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69話 ネタも手に入った!

大変遅れました←汗

今回はテンゼンの受難です←

水面が輝いていた。


頭上からの日差しによって水面がきらきらと輝いている。


水面の先には、やや黒ずんだ褐色の魚が流れに逆らうようにして泳いでいた。水中の中にいる虫を食べようとしているのか、口を大きく開けて迫っている。


虫は上下に跳び跳ねるようにして、必死に魚から逃げている。だが虫が逃げる速度よりも魚が迫る方が速かった。虫と魚との距離は徐々に詰まっていき、やがて逃げていた虫は、吸い込まれるように魚の口の中に入っていき──。


「来ました!」


──そこでタマモは竿を立ててた。魚が飲み込んだ餌に着けていた針が魚の口に掛かるのが、竿越しに伝わってくる。


したたかな手応えを感じつつ、タマモは一気に竿を振り上げる。


「せいやぁ!」


ザバァッという音を立てて、魚が水中から空中を舞う。舞った魚は放物線を描きながら、タマモが用意していたバケツの中に入っていく。


「ふふん。これで10尾目なのです!」


バケツの中には褐色の魚が10尾泳いでいた。


名称 チャーホ レア度3

冷たい水を好む淡水魚。同じく冷たい水を好む淡水魚であるチェリトとは、棲み分けが可能。別名「渓流の王様」とも。唐揚げにして食べるのが一般的である。


釣り上げた魚は「鑑定」によると、チャーホという魚のようだった。聞いたことのない名前の魚ではあるが、「渓流の王様」というとたしかイワナという魚が当てはまるはずである。


もっともタマモは現実でイワナを見たことはないため、チャーホが本当にイワナであるかどうかはわからない。


仮に違っていても、イワナをモチーフにしたことは間違いないだろう。


「……タマモさんは釣りが上手だね」


「これが初めてですよ。すごく楽しいのです!」


「……そっか」


「はい!」


鼻歌を口ずさみながら、タマモは左右に体を揺らしていた。体を揺らしつつ、釣り針に再び餌の虫をつけると水中に垂らしていく。


その隣では復調したテンゼンがどんよりとした様子で、肩を落としながら釣糸を垂らしていた。テンゼンの背後にもバケツはあるのだが、残念なことにバケツの中には落ち葉しか入っていない。


片や大漁、片やボウズという、隣合っての釣りであるはずなのに、あまりにも無惨すぎる差が生じていた。


「……テンゼンは下手であるな?」


ふたりの様子を見守っていたシュトロームは、テンゼンとタマモの釣果の差を見て、はっきりと言った。その言葉に「うっ」とテンゼンが顔を俯かせた。


「「手取り足取り教えてあげるよ、タマモさん」とか言っていたくせに、この惨敗っぷりはどういうこなのだ?」


「そ、それは」


シュトロームの追撃にテンゼンはより顔を俯かせていく。


タマモとテンゼンが釣りをしているのは、寿司作りのための最後の材料であるネタを、魚肉を得るためであった。


氷結王がどんな寿司を食べたいのかはわからないが、少なくとも最初は魚の寿司を出すべきだろうとタマモは思ったのだ。


が、現在地の内陸の山の中である。魚を手にいれるためには川や沼で釣るしかない。


しかし沼には肉塊こと沼クジラが棲息しているため却下である。


となると残る釣り場は川だった。


幸いなことに「霊山」の北側を流れる川にはそれなりの数の魚が棲息しており、シュトロームからは生態系を崩さない程度ならば、いくらでも釣っていいというお許しを得ていた。


だが、お許しを得たとき、まだタマモは釣りをしたことがなかったのだ。


お許しを得ても経験がないとなると、どうすればいいかはさっぱりである。


それでもどうにか釣ろうと思っていると、テンゼンが不敵に笑ったのだ。


「ふふふ、今回こそは僕の出番だね。こう見えて趣味は釣りな僕さ」


これ以上とないドヤ顔を披露しながら、テンゼンは胸を張っていた。


胸を張りながら、「今回こそはタマモさんにいいところを見せるんだ!」とひそかに闘志を燃やしていた。


だが、当のタマモはテンゼンの闘志には気づくこともなく、「ご教授お願いします」と頭を下げた。


だが、その時点ではまさかボウズという不本意な釣果になるとは思ってもいなかったテンゼンは、自信かに「任せてよ!」と応えたのだ。


そうしてタマモに釣りのレクチャーをしてからはや数十分、ふたりの釣果は一言で言えば、見るも無惨としか言いようがない。


当初は自信に満ち溢れていたテンゼンだったが、現在はもう虫の息状態である。フードから覗く目からは光が失せていた。


そんなテンゼンとは対象的に──。


「またまた来たのです!」


──ザバァッと勢いよく竿を振り上げて、かれこれ11尾目のチャーホを釣り上げたタマモ。タマモがチャーホを釣り上げるたびに、テンゼンの目からは光が消えていっているのだが、当のタマモはそのことには気づかず、鼻歌混じりに餌である虫を針に着けていた。


最初は気持ち悪がっていたタマモだったが、いまやみずから餌である虫を捕まえるほどに成長していた。


「イヤッホー!また釣れたのですよぉ!」


釣り糸を垂らしてすぐにアタリが来た。タマモは難なく合わせると、そのまま一気に釣り上げていく。


どうしてタマモとテンゼンにここまでの釣果の差が生じているのかと言うと、それは単純にステータスの差である。


「EKO」において釣りはDEXの数値がものを言う。単純なDEXの数値で言えば、タマモのそれよりもテンゼンの方がはるかに勝っていた。


が、タマモには「三尾」があった。本体であるはずのタマモのステータスを大幅に超えたステータスを持つ3本の尻尾があった。


実は釣りだけではなく、各生産に対して、タマモの素のステータスに「三尾」のステータスは加算することができるのだ。


ただし加算するためには「三尾」を使用する必要がある。


現在タマモは釣竿を両手だけではなく、「三尾」でも握っているのだ。


つまり加算する条件はクリアしているのだ。そのためタマモの素のステータスに「三尾」のステータスが上乗せされた結果、大漁の釣果となっているわけだった。


その余波を受けた結果、テンゼンはボウズとなっていた。


ボウズを回避するには、距離を取るかステータスで上回るしかないのだが、そのことを知らないテンゼンは、呆然となって釣り糸を垂らしつづけていた。


「釣りって楽しいのです!」


「……ソウダネェ」


再び釣りを垂らすタマモといいところを見せるどころか、とことん株を下げていく結果に、いまにも泣き出しそうなテンゼン。しかしタマモは気づくことなく、釣りを続けていく。


そんなふたりのやり取りをシュトロームは苦笑いしながら見守っていた。


その後、20尾という大台に達したところでタマモは釣りをやめた。そのときテンゼンの釣果がどれほどのものであったのかは、あえて言うまい。人には突きつけられたくない現実というものがえてして存在するのだ。


だが、そんな将来に気づくことなく、テンゼンはわずかな望みを胸にタマモの隣での釣りという名の公開処刑を受け続けたのだった。

悉く株を下げていくテンゼンの明日はどっちでしょうね←

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