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64話 金髪はんなり美人さん

氷結王の貯蔵庫という洞窟は暑くもなく、寒くもない。すごしやすそうな気温だった。なんの灯りもない暗がりであることを除けば、だが。


「どうだ、妖狐よ。この貯蔵庫は?」


シュトロームは先頭を進みながら、時折タマモたちにと振り返っていた。いまのところ分かれ道もなく、真っ暗な一本道だった。


ただし、上に向かっているのか、下に向かっているのかはいまひとつわからない。なんの灯りもないため、方向感覚が少しばかり狂い始めている。先頭を進むシュトロームの背中がどうにか見えているからこそ、まだ完全に狂ってはいない。


加えて地面を踏み鳴らす音も助けとなっていた。その音も徐々に反響が大きくなっていくため、そのうちに耳も狂い始めるだろうが。


「ボクよりもテンゼンさんを気にしてあげてください」


ちらりと背後にいるテンゼンを見やると、テンゼンはタマモに手を引かれなから頭を押さえていた。フードから覗く顔は、わずかに見える顔は蒼白となっていた。


「……すまないが、ちょっと声を抑えてほしい。少し辛い」


テンゼンは大きな深呼吸を繰り返しながら、どうにか返事をしていた。


獣人であるタマモよりもヒューマンであるテンゼンの方がこの貯蔵庫にいるのは辛いようだ。


タマモは獣人、しかも狐の獣人であることが幸いしているようだ。


狐は夜行性の動物であるが、タマモは別に昼間だろうと夜間だろうとあまり変わらない。


だが、こうして真っ暗な闇の中を進んでいると、不思議な充実感があった。


まるで闇の中こそが自分の主戦場であるかのように、体の感覚が鋭敏化していくようだ。


とはいえ、それで強くなったというわけではない。


あくまでも感覚が鋭くなっているというだけのこと。しかも感覚が鋭くなったおかげで、この貯蔵庫の異様さの餌食になってしまっていた。


「……そこら中に感覚を狂わせる呪いを刻まれているようですね?」


「ほぅ、わかるのか?」


「なんとなくですけどね」


この貯蔵庫の異様さは、こうして歩くことでよくわかった。


進めば進むほど、感覚がおかしくなっていくのは、決して暗闇だけが原因ではない。


感覚を狂わせる呪いが、そこら中に刻まれているのだろう。ひとつひとつの呪いの力は弱いだろうが、進めば進むほど、その呪いは重なり続けて体を蝕んでいく。


さすがに呪いそのものは見えないものの、時折足音とは違う、ボゥという妙な音が聞こえていた。加えて見間違いかと思ったが、ほぼ闇と同化している一瞬だけ見える黒い光が視界の端をよぎっていた。


シュトロームに聞こうかと思っていたが、そのときにはすでにテンゼンは呪いに蝕まれていたため、聞くに聞けなかったのだ。


いまもテンゼンは呪いに蝕まれているが、そろそろ事情を聞くべきだろうと思ったのだ。少なくとも事情もわからずに体を蝕まれているよりかは、その事情を知っている方がましだと思った。


「呪い、って?」


呼吸をするだけでやっとという体でテンゼンは口を開いていた。


辛いのであれば、無理に話さなくてもいいとは思ったが、それを言ったところでテンゼンが言うことを聞くとは思えないので、好きにさせておくことにした。


(話している方が気も紛れるかもですし)


話をしている方がかえって楽ということもある。ほぼ誤差のようなものだろうが、多少であっても気を紛らわせられるのであれば、やるべきだった。溜め込み続ける方がかえって気を滅入らせることもある。が話をすることで逆に悪化することもあるが、その辺りはさじ加減としか言いようがない。


「テンゼンにはわからないだろうが、この貯蔵庫の岩壁にはいくつもの呪いが刻まれている。この貯蔵庫自体には酒があるくらいだが、その酒の中には貴重なものもあるのでな。盗難防止用に呪いが刻みこまれているのだ」


「……それで感覚がおかしいのか」


大きなため息を吐くテンゼン。同時にテンゼンの体は大きく崩れた。手を引いていたタマモも体勢が崩れかかったが、とっさに「三尾」が楔のように地面に突き刺さったことで倒れこむことを防いでくれた。


「テンゼンさん、大丈夫ですか!?」


タマモは体勢を崩したテンゼンに声を掛けるが、テンゼンは体を震わせており、すでに限界のようだった。


「ごめん、ちょっと無理のようだよ」


テンゼンはそう言うだけで精一杯のようだった。


「シュトロームさん、ちょっと待っていてください。テンゼンさんを外に」


「いや、我が連れて行こう。そなたは先に進め」


「え、でも」


「そなたではテンゼンを抱えられまい。となれば我が連れて行くしかなかろう。ここは一本道だ。道に沿って行けばそのうちにたどり着ける」


それだけを行ってシュトロームはテンゼンを背中に抱え込んだ。テンゼンは大きな呼吸を繰り返していて、辛そうだった。あまり時間を掛けるのはかえって悪い。タマモはシュトロームの言葉に頷くしかなかった。


「じゃあテンゼンさんはお願いします」


「うむ。外で休ませたらすぐに戻る」


「……ごめんね、タマモさん」


テンゼンは蒼白な顔をしながら、申し訳なさそうに謝っていた。「気にしないでください」と言うとテンゼンはまた「ごめんね」と言ってまぶたを下ろしていた。


「では、妖狐よ。また後程」


「はい」


シュトロームがテンゼンを背中に乗せて外に向かっていく。その姿が見えなくなってからタマモは暗闇の中をひとりで進み始めた。


シュトロームの言うとおり、一本道はずっと続いていた。

感覚は徐々におかしくなっていくが、問題のない範囲だった。


そうしてある程度進んでいくと、不意に光が見えた。


なんだろうと思いつつ、道の先に見える光へとまっすぐに進んでいくと──。


「畳?」


──なぜかむき出しの地面にいくらかの畳が敷かれていた。その畳の上には提灯が置かれており、どうにも世界観とあまり合わない光景だった。


「なんでこんなところに?」


タマモが首を傾げた、そのとき。


「あらあら、どんなべっぴんさんかと思いましたけど、こんなにかわええ子が来るとは思いませんでしたなぁ」


不意に後ろから声が聞こえた。


慌てて振り返るとそこには陽光を思わせる金色の髪をした和服の美人さんが立っていた。


「ふふふ、おこしやす」


その美人さんはにこりとタマモに笑いかけたのだった。

はんなりってこんな感じだったはず。間違っていたらごめんなさい←

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