65話 ふたりのタマモ
少々遅れました←汗
理解できない光景だった。
「ふふふ」
目の前に突如として現れたのは、この世界ではまだ見たことのない、いくらかの畳とその上には小さな提灯があった。
いくらかの畳はきれいに敷かれており、ずっと前からそこにあるかのようだった。
だが、それにしては畳は汚れひとつなく清潔感がある。畳は昔の団地に敷かれているような小さめのものが6つ敷かれている。本来の畳のサイズであれば、四畳もあるかどうかだろう。
その畳の上に金髪の美女は、どこから取り出した煙管を咥えてタマモを見つめていた。
「そう固くならんと、崩してもええですよ?」
くすくすと笑いつつ、美女は咥えた煙管を離した。いつのまにかあった火鉢の淵にとんとんと軽く当てて中の灰を除いていた。
「え、あ、でも」
「ええの、ええの。主神様の前なら、礼儀正しくしてもらうけど、この場にはあたししかおらんから、楽にしててな?」
「は、はぁ。ではお言葉に甘えるのです」
美女の言葉に甘えてタマモは正座を崩した。現在タマモは謎の金髪美女の前で正座をして相対していた。
後ろからいきなり現れたこの美女が、ニコニコと笑いつつタマモに座るように促したのだ。
最初は怪しんでいたタマモだったが、美女のあまりにも毒気のない表情に、とても穏やかな表情の前に完敗し、恐る恐ると畳に座ったのだ。正座をしていたのは華道を習っていたがゆえにである。
最初は楽しかった華道だったが、徐々に指導の熱が込められるにつれて、嫌になってしまった。
それでもどうにか続けてはいたが、あまりいい思い出はない。
その華道を続けていたがゆえに正座をしていたのだが、美女はそんなタマモに脚を崩すように促した。
主神様の前ではないのだから、ということだったが、その主神様に関してタマモが知っていることは少ない。
エルドという名前であることは知っているがそれ以上の情報はあいにくと持っていないのだ。
だが、主神のことは正直言ってどうでもいい。問題なのは、目の前にいる金髪美女のことだ。
(誰なんでしょう、このお姉さん?)
こんな感覚が狂う貯蔵庫という名の洞窟の中で、畳を敷いてひとりぽつんといるということは、なにかしらのイベントなのだろうが、その意図することがタマモには理解できない。
だが、わかることはあるのだ。それは──。
(アオイさんを超えているのです!)
タマモにとって至高の胸であるアオイのそれを目の前の美女は超えていた。具体的なサイズに関しては触れなければわからないが、厚い和服越しから見る限りは、メーターサイズ手前だろうとタマモは断じた。
「ふふふ、お胸が好きなん?」
不意に美女の声が聞こえた。顔を上げると美女はタマモをおかしそうに見つめていた。
タマモは慌ててごめんなさいと頭を下げた。初めて会った女性の胸を凝視するなどあるまじき行為であることにようやく気づいたタマモは慌てて頭を下げた。
「ご、ごめんなさいです!つい」
ついで許されるなら、衝動で起こした犯罪はすべて許されるとまでは言わないが、ある程度は大目に見られかねない。
とはいえ、今回のことで女性が害したのは、胸を凝視されたということであり、物理的な被害を受けたわけではない。
しかし被害は被害であるので、誠意を込めた謝罪は当然のことと言えるだろう。
そうして誠意を込めた謝罪をすると、女性はふふふ、と笑うだけだった。
「ええよ、あたしもわりと好きだから」
「へ?」
「ふふふ、あたしもお胸が好きなんよ」
美女は笑っていた。その笑顔は繕ったものではなく、心の底からの笑顔であった。
「ぼ、ボクもお胸が大好きなのです!」
「へぇ。やっぱりなぁ。あたしの自慢のお胸をじっと見ているから、もしかしたらなぁと思っていたんよ。ふふふ、あたしら似ていますなぁ」
「はい!お姉さんは」
「あぁ、名前はまだ言うておらんかったねぇ。あたしはタマモ言うんよ」
「お姉さんもなのですか?」
「あらあら、お嬢ちゃんももしかして?」
「はい、ボクもタマモなのです」
「ふぅん。でもそうなると呼び分けせんとねぇ。そやね、じゃあアタシはお嬢ちゃんをタマちゃんと呼ぶわ。お嬢ちゃんはおタマさんと呼んでくれる?」
「はい、もちろんです」
タマモの中で美女からは怪しさが消えた。タマモの趣味は同性からなかなか理解されなかった。そこにまさかの同士かつアオイを超える胸の持ち主が現れたのだ。信じられないわけがない。いや信じせずになにを信じろと言うのだろうか。タマモは謎の美女ことおタマに全幅の信頼を向けた。
そんなタマモを見ておタマはとても穏やかに笑っていた。その光景は端から見れば仲のいい親子ないしは歳の離れた姉妹のようだった。




