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61話 おにぎり

「──さて、実食ですが」


炊き上がった白米を前に、タマモは腕を組んでいた。


炊き上がった白米は、どう見ても丸みのある、うるち米等のジャポニカ米である。細長いインディカ米ではない。


が、見た目はそうでも味はわからない。ジャポニカ米の見た目で味は粘り気がないという可能性もあるのだ。


むしろここの運営であれば、そういう手の込んだ嫌がらせさえもしかねない。


ゆえに確かめるためには実食しかない!とタマモは思ったが、いざ実食しようにもどう食べたらいいものか、悩んでしまっていた。


「むぅ、ご飯と言えば、やはりおかずも必要ですよね。ですが、そのままおかずを用意してご飯と一緒に食べるというのは、なにか味気ないのです」


そう、ただ食べるだけというのは、なんとも味気なさすぎる。


もっと言えば工夫が欲しいのだ。


たとえばご飯自体を加工するなど。つまりはご飯を調理することも必要なのではないかと思うのだ。


「とはいえ、ですよ」


初心者にありがちなのは、すでにあるレシピに余計なものを加えてしまうということ。「隠し味」と称して使わない調味料を大量に投入したり、必要のない具材を大量に投入したりなど。


総じて余計なことをしなければ、まともに食べられはしたであろうものを、生ゴミにクラスチェンジさせてしまうのだ。


「……せっかくのご飯に余計なことをするべきではないですね」


今回で言えば、ご飯の実食であるのだ。その実食にご飯の調理など必要ない。余計な調理をしてご飯の味自体を損ったら、なんの実食なのかわからなくなる。


余計なことをせずに、ご飯そのものの味を確めるべきだ。


ただそれだけでは少々味気ないのも確かである。


となれば、だ。


余計なことをせずに、なおかつ味気ないものではなくせばいいのだ。


一見矛盾しているが、両立する方法はある。


「となれば、さっそくやりましょう!」


タマモはインベントリの中にあった調味料のうち、塩を取り出すと、炊く際に残った水で手を濡らした。それから塩をやや多めに指につけると白米を掴んだ。


「あちちち。やっぱり炊きたては熱いですね」


炊きたての白米はとても熱かった。だが、熱いうちに握ってこそである。タマモは熱さと戦いつつ、白米を形成していく。


白米が三角形になるにつれて、徐々にその熱さに慣れ始めるが、熱いものは熱い。


それでも頑張って白米を握っては離し。握っては離しを繰り返し行っていった。そして──。


「よし、まずはひとつめです!」


炊き上げる際に使った木の蓋の上に形成した白米を、おにぎりを置いた。


「……おにぎりと言うには、ちょっといびつですね」


完成したおにぎりは、三角形と言うにはいびつになっていた。


そもそも完全に三角形にするためには、型にいれる必要がある。


人の手だけで三角形にするのは、なかなかに難しい。


加えてタマモが作ったものは、中には具もなく、海苔を巻き付けているわけでもない。いわゆる塩むすびだ。


おにぎりというには、一般的に想像するおにぎりとは差異があった。どちらかと言うと、おにぎりではなく、おむすびである。


「まぁまぁ、実際に作ったらこんなものさ」


テンゼンは慰めつつ、タマモの握ったおにぎりにと手を伸ばしたが、テンゼンの手よりも早くシュトロームがおにぎりを掠め取った。


「……ほぅ、これは」


シュトロームはどこか遠くを眺めつつ、おにぎりを観察してから横線にしか見えない口を大きく開けて、かじりついた。


「お味はどうですか?」


「うむ。塩の加減と穀物の甘味がほどよくバランスを取れていて美味である」


「それはよかったのです」


「うむ。できればもう少し食べたい」


「構いませんよ。シュトロームさんにはお世話になっていますし」


「ありがとう」


シュトロームは嬉しそうに笑っていた。その目尻が少し濡れ光っているように見えるのは、きっと気のせいではないだろう。


(長く生きていた、いろいろとありますもんね)


あえて濡れ光る目尻についてはなにも言わず、タマモはふたたび白米を握っていく。その姿を見つめるシュトロームの目はとても穏やかだった。対して──。


「タマモさんの、おにぎりが」


寸前でおにぎりを掠め取られたテンゼンは、静かに泣いていた。


だが、フードを被っていることが仇となり、誰にも気づかれることなく泣き続けることになったのだった。


こうしておにぎりを実食した結果、手に入ったのはジャポニカ米であるという確証をタマモたちは得たのだった。

テンゼン(ほろり とするべきか、タマちゃん(汗 とするべきか。非常に迷いますね←

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