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20話 友好の証=絹糸=懐事情改善

 

「──姐さん、いい人なのです」


タマモは掲示板をそっと閉じた。


 腕の中ではクーが小首を傾げている。


 リアルで考えたら子供の膝くらいの高さのある芋虫にしがみつかれている状況というのは、ホラーでしかないだろうが、そこはさすがにゲームだ。顔から下はリアルであるのに、顔はデフォルメされていた。


 だからなのか、巨大芋虫に抱きつかれてもちょっとかわいいとさえタマモには思えていた。


 加えてここ最近はクーと一緒にいたということもあり、リアルでは叫んでしまいかねないことでも耐性がついてしまっていた。……莉亜では耐性がついたところで、結果は変わらないのだろうが。


「まぁ、これで状況の把握はできたのですよ」


 Tipsで経緯を理解し、掲示板で現状を把握できた。


 衝撃ではあったようだが、阿鼻叫喚とまでは行かなかったようだ。……姐さんには怒られるかもしれないと思っていたが、意外なことに怒られはしなかった。


 かえって称号を得たことをお祝いされたうえにお礼さえもされた。素材の斡旋も頼まれてはしまったが、いままでよくしてもらっていたのだから、恩返しにはなるだろう。


「ねぇ、クー?」


「きゅー?」


「絹糸をくれるの?」


 Tipsには友好の証として高品質の生産アイテムをプレゼントされるとあった。しかしいまのところクーから絹糸をプレゼントされてはいなかった。


「きゅ?」


 クーは首を傾げていた。「なにを言っているの?」と言っているかのようである。しかしそれはこちらのセリフだった。


「いや、だから」


「きゅー?」


 友人、いや友虫相手にものをねだるのは誉められたことではないとは思うが、欲しいものは欲しいのである。


 しかしクーは首を傾げるばかり。「理解者」の称号を得たのであれば、言葉が通じてくれればいいのにと思う。


 しかしクーの言葉を理解することはできない。「理解者」なのに、理解できないとはこれ如何にだった。


「きゅ、きゅ」


「え、なに?」


 どうしたものかと悩んでいると、クーがなぜか頭でタマモの胸を軽く叩いてきた。


 ダメージエフェクトはないので、攻撃ではないのは明らかだ。となると、この行動の意味することは──。


「胸、ではなく、懐? ということはイベントリです?」


「きゅ!」


 クーが「正解!」と言うかのように頷いていた。


 つまりイベントリに直接送ったということなのか。イベントリを覗くといままでなかったはずの絹糸があった。しかも──。


「ひ、評価5の品質A!?」


「きゅきゅん!」


 クーが胸を張っていた。まるで「どんなもんだい!」と言っているかのようである。


 だが、胸を張るのもわかる。


 姐さんの話では、クロウラーからドロップする絹糸は、評価1の品質D-だけ。それでも生産することはできるが、できあがるものは語られずとも理解できる。


 しかしクーがくれたのは評価5の品質Aの絹糸だった。


 評価5は真ん中の評価ではあるが、リリースして一ヶ月も経っていない現状ではありえない評価であり、品質Aは言うまでもなく最高品質だった。


「す、すごい。すごいですよ、クー!」

「きゅ!」


 タマモはクーを抱き抱えたまま、その場でくるくると回転した。クーは器用にドヤ顔をしていた。


 端から見るとドヤ顔をした巨大芋虫を抱き抱えて回転するけも耳幼女という異様な光景だが、ツッコミを入れる存在は誰もいなかった。


「こ、こんな絹糸があれば一気に懐事情が改善なのですよ!」


 もちろん姐さんにも融通するが、オークションに出せばとんでもないことになりそうだった。


「く、クー!絹糸は一日一回だけです!?」


「きゅん」


「代価はキャベベをあげればいいですか!?」


「きゅん!」


「りょ、了解です!頑張って育てるのです!」


「きゅきゅん!」


 クーは相変わらず言葉を発さないが、意志疎通はできた。


 目指すはキャベベの安定供給。タマモは目を輝かせながら、おたまとフライパンのセットスキルに「開墾」をセットし、畑を耕し始めた。


 こうしてますます本来の目的から逸脱してしまうタマモだった。

ますます「調理」でレベルアップという目的から逸れていくタマモでした。

次回は明日の正午となります。

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