136話 まぁ、タマちゃんなので(Byヒナギク&レン
閉会式は波乱はあったものの、どうにか終了した。
アオイとアッシリアには話を聞きたいところなのだが、強面のお兄さん方こと有名PKたちという物理的な障壁があるため、どうしようもなかった。
ただアッシリアにはメールを送っておいた。
「蒼天」──その狙いはなんなのかを聞きたかった。
あからさますぎるやり方だったので、かえって行動を理解することができなかった。
ゲーム内の世界とはいえ、なんでもしていいわけではないのだ。
むしろゲーム内の世界だからこそ、現実には影響しない世界だからこそ、一定のルールは必要だった。
しかしアオイたち「蒼天」は、そのルールを逸脱しそうだ。
なにせ今回の「武闘大会」でアオイたちに勝てるどころか、一矢報いることさえも誰にもできなかった。
アオイたちが、「蒼天」が現時点では最強のクランということになった。善戦さえもなかった。ただ蹂躙されたのだ。複数のPKKの選抜チームさえもだ。
本来なら抑止力となりうるPKKの惨敗。それが意味することはアオイたち「蒼天」が本気で事を構えるようであれば、誰にもその暴挙を止めることはできないということ。
もちろん、「三空」さえ出てこないのであれば、対処はできるだろう。
しかし「三空」が出てきたら、もうどうすることもできない。その証左が今回の「武闘大会」だった。
初イベントであるはずなのに、大いに盛り上がるはずだったのに、再びのお通夜ムードだった。
これには運営も苦笑いとなるだろう。
もっとも運営にとっては、今後の指針が取りやすくなったとも言える。
つまり「打倒「蒼天」!」と大々的に広報できる。それも幸いなことに「蒼天」側はPKの集まりだ。構成人員がすべてPKないし闇堕ちプレイヤーなのかはわからないが、少なくとも舞台上にいるのは、すべてPKないし闇堕ちしたプレイヤーたちだった。
力業ではあるが、「蒼天」のプレイヤーたちを「悪」と断ずることはたやすい。
ネットゲームを一度でもプレイしたことがあれば、PKないし闇堕ちしたプレイヤーは、アウトローというイメージがどうしてもつきまとう。
もっともアウトローだからと言って、全員が全員悪というわけではないが、法から逸脱した存在であることには変わらない。
PK行為事態は、システム上の仕様とされてはいるが、現実世界で言えば殺人である。……もっとも闇堕ちしていないプレイヤーでも人型のモンスターを倒すことはある。その場合はどうなのかということもあるにはあるが、ゲーム内のことであるからそこまでの問題ではなかった。
だが、PKという存在自体を悪と捉える風潮はあることはたしかだった。
それゆえにPKや闇堕ちしたプレイヤーの集まりである「蒼天」を悪と断ずることは運営にとってはたやすい。
そしてそれは「蒼天」側もわかっていることだろう。
いや、理解し納得したうえでの行動のように思える。少なくともタマモが知るアオイであれば、そうするだろう。
それでもなお、理解し納得したうえでもなお「蒼天」の名を掲げた理由はなんなのか。それがタマモにはわからなかった。
だが、理由を知ることはいまのところできそうにはない。
PKたちの壁を乗り越えることはできそうにはなかった。
(悔しいけど、ここは撤退なのです)
アオイには理由を問いたい。だが、それはいまではないのだろう。
忸怩たる気持ちはあるものの、タマモは舞台から離れて観客席にと、サクラたちが待つ観客席にと戻った。
「あ、狐ちゃん」
観客席に戻ると頭を擦るサクラとそんなサクラをニコニコとなんとも言えない笑顔で見守るリップがいた。その周囲には「フルメタルボディズ」と「ガルキーパー」の面々がいた。当然ヒナギクとレンもいた。
「ただいま戻りました」
ぺこりと一礼をすると、影が差した。なんだろうと顔をあげると胸があった。「え」と思わず素の声を出しながら、タマモは胸に、飛び付いてきたサクラにと押し倒されてしまった。
「むぎゅ」
妙な声を上げつつ、押し倒されてしまうタマモ。しかし当のサクラはそのことには無頓着だった。
無頓着なまま、タマモにとすがり付くようにして泣きじゃくっていた。
「ごめん、ごめんよ、狐ちゃん!」
そう言って押し倒したタマモをぎゅーっと抱き締めるサクラ。
しかし当のタマモは返事をすることができない。いや、返事をする余裕がタマモにはなかった。
パンパンパンとサクラの腕を叩くもサクラは泣きじゃくっているため気づかない。
あまりにも強く抱き締められ続けているため、息ができないのだが、サクラはそのことに気づくことなくタマモを抱き締めている。もう抱き締めるというよりかは変形したさば折りに近いようにも見える光景ではあるのだが、それでもサクラにとっては抱き締めているのだ。
「あー、サクラ?それ以上はまずいような──」
「ごめんよぉぉぉぉぉーっ!」
「……あー、聞こえてないな、これは」
サクラを止めようとローズが声をかけるもサクラの耳には届かない。
むしろますますタマモを強く抱き締めていくのだから、どうしようもなかった。
「まぁ、タマちゃん的には幸せかもです」
「うん。タマちゃんなので」
「……あぁ、なるほど」
ヒナギクとレンの言葉にローズは、いや、サクラとタマモ以外の全員が頷いた。
やがてタマモの手が動かなくなった。力なく垂れ下がってしまう。気絶したのだ。
しかしサクラはそのことには気づかない。気づかないまま、それぞれの転移地点に移動するまでタマモを抱き締め続けていた。
こうして波乱ずくめの初イベントである「武闘大会」は、どうにか無事に終了したのだった。
これにて第三章の本編は終わりです。「ちょ!」と思われる内容でしたが、まぁ、タマちゃんらしいかと←
次回より特別編です