10話 上司の一言には逆らえません
たいへん遅くなりました。
シトナイショックで遅れました←
でも追加したら来ました←ヲイ
まぁ、それはさておき。
今回は上司の一言には逆らえませんという内容ですね←
「フィオーレ」の本拠地であるログハウス。その内部のリビングのテーブルの上には、タマモが注文した登山用品が並べられていた。
「──これで納品は以上ですね」
リーンが出してくれた物品はかなりの量になったが、インベントリには問題なく入れられる量だった。
だが、いくらかは一緒に納品されたリュックサックにも入れられるものだった。ちなみにリュックサックはタマモが注文したものではない。
リュックサックはリーン曰くサービスとのことだった。
「久しぶりにまともな注文をしてくれたからと大ババ様は言っていましたよ。ちょっとした防具にもなれるほどに頑丈なものです」
「防具、ですか?」
「ええ。防具です」
にこりと笑うリーン。冗談かと思ったが、リーンは笑っているだけで、なにも言わない。まさか本当に防具なのだろうかと恐る恐る「鑑定」をしてみた。
蜘蛛絹の背負い袋
レア度5 品質A 収納率0/100
スパイダーシルクで製造されたリュックサック。本来の用途はアイテムをしまうためではあるが、スパイダーシルク製からはちょっとした防具としても使用できるが、本来の防具ほどの恩恵はない。染色はされていないため、スパイダーシルク本来の白銀色のままである。
「……マジですか」
表示された内容にタマモは唖然となった。
だが、リーンは笑うだけである。やや「してやったり」という風にも見える顔をしているのはご愛嬌というところか。
「……ちなみにですが」
「はい?」
「このキツネのアップリケはなんですか?」
「サービスです」
にっこりとリーンは笑った。その笑みを見やりつつ、タマモが見ていたのはリュックサックの表面にでかでかと存在を主張しているアップリケ。それもキツネのアップリケがあった。キツネはデフォルメされたものであり、糸目で笑っているように見える、よくあるデフォルメされたキツネ像そのものだった。
「……サービス。サービス、ですかぁ」
デフォルメされたキツネのアップリケはかわいかった。
タマモとて女子である。かわいいものはそれなりに好きだ。
だが、アップリケはさすがに小学生までだろう。
(人によっては中学生になっても使っているかもしれませんけど、ボク、もう19歳なんですけど)
いくらなんでも19歳になってアップリケはどうよ?と思うタマモ。
しかしすでにアップリケはリュックサックに縫い付けられており、剥がせそうにはない。いや剥がそうと思えば剥がせるが、わざわざアップリケを縫い付けてくれたと思うと、剥がすに剥がせない。
「試しに背負って見てください、タマモさん」
リーンは笑っていた。
全力で拒否したいところではあるが、考えようによっては、リーンはタマモにとっての上司に近い存在であった。
タマモは農業ギルドの構成員。対してリーンは農業ギルドの上層部のひとり。タマモはギルドマスターの秘書のような存在だと思っていた。
この関係を現実に当てはめたら、タマモはいわゆる平社員、そしてリーンは社長秘書ということになる。どちらがより社内地位が高いかなんて考えるまでもない。
直接の上司というわけではない。しかし上司という立場になることは間違いない。
その上司からの指示。はたして逆らえるものだろうか?
答えは否である。
タマモはリュックサックを背負った。サイズはタマモの背丈に合わせているのか、ぴったりだった。
思えばリアルでも子供の頃からリュックサックのサイズは変わっていない。さすがにリュックサック自体は変えているが、サイズ自体は子供サイズのままだった。
「わぁ、お似合いですよ、タマモさん」
リーンはパチパチと手を叩いていた。
決して嫌みではない。
むしろ誉めてくれているのだろう。
だが、それでも唇の端から吐血してしまっていたが、拭う気力は沸かなかった。口元を拭わずにタマモはリーンからのお誉めの言葉を受け止め続けたのだった。
「さて、そろそろお暇しますね」
リーンはひとしきりタマモを誉めちぎると満足したのか席を立った。
リーンの前には一応用意していたお茶があった。残念ながらお茶請けはなかったので、お茶だけになってしまっていたが、リーンは「お気になさらずに」と声を描けてくれていた。
そのお茶はすでに飲み終わっているうえに、リーンの目的である登山用品の納品は終わっている。リーンからすれば長居をする理由はなかった。
「あ、じゃお見送りするのです」
「いえいえ、すぐそこですので」
「で、でも」
「タマモさんはどちらかの山に向かわれるのでしょう?であれば、私の見送りはせず、準備を終えてください」
「……いいんでしょうか?」
「ええ。構いませんよ。それでは、また」
静かに一礼をしてリーンは本拠地のドアを開けた。止める暇もなくリーンはドアを潜ってしまった。
「……おそらくは大丈夫かと思いますが、お気をつけくださいね?」
「ほぇ?」
ドアを潜ってすぐにリーンは振り返ると、心配そうな顔をしていた。
だが、なにに対してなのかはいまいちわからなかった。
「彼の方はとてもお優しくありますし、おそらくはタマモさんをお気に召されると思いますけど、気を引き締めて行かれることです」
「リーンさん?」
リーンが神妙な面持ちで言っているのだが、なんの話なのかはやはりわからなかった。
「えっと、気を付けま、す?」
「そうしてください。それではまた」
リーンは改めて一礼をすると、そのまま扉を閉めてしまった。静かに閉ざされた扉の音がこだまするのを聞きながらタマモは「なんのことだったんでしょうか?」と首を傾げるのだった。




