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53話 特性と誇りと

シュトロームの先導のもと、タマモたちは「霊山」の北側へと向かっていた。


『北側に向かうには、特にこれと言った許可は必要ないのだ』


北側に向かいながらシュトロームは、「スラスラ」と言いながら念話で説明してくれていた。


正直「スラスラ」と言うのは必要なことなのだろうかとタマモは思うが、説明のためには必要なことなのだろうと思うことにした。


『北側は基本的には我ら眷属が詰めている。まぁ、我のように人語を解するものはそういないが、基本的には人畜無害な連中だ』


「無害なのに、面倒なんですか?」


『うん?』


「えっと。さきほど、シュトロームさんは面倒な奴がいる、ということでしたから。もしかしたらスライムさんたちがそうなのかな、と」


恐る恐るとタマモは思ったままのことを言っていた。テンゼンは「……タマモさん」とやや呆れたように顔を手で覆っている。


タマモとて、失礼かなとは思ったのだが、すでに口にしていることをなかったことにはできなかったのである。


『ふふふ、まぁ、たしかに我ら眷属は面倒なところはあるかもしれんな。特にそたならのような人間たちにとっては、物理攻撃が効かないというのは悪夢のようであろうよ』


シュトロームはどこか楽しげに笑っていた。怒っている風には見えないので、あまり気にしてはいないのだろう。むしろどこか嬉しそうでもあった。


「……怒らないのですか?」


『うん?なぜだ?』


「だって、ボクはいまスライムさんたちが面倒だと言ったんですよ?それはつまりシュトロームさんにも」


『ははは、なんだ、そんなことか。その程度のことで怒るわけなかろう。さきほども言ったが、事実我ら眷属はそなたら人間たちにとっては、面倒なモンスターであることには変わりあるまい?』


「それは、その」


なんて言えばいいのかわからなかった。たしかに魔法でしか傷つけられないスライムたちは、魔法が使えないタマモにとっては面倒を通り越して天敵のような存在である。


だが、そのことをスライムであるシュトロームに言うのはどうだろうか。


たとえ本人がそう言ったとしても、頷くのはどうにも憚れた。


『よいよい。実際我もそなたらの立場であれば、面倒極まりないと憤慨するであろうしな』


シュトロームは、楽しげに笑っていた。いままでの言動を踏まえると、スライムたちにとっては「面倒な相手」という言葉は、もしかしたら一種のステータスなのかもしれないと思えた。


でなければ普通は怒りはしなくても、苛立ちはしそうなものだ。


だが、シュトロームは怒ってもいなければ、苛立ってもいない。それどころか、嬉しそうにしているあたり、ステータスないしは褒め言葉ということになるのかもしれない。


(考えてみれば、種族によって特性は異なるわけですから、その特性を誇るのは当然ですか)


オーガであれば、その圧倒的な腕力を。ボア系のモンスターであれば、その凄まじい突進力を。鳥系のモンスターならば、その飛翔能力を。それぞれに誇るのはある意味当然かもしれない。


であれば、だ。スライムが物理無効であるその体を誇りに思うのは当然ということになるのだろう。


事実シュトロームは嬉しそうに鼻歌を歌っている。それが答えのような気がしてならない。


『さて、話を戻そうか。面倒な相手というのは、他ならぬ我ら眷属のこと──ではない』


「え?」


『そなたらにとっては我らも面倒だろうが、これから向かう北側には我ら以上に面倒な奴がおってな。まぁ近づかなければ問題はなかろうが』


「いったいどんなモンスターで」


『……ん~。行けばわかるな』


シュトロームがため息を吐いた。その言い分からして強いというわけではなく、相手をするのが実際に面倒くさいということなのかもしれない。


(いったいどんなモンスターなんでしょうかね?)


若干嫌な予感を抱きつつもタマモたちは、「霊山」の北側にと足を踏み入れた。そのとき。


「ぼぇぇぇぇーっ!」


どこからともなくその声は響き渡ったのだった。

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