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31話 出会い~王からの問いかけ~

「──あんたは誰だ?」


テンゼンは胸を押さえながら目の前にいる老人に、エンシェントスライムを椅子にして座っている老人に尋ねた。


「誰だと思うかの?」


「質問に」


「質問で返すのは無礼であろうな。だが、この霊山の「正門」を通らず、見ず知らずの他人が「勝手口」から入ってくるということも無礼であろうよ」


「……勝手口というと、あの洞窟か?」


「いかにも」


老人が頷いた。が、それっきり黙ってしまった。


自身の正体を口にするまでは、なにも言わないつもりなのだろう。


(誰だと思うかと言われてもな)


正直な話、思い当たる人物はいないのだ。


まだこのゲームを始めてすぐだ。情報なんてろくに持っていない。状況証拠という情報はあるが、確証はない。


「……少し整理させてほしい」


「よかろう」


老人はふたたび頷くと、まだ黙ってしまった。


本当にテンゼンがなにかしらの答えを口にするまで、必要最低限の会話しかしないようだった。


面倒なことになったなと思いつつも、テンゼンは情報の整理を始めた。同時に老人を観察した。


(……見た目は普通の爺さんだな)


見た目は少しくたびれたような燕尾服を着た老人だった。


腰はほんのわずかに曲がっているが、まだ前傾姿勢になっているわけじゃない。


その見た目にあった真っ白な髪は短く切り揃えられているが、まだ薄さはない。


口元には頭髪と同じで真っ白な蓄えられた髭がある。


そして目は澄みきった水を思わせるように青かった。底まで見渡せるかと思えるが、実際にはできない。それでも無理に見渡そうと乗り出したら、そのまま飲み込まれてしまいかねないなにかをテンゼンは感じた。


(……うちの爺様と似ているな)


見た目は違う。目の色だって違う。だが、その有り様はどこかテンゼンの祖父とよく似ていた。その時点でただの老人ではない。


加えて老人が椅子にしているのは、テンゼンと戦ったエンシェントスライムだった。エンシェントスライムはげっそりとした顔をして、老人を背中に乗せている。


あのエンシェントスライムが他人を背中に乗せているというのは、イメージとそぐわない。


だが、現実にエンシェントスライムは、老人を背中に乗せてげっそりとしていた。……その口元は絶えず動き続け、「スラスラスラスラ」と呟き続けているのがなんとも言えないのだが。


(……なんだか「ごめんなさいごめんなさい」と言っているように思えるのだけど)


エンシェントスライムの現状は、たっぷりと絞られたために壊れたロボットのように「ごめんなさい」を連呼しているキャラクターのように思える。


よく見ると縦線の目は、どことなく虚ろでいるように思える。ひどい惨状である。が、それが決定的な証拠とも言えた。


(……この山にまともな人間がいるとは思えない。それもエンシェントスライムを椅子にできる人間がいると思えない。仮にいるとすれば、それはエンシェントスライム自身が自分よりも格上たと認めている相手。つまり──)


「氷結王」


「うん?」


「あんたはこの霊山の主である氷結王だろう?」


「……なぜそう思う?」


「あんたが椅子にしているエンシェントスライムは、ただの人間を背中に乗せるようには思えない。あるとすればエンシェントスライムが自分よりも格上だも認めている相手。この山で言えば、霊山の主氷結王としか思えない」


テンゼンは老人を見やる。老人は蓄えた白い髭を撫でながら、楽しげにテンゼンを見つめていた。


「ふむ。寝起きだったことも踏まえてもいくらか判断は遅いが、まぁ、よかろう」


「それじゃ」


「うむ。我こそが氷結王。古代竜氷結王である」


老人、いや、氷結王はテンゼンにと向かって笑い掛けた。

こうしてテンゼンは後に「フロ爺」と呼ぶようになる氷結王との出会いを果たしたのだった。

次回からタマモ視点にもどります。

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