表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

300/1003

62話 お酢がある?

……本当にお休みの日はダメダメですね←ため息

昨日は更新できずにすみません←汗

今回はテンゼンが思春期っぽい反応をしつつ、懸念となる酢についての内容となります。

「お米は手に入れられましたが、まだ問題はありますねぇ」


おにぎりを頬張りつつ、タマモは腕を組んで悩んでいた。

タマモが考えているのは、氷結王が食べたいと望んでいる寿司のことだ。


寿司の材料のうち最大の懸念と言えた米は、沼クジラから手に入った。


だが、米が手に入ったからと言って、それで寿司はできない。寿司を握るには必要なものがまだある。ネタとなる具材と、白米を酢飯にする酢だ。


具材に関しては川の魚を釣ればいい。本来は海の魚にしたいところだが、海がどこにあるのかわからない以上海の魚を手に入れるというの諦めるしかない。


現実では川魚は寿司には向かないだろうが、さすがにそこまで現実と同じとは思わない。いや、思いたくない。


ただやりようにはよるだろう。


たとえば、魚肉を酢に浸けて殺菌するなどだ。ただこれはやりすぎると、酢の味しかしない、およそ食べられない一品ができる。


マリネも酢には浸けるが、酢だけではく野菜等も一緒に浸けるのだ。


魚だけを酢漬けにするわけではない。ゆえに注意を払って浸ける必要がある。


やりすぎて口に入れた瞬間に吐き出すようなものにしてはいけないのだ。


そんなものを氷結王に出すわけにはいかない。いや、出せるわけがない。


ゆえに酢に浸けてもほどほどにするべきだろう。寿司のネタというよりもマリネという方が近いかもしれないが、手に入る具材で踏まえるとネタにできる限界はこのあたりとなる。


「やっぱりお酢ですねぇ」


口の回りにご飯粒をつけながら、タマモは次の目的を決めた。


「タマモさん、口の回りが」


テンゼンが腕を伸ばし、タマモの口の回りのご飯粒を取ろうとしたが、それよりも早くシュトロームの体の一部が伸ばされ、タマモの口回りのご飯粒を取ってしまう。ふたたび硬直するテンゼン。がシュトロームは気にすることなく続けた。


「考え事に耽るのはいい。だが、少しは身の回りのことに目を向けるべきだ」


そう言ってシュトロームは、取ったご飯粒のついた一部を玉藻の唇に当てる。タマモは「もぎゅ」という妙な声を上げつつ、文字通りに突きつけられたご飯粒を咀嚼していく。


ほかのスライムたちは微笑ましそうにタマモとシュトロームのやりとりを見やっていたが、テンゼンはなぜか顔を逸らして鼻を押さえていた。フードからわずかに覗く耳は真っ赤になっているのがとても印象的である。


が、そのことに気づく者は誰もおらず、少々悶々とするテンゼンだった。そんなテンゼンを無視するかのようにタマモはご飯粒をごくんと嚥下した。その音にもなぜかビクンと反応するテンゼン。それからなぜか頭を近くの木の幹に打ち付け始めた。


突如として始まったテンゼンによる奇行は、さすがにその場にいた全員の目に留まったが、「そういうこともあるのだろう」と思われてしまった。もっと言えば「またなにか拗らせたな、こいつ」とシュトロームを筆頭にするスライムたちには取られてしまったがため、シュトロームたちはなにも言わない。


タマモに至っては、「テンゼンさんにもいろいろとありますよねぇ」と考えたためにあえて触れないことにしたのだ。


しかし当のテンゼンには、それぞれの反応を気にする余裕はなく、「邪念撲滅」と呟きつつ、みずからの額をひたすらに木の幹にぶつけていた。その表情は鬼気迫りつつも、耳どころか首筋まで真っ赤にしてしまっていた。目が渦を巻いているのは言うまでもない。


「とりあえず、お酢を手に入れないと話にならないのです」


「ふむ。お酢というのはどういうものなのかな?」


「そうですね。酸っぱい液体ですかね」


「酸っぱい液体?」


「はい。酸っぱい液体です。それに浸けるとみんな酸っぱくなってしまうのです。でもその酸っぱさが体にはいいのです。疲れも取れてしまうのですよ」


テンゼンの奇行を横目に、タマモはシュトロームに酢の説明を始めた。


とはいえ、説明と言っても具体的には説明できない。酢はどのご家庭にも常備されているものだが、具体的な内容となると、完璧に説明できる人はそうそういない。


酢は酒を発酵して作るということくらいはわかるが、具体的な製造方法を言える人はやはりそうそういない。タマモもそのうちのひとりだった。酢は馴染み深いものだが、その酢について知っていることはほとんどないのだ。


ゆえに酢について知らないシュトロームたちに、酢のことを伝えるのはなかなかに難しいことだった。


「……もしやアレのことか?」


簡単すぎる説明をし終えると、シュトロームが口にしたのは驚くものだった。心当たりがあるとシュトロームは言ったのだ。


「え、お酢があるんですか!?」


まさかのシュトロームの言葉に驚きを隠せないタマモ。そんなタマモにシュトロームは「うむ」と頷いた。


「昔、我が君に人間たちが貢物した酒があった。我が君は酒がお好きだったのでな。いまはすっかりと飲まれなくなり、深山の貯蔵庫にしまっていた。だが最近、貯蔵庫にある酒を久しぶりに飲みたいとされていたので、取りに向かったのたが、つんとする強い臭いになっていたのだ。試しに飲んでみたがあまりの酸味に吐き出してしまったよ。ただ不思議なことにたまたま浸かっていた野菜は、わりと美味かったな」


シュトロームが口にした内容にタマモは「それです!」と叫んでいた。米に続く懸念であった酢がまさかあったのだ。叫ぶのも無理もない。


もっとも叫ばれた側のシュトロームにとっては、目を白黒とさせてしまったが、タマモは止まらない。


「シュトロームさん、その貯蔵庫に連れて行ってください!材料が揃うのです!」


「……わかった。そなたであれば、我が君も構わぬと仰るだろう」


シュトロームは少し考え込んだが、最終的には頷いてくれた。


「そなたらはここまででよい。戻れ」


「「「承知しました!」」」


シュトロームが配下のスライムたちに目配せをするとスライムたちは、一斉に頷くと跳び跳ねながら散開していった。スライムたちの跳び跳ねる音とテンゼンの幹に頭を打ち込む音だけがしばらくの間聞こえていた。


「さて、では行こうか」


「はい」


スライムたちが遠ざかってから、シュトロームがタマモを見やる。タマモはしっかりと頷いてからシュトロームの後を追いかけていく。


「ふぅ、やっと落ち着いて──って、僕を置いていくなよ!?」


ふたりが遠ざかってからようやくテンゼンは正気に戻った。すでに一駆けしないちタマモたちには追い付かない距離だった。テンゼンは慌ててふたりの後を追いかけたのだった。

……テンゼンは本当に童貞らしい反応をしてくれます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