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14話 またね

「フィオーレ」を解散する。


タマモの言葉にヒナギクもレンも声を失っていた。タマモ自身、そんなことはいままで一度も考えていなかった。


だが、今回ばかりはそうしなければならなかった。


レンの行動ははっきりと言えば、わがままに近い。話し合いで決めたことを自分の都合で破ろうとしているのだ。


たとえどんな事情があるにせよ、一度取り決めたことを途中でねじ曲げようとしているということには変わらない。


そしてそれをわがままと言わないのであれば、子供が欲しいオモチャをねだる行為でさえも、親と約束して誕生日に買ってもらえるオモチャをすぐに欲しがるという行為でさえわがままではなくなってしまう。


同じ口約束であっても、約束は約束だ。


その約束を一方的にレンは破ろうとしている。それはどう言い繕ってもわがままになる。もっと言えば契約不履行というところか。


これが会社同士の契約であれば、相手の会社は社会的な信用を失なったということになる。


もちろん、状況によっては破られた側が一方的に損失を受けることも往々にしてあるのだが、因果応報という言葉もあるため、いずれは別の形で制裁を受けることになる。


ただ今回の場合は会社同士の取り決めというわけではない。


しかし「フィオーレ」という組織の中での、構成人数が3人と一頭だけの組織であっても、全員で取り決めたことには変わらない。


その取り決めを破ろうとしたレンには制裁が必要となる。


だが、タマモとてその制裁の対象にはなるのだ。


なにせタマモもアルトをわずかな期間であっても、出るつもりなのだ。


レンとは違い、宛のない修行の旅とは違い、向かうのは裏山と言ってもいいような近場の山ではあるが、アルトの外に一時的に出るということには変わらないのだ。


となれば、だ。修行の旅に出ると言ったレンを制裁するのであれば、タマモとて制裁を受ける必要がある。


その制裁として最適であるのは、「フィオーレ」という組織を一時的に解散するということだ。


「フィオーレ」は結成してまだわずかなクランだが、それでも全員にとって思い入れの深いものだ。その「フィオーレ」を解散するということは、タマモとレンに対する制裁としてはこれ以上となくふさわしいことと言える。


ヒナギクはとばっちりを受けるということになるが、ヒナギクに対する救済は考えていた。


「「フィオーレ」は一時的に解散しますが、マスターとしての権限はヒナギクさんに譲渡します」


「え?」


「どういうこと?」


「ボクとレンさんは契約不履行となりました。レンさんならまだしも、マスターであるボクが契約を破るということは、示しがつかないということになります。よってボクのマスターとしての地位は、剥奪ないし退任という形を取るのが一般的です。そして空いたマスターの地位は残るヒナギクさんのものとなります。そしてマスターとなったヒナギクさんからボクとレンさんは「フィオーレ」を脱退させられます」


「そんなことはしないよ!」


ヒナギクがテーブルを思いっきり叩いた。それだけでテーブルからバキッというやや危険な音が響いた。思わずテーブルをじっと見つめてしまうタマモとレン。


だが、ヒナギクは止まらない。


「私がふたりを追い出すなんて!」


「あくまでも便宜上はということですよ」


「便宜上?」


ヒナギクが首を傾げる。タマモは「ええ」と頷いてから続けた。


「マスターとなったヒナギクさんに脱退させられても、マスターからの容認があれば復帰は可能です。便宜上は脱退としましたけど、要は左遷のようなものです。反省と一定以上の成果があれば、復帰することはできます。一言で言えばヒナギクさんの意思ひとつということですね」


「……つまり、約束を破るレンとタマちゃんになにかしらの成果をあげるまで、帰ってくるなということ?」


「ええ。喧嘩別れでの脱退という形を取るよりも、マスターからの指示でという形の方が、後腐れもありませんし、戻ればすぐに復帰できますからね」


「要は大義名分をヒナギクから与えられる。簡単に言えば、ヒナギクを依頼者としたお使いクエストを頼まれたという感じかな?」


「そのお使いクエストをこなせば、ふたりに「フィオーレ」に復帰させることができる。つまり私は留守番してふたりの帰りを待っているということ、だね?」


「ええ。なにも決まっていない状態よりも、あらかじめ範囲を決めている状態の方が望ましいです。同じ留守番でもいつ帰ってくるのかを待つのではなく、門限を決めてのものだと思ってもらえればいいかと」


詭弁のようなものではあるが、全員が納得する形としてはこれ以上はない。


無論タマモとレンがアルトに留まればそれでいいのだろうが、レンはヒナギクの言うとおりてこでも意思動かさないだろうし、タマモとて出費をして用意した登山用品を腐らせるつもりはない。


であれば、この形式以上に全員が納得できることはない。最善とは言わない。が次善としてなら悪くはないことだった。


その次善を全員が納得した。そしてヒナギクからのタマモとレンに言い渡された成果は、レンが「いまよりも強くなること」、タマモは「新しい食材を見つけてくること」だった。


ある意味ではとても容易く、ある意味ではとても厳しい内容だった。


だが、タマモとレンは形式上ではあるが、「フィオーレ」を脱退するのだ。その復帰条件としては致し方のないものだった。その条件をタマモもレンもそれぞれに呑んでいた。


「美味しい食材を見つけてきます!」


「いまよりも絶対に強くなるぞ!」


「畑のこととログハウスのことは任せてね」


円陣を組んで3人はそれぞれのするべきことを口にし、最後には声を合わせて叫んだ。


「「「またね!」」」


声を合わせての言葉を口にして「フィオーレ」は一時的な解散となったのだった。

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