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16話 どんどん行こう

せせらぎが聞こえる。


せせらぎと隣り合うようにしてタマモは歩いていた。


背中のキツネの顔のアップリケが縫い付けられているリュックサックが、タマモが歩くたび一緒に揺れていく。


「それなりには来ましたかねぇ」


「フィオーレ」の本拠地、農業ギルドの敷地からはだいぶ離れているが、タマモはまだアルトの内部にいた。


せせらぎのほかに、滝つぼへと流れ落ちる水の音が徐々にだが聞こえていた。


距離的にはまだせせらぎの方が大きいが、そのうち滝つぼの音が勝ることになる。


しかしいまはまだせせらぎが勝っているため、アルトの外に出るにはもう少しだけ時間が掛かりそうである。


だが、歩き始めた頃に比べると、だいふ近づいている。


全体の行程、滝つぼまでの道のりを踏まえると、そろそろ4分の3には到達するかどうかというところだろう。時間も歩き始めて40分ほどが経とうとしていた。


「あと少しですねぇ」


タマモは額に浮かぶ汗を、いつのまにか掻いていた汗の珠を袖でゆっくりと拭った。


汗を拭うと自然と顔が上がり、夕焼けの光が視界に入る。夕焼けの光はやけに目に染みた。


「ふぅ。装備があるから昼間よりも大変ですねぇ」


いままで休みなく歩いてきたタマモだったが、さすがに装備分の重量が加わったおかげで、体力的に辛くなっていた。


「一休みしましょうかね」


このまま一息に滝つぼまで行きたいところだが、疲れ果てて滝つぼに着くよりかは、時間を消費してしまうが休憩をしっかり取ってからの到着を目指すべきだ。


「まぁ、一度ログアウトするわけですけどねぇ」


たとえ休憩なしで滝つぼに向かっても一度ログアウトするつもりなので問題はない。


問題はないが、やはり一度きちりと休んでからの方が気分的にも色々と違うはずである。……決してもう歩きたくないわけではないのだ。


「とりあえず、休める場所は」


昼間に一度来ているのだから、休める場所があるかどうかは覚えていた。


その記憶がたしかであれば、休める場所などなかった。


だが、休もうと思えば休むことは可能だ。小川の縁に座って、流れに脚を沈めればいいのだ。小川の水量は増えているが、タマモが脚を沈めたところで即氾濫するわけもない。


いくらか体が暑いので、小川に脚を沈めればちょどいい具合の涼となる。問題があるとすれば、この小川は農業用水として使用しているということだった。


「……誰も見ていないですよね?」


きょろきょろと辺りを見回し、誰もいないことを確認するとタマモは履いていたブーツを脱ぎ、小川にゆっくりと足の指先を沈めた。


「ひゃっ!」


足の指先を沈めると、思っていた以上に冷たくて、タマモは上ずった声を上げてしまう。


「ふわぁ。雪解け水にしても冷たすぎるのですよ」


小川の水の冷たさは、掻いていた汗さえも一瞬で引っ込んでしまうほどだった。


が、一度やろうと決めたことを中途半端に投げ出すのは、なんとも気持ちが悪かった。


「うぅ~。き、狐は度胸です!」


ええぃ!と気合いを込めてタマモは両脚の踝まで小川に沈めた。


びくん、と全身の毛が震えたが、どうにか耐えた。そのまま耐えていると次第と水の冷たさに慣れてきた。川の中で指先を動かすと、問題なく動かすことができた。


「……ふぅ。どうにかなりました」


最初はたしかに冷たいが、慣れてしまえば心地いいほどである。


タマモは小川の縁に腰掛けると鼻歌を歌いつつ、脚を上下に動かし、ばしゃばしゃと川の水を蹴り上げていく。脚を動かし始めると「三尾」がひとりでに動き、タマモの脚の間に納まった。


「ほぇ?」


なぜ勝手に「三尾」が動いたのか、タマモにはよくわからなかった。わからなかったが、「まぁ、いいか」と放置して、しばらくの間小川での水遊びを楽しんだ。


「さて、それじゃあ再開です!」


ひとしきり水遊びを楽しんだ後、タマモはブーツをそれぞれの手に持って歩き始めた。


なんとなく、素足で歩きたい気分だったのである。剥き出しの地面を素足で蹴り進んでいく。


リアルであれば絶対にしない行為だが、気にすることなくタマモは歩いていく。


自然と鼻歌は有名な映画の主題歌で、歩くの大好きというフレーズの歌となっていた。


気分はあの主題歌と同じく、どんどん行こうというところである。


実際鼻歌を変えた影響もあるのか、タマモの歩行速度は少し速くなった。加えて少し音域を外しているのだが、そのことを当の本人は気づいていない。気づかないまま歩き続け、そして──。


「到着です!」


ログイン限界まで残り2時間を切ったところで、タマモは昼間たどり着いた滝つぼにと到着したのだった。

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