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130話 怒れる姉の一撃←

 頭を撫でてくれているのはローズだった。


「……姐さん?」


 ローズは穏やかに笑っていた。


 穏やかに笑いながらサクラの頭を撫でてくれていた。


 ローズとの付き合いはサクラが小学生だった頃からだが、こうして穏やかに頭を撫でてもらったことはいままで一度もなかった。


 頭を撫でてもらっても同時に髪をぐしゃぐしゃにされたことならいくらでもあった。


 だが、ローズはサクラの髪をぐしゃぐしゃにすることなく、穏やかに撫でてくれていた。


 そもそもこんな穏やかに笑うローズは初めて見たかもしれない。


 だが、こんな風に笑ってもらう資格も頭を撫でてもらう資格もない。


「……姐さん、やめて」


「ん~、なんで?」


「だって、アタシは」


 言い掛けてやめた。


 いや、言えなかった。


 言ってしまえば、きっと嫌われてしまう。


 それはローズだけじゃない。


 この場にいる全員にだって。いや誰よりもタマモに嫌われかねない。


 そのタマモを貶めようとしていたのに、いまさらなにとは思うが、いざタマモに嫌われてしまうかもしれないと思うと急に怖くなってしまった。


(いやだ、狐ちゃんにだけは嫌われたくない!)


 サクラの思考は完全に破綻していた。タマモに嫉妬し貶めようとしつつも、タマモには嫌われたくないという矛盾。その矛盾にサクラ自身気づいていなかった。いや気づけるだけの余裕はすでにサクラからはなくなっていた。


 だからこそ、ローズの次に発する言葉を予想できずにいた。


「……だって、アタシは狐ちゃんを貶めようとしていたのに、って言うつもりかな?」


 一瞬頭の中が真っ白になった。


 言われた意味をすぐに理解できなかった。顔を上げるとローズは相変わらず笑っていた。笑ってはいるが、その目は悲しそうなものだった。


「……どうして」


「……否定しないということはそっか。やっぱりなぁと思ったよ」


 やれやれとため息を吐きつつ、ローズは拳を握り、サクラの頭にげんこつを落とした。ごちんという音ともにサクラの目の前には星が飛んだ。次いでひどい痛みが走っていく。思わず涙ぐんでしまう。


「な、なにするの、姐さん?」


「なにするのじゃない。まったくあんたは本当に変わらないんだから。どうせタマモちゃんだけがちやほやされているのに腹が立ったんでしょう? 自分が戦犯みたいな扱いをされているのにタマモちゃんは讃えられているのが嫌だったんでしょう?」


「な、なんで」


「バカタレ。あんたとは何年の付き合いだと思っているの? あんたの考えなんてわかるに決まっているでしょう? ねえ、リップ?」


「え──っ!?」


 ローズがリップを呼ぶ。と同時にまた星が飛んだ。それもローズのときよりも痛い。振り返ると実姉であるリップがニコニコと笑いながら、とても黒い笑みで笑っていた。


「あ、やばい」とサクラが思ったのと同時にリップの握り拳がサクラの頭上にと再び振るわれた。それも一度ではなく何度もである。ゴンゴンゴンとまるで鐘を叩くかのような音が響いていく。それも一発ごとに痛みが強くなっていく。つられるかのようにリップの笑みも黒くなっていく。


「まったくさぁ」


「ね、姉ちゃん、ちょっと待──っ!」


「あんたって子はさぁ」


「痛い! 痛いから──っ!」


「すぐに被害者ぶるけどさぁ」


「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! だから──っ! 」


「そういう! ふざけたことは! しないと! 思っていたんだけどさぁ!」


「あ、アタシが悪かったです! だ、だから──っ!」


「未遂とはいえ! 人様に迷惑を掛けることなんてしない! と思っていたんだけどさぁ!」


「こ、これには深いわけが──っ!」


「わけもなにもあるかぁぁぁぁぁーっ! この愚妹がぁぁぁぁぁーっ!」


「がふーっ!?」


 サクラの頭上にと渾身の一撃が、リップの怒りの一撃が降り注がれた。結果、サクラは甘酸っぱさなど欠片も存在しないファーストキスをすることになった。


 相手が誰なのかは言うまでもない。あえて言うとすれば土と埃の味がしたということくらいである。


(あぁ、やっぱり姉ちゃんが怒るとヤバい)


 痛む頭を擦りながらサクラはしみじみと姉であるリップを怒らすべきではない痛感したのだった。

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