50話 判明と困難
後程体裁を整えます←汗
P.S.体裁を整え&少々追加しました
「あれは、不思議なものだった」
「不思議、ですか?」
「うむ。様々な味があったし、別々の姿にもなる。だが、それらすべては同じ料理だったのだ」
「同じなのに違う?」
氷結王が言う料理は、かなり特殊な一品のようだ。
味が異なるというのであれば、まだわかるのだ。例えばカレーであれば、使用する具材によって味が変化する。本場のインドカレーであれば、家庭ごとに味が異なっているということを聞いたことがある。
それはほかのどんな料理にも同じことが言えた。スタンダードなタイプからバリエーションを持たせることで飽きが来ないようにしている料理は、それぞれの国でいくらかはあるだろう。
だが、味は異なえど、見た目は同じなはずだ。カレーであっても、ライスカレーかナンカレーという差異はあるし、別々という言葉にも当てはまるが、氷結王のニュアンスからはもっと多様性な姿があるという風に取れた。
「ちなみにですが、具体的にはどのような?」
「そうさな。味は使う具材によって変わるのだ。基本にはさっぱりとしたものだが、甘酸っぱくもなるし、辛くもなる。ジューシーなものもあったよ」
「むぅ、本当に様々な味がある料理なのですね」
基本はさっぱりとしていながら、甘酸っぱくもなるし、辛くもなるし、ジューシーにもなる。
正直なんじゃそらと言いたくなる内容ではあった。ただ、なんとなく輪郭は掴めそうだ。だが、どうにもはっきりとしない。
(さっぱりとしているということは、お魚か野菜を使ったということなんでしょうけど、甘酸っぱくもなって、辛くもなるというのはどういうことです?ジューシーというのは、お魚にも脂がありますし、野菜だって調理のしかたではやりようはありますからおかしくはありません。だけど、甘酸っぱくもなるけど、辛くもなるって、どんな料理ですか)
さっぱりとしたというと、魚か野菜を使ったということになる。肉もやりようによってはさっぱりとしたものになるのだろうが、基本的にはさっぱりとしているという言葉からはかけ離れていた。
しかし甘酸っぱくもなり、辛くもなるという一言が混迷を呼び込んでくれた。
(まだ甘いとか、辛いとかならバリエーションになるでしょうけど、甘酸っぱいってなんですか、甘酸っぱいって!)
甘さと辛さであれば、まだわかる。甘さは味覚であり、辛さは痛覚ということもあるが、どちらもありえるものだ。
しかし甘酸っぱいというのはどういうことだろうか?
カレーであれば辛いものもあるが、子供でも食べられる甘口のカレーもあるだろうが、甘酸っぱいカレーとは聞いたこともない。探させばあるかもしれないが、タマモはまだそんなカレーは聞いたことがない。
(いや、カレーと決めつけるから混乱するのです!氷結王様の説明から相応しいものを見つければいいのです!)
カレーを例に挙げたからゆえの混乱であるのだ。ならば、カレーを除外すれば答えは自ずと出るはずだ。
なにせ、だいぶ特殊な一品のようであるし、すべてに当てはまるものを見つければいい。
いわば、篩をかければいいだけだ。そう、篩をかければ答えは導き出されるはずで──。
(わかるかぁぁぁぁ!こんな特殊にもほどがある料理なんて知るわけねーのです!)
──篩をかけた結果は、わからないという答えになった。
甘酸っぱくもなるし、辛くもなるという一言がやはり難敵であった。
それ以外であれば、というか、それぞれの要素だけを抜き取れば、多様な選択肢はある。
例えば漬物であれば、さっぱりとしていて、なおかつ別々の姿にはなる。
スイーツではあるが、杏仁豆腐などもさっぱりとはしている。
ジューシーというのであれば、肉料理は大抵そうだ。
辛さと言えば、やはりカレーや麻婆豆腐が真っ先に思い付く。
しかしそれらすべてを内包するとなると、一気に選択肢は消える。
特に甘いではなく、甘酸っぱくて、辛みもある料理。そんな料理などはたして存在するのだろうか。
「……色や形はどうでしたか?」
「色はそうだなぁ。やはり様々だな。赤いものもあれば、白いものもあり、薄いピンクのものもあった」
「……ソウデスカ」
(余計にわからなくなったのですよぉぉぉぉぉーっ!)
色を聞いたのは余計だったかもしれないとタマモは思った。
色を聞いたせいで輪郭がいっそうぼやけてしまった。まだ青や緑といったサイケデリックな色彩ではなかったことは救いかもしれないが、色を聞いたことでより輪郭がぼやけてしまった。
(こんな、こんな料理なんてあるわけが──)
もはや匙を投げる寸前になっていたタマモ。だが、続く言葉に光明を見いだすことになる。
「母上はよく茶色いものを食べておられた」
「茶色?」
「うむ。もともとは穀物だったものを加工したものなのだが、その中には真っ白な粒のような穀物が詰まっていたよ。それが酸っぱいのだが、茶色いものが甘く煮られていてな。合わせて食べるとこれが絶品であったよ」
氷結王が笑った。笑いながら泣いていた。その姿に胸を打ちながらも、タマモは氷結王が言っている料理がなんなのかがわかった。
(そうか、アレなら全部当てはまるのです)
灯台もと暗しと言うか、氷結王の見た目から海外の食事だとばかり考えていた。海外でも人気の日本食とまでは考えてもいなかったのだ。
タマモが思いついた料理であれば、氷結王の言う内容はすべて当てはまる。鼻に来る辛さもあれば、氷結王の言ったもののように甘酸っぱくもある。基本的にはさっぱりとしているものでもあり、中にはジューシーなものとてある。そして色は赤に白に、薄いピンクと多様である。
(わかってみると、アレ以外にはありえませんね。でも、問題もありますけど)
料理はわかった。だが、同時に大きな問題が生じた。料理に必須な真っ白な粒のような穀物がないのだ。あるのはあるが、それはまた別の種類のものであった。
「……氷結王様が仰る料理ってこちらでしょうか?」
タマモは地面に絵を描いた。一般的な形のそれを描くと、氷結王は弾かれるようにして笑った。
「おお、それだ!それを食べたい!」
氷結王が無邪気に笑う。だが、その笑顔に応えるのが途方もなく難しいことをタマモは理解していた。
「……お寿司ですか」
日本特有の料理である寿司。それが氷結王が望む一品だった。




