抱きついてきたときは、涙目になって必死に大ババ様を威嚇する姿を見てからは、眠れる母性さんが熱心に仕事をしてくれるようになった。


リーンはタマモに頭を撫でられつつも唸ってはいる。


だが、よく見ると緑色の2本の尻尾が絶え間なくふりふりと振られているのを見る限り、心底嫌がっているわけではないようだ。


むしろ若干心地よさそうに徐々に目がとろけている。


それを理解しているからこそ、タマモはリーンを甘やかしているし、大ババ様もリーンが陥落するのを特等席で見守っているのだ。


ただ当のリーンだけは必死に抗おうとしているが、タマモのぬくもりと頭を撫でる手の柔らかさ、そして時折紡がれる子守唄により、陥落しかけていた。


「わ、わたひは子供じゃないんですよぉ!」


タマモに抱きつきながら抗議するリーン。しかし抗議するのであれば、タマモから離れればいいだけなのだが、なぜか離れようとしない。加えて呂律が若干怪しくなっていた。


着実にタマモの母性にと陥落しつつあるリーン。そんなリーンを見て、大ババ様は「血は争えぬなぁ」と感慨深げに目元を袖口で拭っていた。


「大ババ様も誰かにこうして頭を撫でられたことがあるのです?」


「うむ。私もリーンくらいの頃に、旦那様にこうして甘やかしていただいたのぅ。そのときに私は旦那様にぞっこんになったものよ」


ほぅと熱い吐息を漏らしながら、遠くを眺める大ババ様。その姿は恋する乙女のようである。そんな大ババ様を眺めつつもリーンの頭を撫でていくタマモ。


「お、大ババ様と一緒にしないでください!わ、私はこんなことでぇ!」


「ふふふ、口ではそう言うが体は正直じゃぞ?ほれ、脚ががくがくと震えておろう」


「こ、これはぁ!」


「……正直になれ、リーン。その心地よさに身を委ねよ。心地よさに抗っても意味などない。むしろそれを受け入れてこそ、初めて誰かの上に立てるのじゃぞ?」


「う、うぅ~!わ、わたひは堕落なんへぇ!」


リーンの目は半分閉じかけていた。普段の仕事の疲れもあるのだろうが、それ以上にタマモの甘やかしが心地よすぎるのだろう。


いまにも陥落してもおかしくはないが、リーンは必死に留まっていた。だが──。


「堕落と考えたらダメなのですよ、リーンさん」


──タマモはリーンの片耳に息を吹き掛けつつ、 もう片方の耳の端を親指と中指の腹で擦り始める。とたん、「あひゃぁ!?」となんとも言えない叫び声を上げ、リーンの体は小刻みに震えていく。


「リーンさんはかわいいのです。かわいいのにお仕事をいっぱい頑張っているのです。でもそんなに頑張り通しでは潰れてしまうのですよ。そうならないためにもいまは心地よさに身を委ねてくださいね」


「ひゃ、ひゃ、ひゃぁ」


リーンはタマモの言葉を半ば聞いていない。いや、聞ける状態にはなかった。目も口も、いや、全身がとろけていた。脚どころか腰までがくがくと震えていた。そんなリーンを優しく抱き留めながら、タマモはリーンの頭を膝の上に乗せて、優しく頭を撫でていく。


リーンの目は閉じられた。いまにも寝息が聞こえてきそうである。


だが、リーンは「まだ仕事がぁ」と言っていたが、そんなリーンの耳元にタマモは唇を近づけると──。


「おやすみなさい、リーンさん」


──唇を軽く「チュッ」と鳴らした。リーンの顔は一瞬で沸点に到達したかのように真っ赤に染まり──。


「ふきゅ~」

──リーンは気絶した。よく見ると鼻から大量に出血していた。どことなく幸せそうにも見える顔であった。


「はぁ、この子はまったく」


大ババ様は頭を抱えていた。が、タマモは気絶するリーンを抱き留めながら大ババ様をじっと見つめていた。


「なにかな、眷属様?」


「リーンさんを寝かせてあげたいのですけど」


「あぁ、私のベッドに寝かせておけばいいさ。それよりも眷属様は油あげが欲しいのだろう?」


「はい」


「であれば、だ。用意する準備を手伝っておくれ」


そう言うと大ババ様はなぜか床板を弄り始めた。いったいどうしたのだろうと思っていると──。


「よいしょっと」


──大ババ様は弄っていた床板を掴むとそのまま勢いよく引っ張った。すると床板が大きく動いた。動いた床板の下には地下への階段があった。


「さて、行こうか、眷属様」


大ババ様はにやりと笑っていた。その笑みに背筋が冷たくなるのを感じつつも、タマモは「はい」と頷いたのだった。

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