EX-13 結成の証
すみません、お待たせしました。
また2日も空くとは思っていなかったです←トオイメ
さて、とりあえず今回で第3章はおしまいです。……一応は。
クーたち虫系モンスターズの活躍もあり、タマモが当初から建築していたログハウスは完成した。実際はログハウス風のコテージではあるが、完成したことは変わらない。
「これで根無し草生活から脱出だなぁ」
「そうだね」
完成したログハウスの前でしみじみと頷き合うヒナギクとレン。2人の目尻からほろりと光るものがこぼれ落ちるのを見て、タマモは首を傾げた。
「そう言えば、ヒナギクさんたちはどこでログインとログアウトされていたんですか?」
タマモとしてはてっきり2人も農業ギルドでお世話になっているのかと思っていたが、口ぶりからしてどうにも違うようだった。
「ん? タマちゃんから分けてもらっている絹糸の儲けで宿を借りているよ」
「タマちゃんとは違って、農業ギルドの一員というわけじゃないからねぇ」
ヒナギクたちは目を若干反らした。そう、2人の生活はタマモからの援助によって成り立っていた。ある意味では寄生と言ってもいいことではある。
しかし当のタマモ本人は大して気にしていないどころか、いろいろとしてもらっているお礼と考えているため、問題にしてはいない。
加えてタマモの戦闘能力に問題がありすぎたため、いままで「フィオーレ」全員での狩りはしていないこともあり、プレイヤーの1日分の生活費において、出費の元であるポーション等の回復ないし補助系アイテムは使用していないどころか買ってさえいない。
そしてポーション類同様に必須とも言える食事は、やはりタマモ自身の事情により外食はしてないし、携帯食でさえも買ってさえいないどころか、ただで賄えている。
以上の理由からヒナギクとレンの生活費は1日分の宿代くらいだった。その宿代も初日にタマモが泊まっていた安宿を連泊で借り、その際宿賃の交渉もしている。
内容は1ヶ月単位での更新で食事抜きの素泊まりかつ月の途中でのキャンセルの場合は、たとえ連泊が数日分であったとしても一切の払い戻しはないというもので、ひとり1ヶ月2000シルだった。
ちなみに交渉はレンが行ったのだが、年の功には勝てなかったと悔しそうに漏らしていた。
レンの目標はヒナギクと2人分で1ヶ月3000シルだった。素泊まりと払い戻しなしという条件はレン自身が提示したものだったのだが、主である老婆は3000シルでは決して頷かなかった。
老婆が最初に提示したのは、1ヶ月で4500シルだった。そこからどうにか値切った結果が2人で4000シルだった。
「あのばあちゃん、500シルしか値切らせてくれなかったよ。それなりに自信はあったんだけどなぁ」
レンは当時のやり取りを思い出して悔しげに表情を歪ませた。
「……まぁ、交渉のテーブルに座ってくれただけでもありがたいと思いますが」
レンの悔しがる様子を見てタマモはつい笑っていた。笑いながら考えるのは、当の老婆のことである。
(ボクのときはだいぶ優しかったんですけどねぇ)
初日に右も左もわからないタマモに対して老婆は親切にしてくれた。
農業ギルドの場所を教えてくれたのも老婆であるし、無一文になったことを伝えると宿代を返すとも言ってくれたのだ。
がさすがにそれは甘えすぎだと思い、断腸の思いで老婆に宿代を握らせたのである。
それがフラグになったのか、「困ったことがあったらいつでも来るといい」と老婆は言ってくれた。
その結果がレンとの交渉合戦になったのだろうが、どうにもタマモのイメージする老婆とレンたちの話の中での老婆とでは解離があった。
それこそ別人じゃないのかと思うほどには。
しかし2人の話からでは同じ宿屋のようであるし、掲示板の情報では老婆が経営する宿屋はその一軒しかないのだ。
しかもほかの宿屋に比べると無個性の宿屋のようである。
ほかの宿屋は猫の獣人が経営する宿屋だったり、若夫婦で営む宿屋だったりとあるなかで、老婆の宿屋だけはこれといった個性が皆無だった。
その分1番安い宿でもあるので、利用者はそれなりに多いようではあるのだが。
しかし掲示板の情報では、価格交渉に乗ってくれるわけでもなく、宿代を返そうとするわけでもない。
本当に個性のない宿屋のようなのである。
(ん~。やっぱりボクがフラクでも建てましたかね?)
