19話 三称号
「いまのって、ワールドアナウンス、ですか?」
プレイヤーが特定の行動をした場合や秘匿されていたシステムが解禁された場合など、運営があらかじめ定めていた条件を満たした時に流れるもの。それがワールドアナウンスだった。
以前プレイしていたゲームでも時折あったが、ほぼ聞き流していたのでどういう内容だったのかはわからない。
しかし今回は明らかにタマモが発端だった。無視を決め込むことはできないし、そもそもなにが起こったのかさえもわからない。
「えっと、まずはメニューを開いて……これかな?」
一部のシステムが解禁されたというからには、メニュー内のTipsが更新されたはず。
するとTipsの欄には赤字で「New」と表示されていた。Tipsを開くと「三称号について」という見覚えのない項目があった。
「そういえば、さっきそんなことを言っていたような?」
アナウンスがある前に「クロウラーの理解者」という称号を得た。
称号は以前プレイしていたゲームにもあったが、タマモ自身は得ていなかった。
基本的になにかしらの行動をした場合に得られるもことが多く、ログインしても歩くだけだったタマモには称号というのは充実したゲームライフを行うプレイヤーのものというイメージがあった。
しかしそんな称号をなぜかクーにキャベベをあげただけで得られたのだ。
お世辞にも充実したゲームライフとは言えないプレイスタイルなのに、なぜ称号を得られたのだろうか。
タマモは答えを知るために「三称号について」の項目を読み進めていった。
「……うわぁ~、姐さんがキレそうな内容ですね」
懇意にさせてもらっている「通りすがりの紡績職人」こと姐さんにトドメを差しそうな内容だった。
「三称号」とは、タマモが得た「理解者」のほかに「反省者」、「敵対者」というふたつの称号との総称であり、それぞれの称号の前に対応するモンスターの種族名が入る。
タマモが得たのはクロウラーであるクーからの友好値が一定値を越えたためである。
「理解者」の称号は対応するモンスターの好物を一定数餌付けした場合に得られる。その対価兼友情の証として、そのモンスターが所持する生産アイテムをプレゼントされる。それも高品質のものを、だ。
つまりいくらクロウラーを狩っても高品質の絹糸など最初から得られなかったということ。
そして一度でもクロウラーからドロップという形で絹糸を手に入れた場合、「クロウラーの敵対者」という称号を得てしまう。
「敵対者」の称号は対応するモンスターから絶対的な敵と見なされてしまい、そのモンスターから襲撃を受けるようになり、手に入れられる生産アイテムは低品質のものみとなる。
ただし解除する方法もある。それが「反省者」の称号となる。
「反省者」は「敵対者」の称号を持つプレイヤーが、対応するモンスターに対して好物を討伐した数に一定数餌付けした場合に得られる称号。つまり禊を終えたプレイヤーの証だった。
そこから通常の好物を一定数餌付けすると「理解者」にと上書きされる。
しかし「理解者」の称号を得たからと言って、対応するモンスターを狩っていいわけではない。
「理解者」の称号があっても対応するモンスターの生産アイテムをドロップで入手した場合、「理解者」は「敵対者」にと上書きされてしまう。
そして「理解者」が「敵対者」になった場合も禊の方法は同じ。「反省者」と「敵対者」にもその法則は通じている。
「これは荒れそうですねぇ」
いまのところ、法則は理解した。そう理解しただけでも、不平等さは感じられた。
従来のゲームでは生産アイテムは対応するモンスターからのドロップというのは共通した認識だった。
なのにこのゲームでは、従来通りにプレイしたのであれば、バッド効果にしかならない。
システムを秘匿するというのはわかるにしても、あまりにも秘密主義すぎる。なんのヒントもなしにこれはさすがに問題が──。
「……ヒント?」
たしかにここまでノーヒントだった。けど本当にノーヒントなのだろうか?
いくら運営が鬼畜野郎共の集まりだったとしても、あまりにも問題がある。
だが、もし運営からすでにヒントを出されていたとしたら?その場合運営は言うだろう。「ヒントはすでに出していました」と。
いまのいままで運営がワールドアナウンスをしたことはなかったし、公式ホームページでもそんなお知らせはなかった。
しかし別の方法で運営がヒントをすでに出していたとしたら?
可能性があるのはひとつだけだった。
「ならうな、目指せ。でしたっけ」
それは「EKO」のキャッチコピーだった。
恐らくは誰もがなんのことだと思うことだろう。
タマモ自身意味がわからなかった。
しかし解禁された「三称号」から踏まえると、従来のシステムを完全否定するような内容はまさに「倣うな」なのである。
あのキャッチコピーは「ならうな」をひらがなにしていた。あえて「倣うな」ではなく、「ならうな」にしたのだろう。
「……わかり辛すぎませんかね」
さすがにキャッチコピーをヒントではわからないだろう。
その不満は爆発するかもしれないが、おそらくは救済処置はあるはずだ。
「もう少し読み進めてみますか」
タマモはクーを抱っこしながら、Tipsの続きを読み進めてって行った。
次回掲示板回です。明日の正午予定です。




