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9話 荒ぶるリーン

今回はリーンさんが荒ぶります。

あと最近スマホでの更新が多いのは、パソコンさんがどうにもツン期に突入したようで、若干不安という理由です。

ご迷惑をおかけします←汗

目を醒ますとようやく慣れてきた「本拠地」の私室の天井が見えた。


「ん~。ログイン完了ですねぇ」


あくびを掻きながらタマモは、備え付けのベッドから降りた。ぼんやりとしながらもそのまま部屋を出て、リビングを抜けた。


「……リーンさんのところに行かないとぉ~」


ゲーム内時間で言えば、昨日の日付が変わる前に「老婆」から言われたのは、注文したものはリーンに渡しておくということだった。


代金もリーンを通して「老婆」に支払われているはずだ。


この場合問題となるのは、「老婆」の言っていた「明日」はゲーム内時間でのいまのことなのか。それともリアルでの明日のことかのか。判断がつかないということ。


「そのあたりのことは効いておきたかったんですけど、聞きそびれましたねぇ」


「老婆」に詳細を尋ねたかったのだが、追い出されるようにして宿屋から出されてしまい、詳細を聞くことは叶わなかった。その際に「老婆」がなにかを言っていたように思えるがいまいち憶えてはいなかった。


「……まぁ、いずれ聞けますよねぇ」


タマモがボリボリと頭の後ろを掻きつつ、「本拠地」正面のドアを開けると──。


「……おはようございます、タマモさん」


──そこにはなぜかリーンがいた。だが、普段のリーンとは違い、いくらか不機嫌そうだった。普段はそれほど上がっていない眉尻がこれでもかと上がっており、眉間にはやや深めにしわが刻まれていた。


「……おはよう、ございます」


(なんだか不機嫌そうですねぇ)


挨拶を交わしつつも、不機嫌そうなリーンを見るのは初めてだったタマモは、恐る恐るという具合にリーンを見やった。


「え、えっとなにかしちゃいました?」


タマモとしてはリーンになにかをした憶えはない。だが、間接的にはあった。


(あのおばあさんに荷物を預けられたことが不満なんですかねぇ?)


状況的に考えたら、それ以外に理由はない。「老婆」の言い方では普段から小間使いのようにリーンを使っているようだったが、リーンとしてはそれが不満なのかもしれない。


(よくよく考えてみたら、リーンさんは受付のチーフさんですもんねぇ。そのリーンさんを小間使いなんて、腹を立てても無理はないのです)


リーンは農業ギルドにおける上層部の一員。もし執行部という括りがあれば、間違いなくそのメンバーに入っているだろう。


それほどの立場の相手を小間使い。たしかに怒ってしまうのも無理はない。要は会社の重役に「コンビニ行って飯買ってこい」と言ったようなもの。リアルであれば、惨事は免れない事態である。


それを間接的にタマモは行ってしまったのだ。そのことにようやく気づいたタマモは、全身をガクブルと震わせた。

だが、リーンのしかめっ面は治まらない。「あ、終わったのです」とタマモは心の中で自らに合掌しつつもリーンの続くひとことを待った。やがてリーンがゆっくりと口を開き、そして──。


「タマモさん。あのド腐れババアになにかされませんでしたか?」


──聞こえてきたのは思ってもいなかった一言だった。叱責と侮蔑の言葉の果てに特別に許されていたあれこれがすべて白紙にされかねないという恐怖に襲われていたタマモ。


しかしリーンが口にしたのは、タマモが想像もしていなかった一言、タマモを心配する言葉だったのだ。


思いもしなかった展開に「……ほぇ?」と時間をたっぷりと掛けて首を傾げるタマモ。そんなタマモの反応にリーンは過剰に反応し、がしっという擬音が聞こえてきそうなほどに強くタマモの肩を掴んだ。


「実に痛い」と思いつつもタマモは恐る恐るとリーンに声をかけようとした。だが──。


「なにか、なにかされたんですね!?あのド腐れ鬼ババアに!」


リーンの目は据わっていた。「あ、この人マジで言っているのです」と若干気が遠くなるのを感じつつもタマモはリーンを落ち着けるべく声を掛けた。


「お、落ち着いてください!ボクは特になにも──」


「嘘です!あのド腐れ鬼畜ババアがなにもしないなんてありえません!」


「……ひいおばあさんなのでは?」


「だからこそわかるのですよ!」


「……はい、ごめんなさい」


あまりにもなリーンの言い分に、徐々に悪化していく「老婆」への呼び方に、ふたりの関係を口にするも一言で論破されてしまうタマモ。リーンの目はやや血走っていた。思わず全力で頭を下げてしまうタマモ。


しかしリーンは止まらない。


「とにかく!あのド腐れ鬼畜性悪ババアのところに行くときは、必ず私に声を掛けてください!ひとりで行ってはいけません!わかりましたか!?」


「は、はい!」


リーンに向かって敬礼した。リーンはそれでようやく満足したようで、「よろしい」と頷いてくれた。


「それでは、大ババ様に頼まれた品物をお渡ししますね」


「は、はい」


それまでが荒ぶる炎とすれば、現在は焚き火のような穏やかさを見せるリーン。そんなリーンの姿に戸惑いつつも、「老婆」へと注文した物品の受け取るタマモだった。

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