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126話 約束を交わして

 本日二話目です。

 タマサク? サクタマ? なお話ですね←ヲイ

 静まり返った「闘技場」──。


 その「闘技場」の舞台上には一組のクランとひとりのプレイヤーが立っていた。


「第1回「武闘大会」のクラン部門の優勝は「三空」となります」


 流れてくるアナウンス。本来なら拍手が贈られることだろうが、舞台上にいる「三空」に対しての拍手はない。


 誰もが顔を反らしている。アオイを狩ると言ったクランはそれなりにはいたが、大会が進むにつれて、大言を吐けるクランはいなくなっていった。


 そして最終的に誰もアオイには勝てなかった。


 アオイだけでも強敵だというのに、「褐色の聖女」と謳われたアッシリア、最強の魔法系プレイヤーである「魔弾」のデューカスが彼女のクランにいた。


 ひとりひとりでも強敵であるのに、3人揃われたら勝ち目などない。


 PKKの選抜チームでさえ、「三空」には惨敗していた。


 逆に言えばPKKの選抜チームに圧勝できないかぎり、「三空」と戦う資格がないということになる。そしてそんなクランなど存在するわけもない。いわばクラン部門の試合は予定調和で終わったと言ってもいい。


 対して個人部門はというと──。


「個人部門の優勝プレイヤーは、テンゼン選手となります」


 ──優勝したのはテンゼンだった。


 テンゼンの試合は「フィオーレ」の試合を観戦していた3日目と4日目以外であれば、トータルで1分足らずで終了していた。3日目と4日目を含めると一時間くらいになるが、それでも十分すぎるほどに速かった。


 最終日の準決勝と決勝においてもテンゼンはそれぞれほんの一瞬で終わらせてしまった。


 最終日まで勝ち残ったプレイヤーであるから弱くはない。むしろ現時点で個人では最強の一角となるプレイヤーだけだった。


 だがその最強をテンゼンはあっさりと一蹴した。


 事実上、一対一ではテンゼンが現時点の「EKO」で最強という結果になった。


 そのテンゼンの名乗りが上がると、観客は「三空」のときとは違い、惜しみのない拍手が贈られた。


 あまりにもな差にアオイが少しだけ膨れっ面になり、そんなアオイをアッシリアとデューカスが必死に宥めるも、ほとんどのプレイヤーの視線はテンゼンにと注がれていた。


 その中には当然のようにタマモたちの拍手もあった。


 本当ならタマモはアオイたちにも拍手を贈るつもりだったが、予選のときの声援同様にヒナギクとレンに止められた。加えて今回は「ガルキーパー」、「フルメタルボディズ」、「紅華」の面々にも止められた。


 いま「三空」に拍手などしたら目をつけられると。


 もっとも誰にも止められなくてもタマモには拍手をする余裕などなかったわけなのだが。


「……サクラさん、大丈夫ですか?」


 現在タマモはサクラに抱きつかれていた。それも真っ正面から、タマモの水平な胸に顔を埋めている。


(ボクのお胸よりもローズさんのお胸の方がいいと思うんですけどねぇ)


 水平なタマモのよりも着痩せするタイプだったローズのものの方が安心感はあると思うタマモ。

 しかしサクラはなにも言わずにタマモの胸に顔を埋めたままである。


 これはいま始まったことではなく、5日目の「紅華」の敗戦からだった。


 敗戦した「紅華」がタマモたちが待つ観客席に姿を現すと、サクラは無言でタマモの胸にと顔を埋めたのだ。


 最初はいきなりだったため、慌ててしまったタマモだったが、サクラのただならぬ様子になにも言わずに頭を撫でた。するとサクラは静かに泣いたのだ。


 その日結局サクラはタマモの胸に顔を埋めたままだった。


 そして翌日からは顔を合わせるたびにタマモの胸に顔を埋めるようになった。最初のように泣き出しはしなかったが、時折体を震わせているのを見るかぎり、まだ立ち直れてはいないようだった。


 衝撃的な敗戦からまだ2日だった。それも敗戦の原因を作ったのが自身の暴走によるのだから、早々に立ち直れるわけがなかった。


 とはいえ、いつまでもこうしているわけにはいかない。


もう「武闘大会」は終わったのだ。閉会式が終われば、ここに集まったプレイヤーたちは参加地点にと戻ることになる。


 いつまでもこうしているわけにはいかない。いかないのだが──。


「……」


 サクラはなにも言わない。


 このことに関してはローズだけではなく、サクラの実姉であるリップも困りきっているようだった。


「サクラ、いい加減にタマモちゃんから離れなよ」


「……」


「サクラ!」


 リップが口調を強めるもサクラはタマモを放そうとしない。


 どうしたものかとタマモも困っていると──。


「──続いて新人賞の発表です。「フィオーレ」のマスター、タマモ選手」


「ほぇ?」


 ──いきなり呼び掛けられてしまった。顔を上げると同時にどこにあるのかスポットライトで照らされてしまう。


「タマモ選手、舞台上へお願いします」


 アナウンスに慌てて頷くもサクラは相変わらず抱きついたままだった。どうしたものかと思いつつも、サクラに声をかけるタマモ。しかしサクラは相変わらず黙ったままだった。


「……サクラさん、ちゃんと戻ってくるので、いまだけは離れていてください」


「……本当に? ひとりにしない?」


 サクラが顔を上げる。普段のサクラとはまるで別人であるかのように元気がなかった。


 タマモはできるだけ優しく笑って頷いた。


「はい。戻ってくるのです。約束なのです」


 タマモはサクラの前髪を掻き上げ、そっと額に口づけた。サクラは一瞬なにをされたのかわからなかったようだが、すぐに顔が真っ赤になった。それこそ「ボッ!」という擬音が聞こえてきそうなそどにあっという間にだった。


「……約束だからね?」


「はい、約束なのです」


 顔を真っ赤にしながらサクラは言う。タマモはしっかりと頷いた。タマモが頷いたことでサクラはようやくタマモを解放してくれた。


「それじゃ行ってきます」


 タマモはヒナギクとレンたちに一礼をしてから舞台上へと向かったのだった。

 タマちゃんはやっぱりわりとタラシでした←

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