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45話 穏やかでもの悲しい光景に

昨夜のログアウト前──。


タマモは、氷結王の前に戻っていた。


氷結王の前では、大きな焚き火を囲んでさまざまなモンスターや動物たちが舞っていた。


誰もが真剣に舞っている。その姿からは宴のためのものというよりも、神聖な儀式の神楽のようだ。だがそんな神楽を前にしても、氷結王は穏やかに笑うだけだった。


「歓迎の宴ではあったが、楽しめたかな?「金毛の妖狐」よ」


氷結王は穏やかに笑っていた。ドラゴンの表情の変化は意外とわかりやすい。喜怒哀楽の表情は、人間のそれとさほど変わらない。表情筋が人間と似ているのかもしれないとタマモは思いながら、「氷結王」を見やる。


(……痩せているのではなく、痩せこけていますね)


どれだけまともな食事を取っていないのだろうか、と思うほどに氷結王の体はだいぶ細い。比較対象がいないため確認はできないが、タマモが思い描くドラゴンという存在から踏まえると、氷結王は明らかに細すぎる気がした。


例えば、某国民的RPGの一角であれば、ドラゴンは内側の腹部が、色の変わっている部分が少し盛り上がっている。


だが、氷結王の腹部は見える限りでは、大きくへこんでいた。氷で覆われた顔もよく見ると皺だらけだった。


特に目元の皺は深く、そのまままぶたを開かなくなってしまってもおかしくはなかった。


「……どうかしたかね?」


氷結王は不思議そうに首を傾げていた。仕草だけを見ると幼く見えるのだが、氷結王が行うとそのまま首がぽっきりと折れてしまいそうで怖い。首が折れたらどうなるのかなんて考えるまでもない。その考えるまでもないことを、考えさせてしまうほどに氷結王の体は衰えている。決して老いたからだけではないことは明らかだ。老い以外の外的要因によるものだろう。


「……あの、氷結王様」


「ふふふ、なにかな?じっと熱い視線を向けられていたから見惚れさせてしまったかと思ったが」


氷結王の言葉になんて返事をすればいいのかわからなくなるタマモ。そんなタマモに氷結王は、喉の奥を鳴らすようにして笑っていた。ひどく人の悪そうな笑顔だった。


「すっかりと老いさらばえてしまったが、若い頃は美形のドラゴンとして有名であったよ。子種が欲しいと雌に迫られることも多かったわ」


ははは、と氷結王は高笑いをした。その笑い声にモンスターや動物たちが「また始まった」と言うかのように困ったように笑っていた。


氷結王のそばに控えるシュトロームはため息を吐いたかのように「スラぁ」と鳴いている。テンゼンに至っては「フロ爺、下品」としょうもないものを見るような目を氷結王に向けていた。


が、当の氷結王はそんな様々な視線を高笑いで流すだけ。そんな氷結王の高笑いにモンスターや動物たち、そしてシュトロームやテンゼンとて笑っていた。そう、笑っていたのだ。


全員が全員、覚悟を決めたかのようにだ。


(……ヒナギクさん、ごめんなさい)


事前に相談してほしいとは言われていた。


だが、相談をしている余裕などなかった。


いや、余裕はあるかもしれない。ヒナギクであれば、手を貸してくれるかもしれない。


それでもタマモは、みずからの力でこの光景を、穏やかだがもの悲しい光景をどうにかしたいと思った。その衝動にタマモは突き動かされた。


「……氷結王様」


「うん?」


「お願いがあります」


タマモはおたまとフライパンを抜いた。モンスターや動物たちは何事かと思い思いの反応を示す。テンゼンは「タマモさん?」と首を傾げ、そしてシュトロームと氷結王は──。


「それは、まさか」


『妖狐よ、なぜそれを!?』


──目を見開いて驚いていた。ふたりの反応を不思議に思いつつも、タマモは言った。


「ボクにあなたのお食事を作らせていただきたいのです!」


タマモは氷結王へと氷結王の食事を作らせほしいと嘆願したのだった。

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