なにしからのフラグをタマモが建てたのだろうが、その内容はわからなかった。わからないまま、ぼんやりとログハウスを眺めていると──。
「あ、タマモさん。お帰りになられましたか」
──後ろから声を掛けられた。
振り返るとそこには受け付けチーフのリーンがいた。筒状のなにかを小脇にして小川を超えるところだった。
「リーンさん? どうしたんですか?」
タマモはリーンの元に駆け寄ろうとしたが、リーンに手で制されてしまった。
「そのままで大丈夫ですよ。いまそちらへ伺いますので」
ふふふ、とリーンは笑いつつ、小川を越えた。
「お帰りなさい、タマモさん」
「ただいまです、リーンさん」
笑顔で迎えてくれたリーン。なんとなく気恥ずかしくなりつつも、タマモはリーンにと返礼をした。
「ふふふ、なんだか新婚さんみたいですね」
リーンは口元を押さえて笑っていた。タマモは言われた内容についてなんと返事をしていいのかわからず、一瞬固まってしまった。が、その一瞬の硬直でリーンの表情は一変する。
「……さすがに私みたいなおばさんとでは、嫌ですよねぇ」
あははは、と乾いた笑いをしてからがくりと肩を落としてしまうリーン。そんなリーンにタマモは慌てて返事をした。
「そ、そんなことはないですよ!? リーンさんほどの美人さんならいつでもオールOKなのですよ!」
いきなりすぎるリーンの自虐に慌てつつもいつでも求婚可と言い放つタマモ。そんなタマモにリーンは「タマモさんは優しいですねぇ」とほろりと涙を流していく。
「……新手の茶番?」
「かな?」
「……きゅー」
タマモとリーンのやり取りを端から眺めつつ、ヒナギクたちは冷めた目をしていた。当人同士は必死であろうと端から見ると冷めてしまうことは往々にしてあるものである。今回の場合はそれがより顕著だったというだけのこと。
しかしそのことには気づくことなくタマモとリーンのやり取りは続いていった。
「ふぅ、さて今日はみなさんにお渡しするものがあるのです」
しばらくしてリーンが落ち着いた。私生活でいろいろとあったようだが、あえて問うことはしまい。タマモを含めた「フィオーレ」の面々は触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに当たり障りのないように笑うだけだった。
「渡したいもの、ですか?」
「ええ。こちらです」
リーンは小脇に抱えていた筒状のそれをタマモにと手渡した。リーンからそれを手渡された瞬間──。
『おめでとうございます。特殊アイテム「クラン「フィオーレ」結成の証」を入手いたしました』
タマモたち3人に対してアナウンスが流れた。タマモたちはきょとんとしながら、リーンに手渡された筒状のそれをそれぞれに見やった。
「結成の証?」
「はい。クラン「フィオーレ」が結成した証として我々農業ギルドからのプレゼントとなります。広げてみてくだされば、どういうことはわかります」
口元に手を当てて若干意地悪そうに言うリーン。そんなリーンに少しドキッとしつつも、タマモは言われた通りに筒状のそれを広げた。
「旗、ですか?」
筒状のそれは広げると旗になった。それもただの旗ではなく、「フィオーレ」を差すものだった。
「アジサイと蓮の花にヒナギクと芋虫?」
「これって俺たちそれぞれのことですか?」
「きゅー」
旗には3つの花と一匹の芋虫が描かれていた。アジサイを中心にして蓮の花、ヒナギク、芋虫が囲むようにして描かれている。
「ええ。タマモさん、ヒナギクさん、レンさん、そしてクーちゃんで「フィオーレ」ですから。本来なら冒険者ギルドでお渡しするべきなんでしょうが、クーちゃんを含めてみなさんは、農業ギルドの顔になっていますので、冒険者ギルドの方にはお断りを入れて当ギルドでお渡しさせていただきました」
ニコニコと笑うリーンだが、その内容は職権乱用にも聞こえてならない。
だが、実際タマモは冒険者ギルドには顔を出したことはないし、クーに至っては下手したらNPCに討伐されかねないため、リーンの心配りはありがたいたところである。
「ありがとうございます、リーンさん」
「いえいえ、お気になさらすに」
リーンは笑っていた。笑うリーンを眺めつつ、タマモは早速旗を掲げた。
『結成の証を使用されました。現時点を以て証の周辺をクラン「フィオーレ」の本拠地として設定いたしました』
再びのアナウンス。だがもう驚くことはない。
むしろ本拠地を得られたことは喜ばしい。がここはあくまでも農業ギルドの一角だったはず。そこを本拠地設定していいのだろうかとタマモは思ったが、リーンは笑っていた。笑うだけでなにも言わない。ということは農業ギルドとしては問題ないということなのだろう。
それでもタマモはリーンに向かって頭を下げた。
「これからもお世話になります」
「はい、よろしくお願いいたしますね」
リーンもまたタマモにと頭を下げた。
こうしてタマモたち「フィオーレ」は正式な本拠地を手にいれることになったのだった。
これにて3章はおしまいです。
明日の掲示板回で、ちょっとまた日を空けますのでご了承ください。




