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117話 幼女怖い←

 遅くなりました。

 まさか、あんな簡単に寝落ちしてしまうとは←汗

 さて、今回はタマちゃん視点となります。

(間一髪なのですよ)


 タマモはほっと一息を吐きながら、目の前を見やる。そこには蛇が絡み付いた太刀を握るテンゼンがいた。


(……特訓を受けていたときには見なかった武器ですか。あれがデンゼンさんのEKなんでしょうね)


 タマモがテンゼンに特訓をしてもらっている際、テンゼンは店売りの刀を、ランクで言えば一番下であるCランクの刀を担いでいた。


 アルトで買える武器は大抵がCランクのものであり、ごく稀にUCのものが売られていることもある。が、テンゼンの刀は間違いなくCランクのものだった。本人もそう言っていたし、タマモ自身で「鑑定」させてもらって確認したのだから。


 だが、いまテンゼンの手にあるのは明らかにCランクの刀などではない。


 明らかに特殊な形状をしている。SRまでのEKは店売りの武器を強化したような性能になるようだが、SSRからのEKはそれぞれに特殊な形状となる。


 テンゼンの太刀は明らかに特殊な形状をしている。どう考えてもSSR以上であることは間違いない。

そしてその太刀をもはや戦意さえ失っている相手に振るおうとしていたテンゼン。残心だとしてもやりすぎだった。


「……なぜ止める?」


「言ったはずです。「もう十分なのです」と。これ以上はテンゼンさん自身が言われた「弱いもの苛め」になるのです」


「……途中から起きていたのかい?」


「寝ている隣であんな大声が聞こえてきたらそうなるのですよ」


 ちらりとタマモはガルドを見やる。タマモが目を覚ましたのは、ガルドの咆哮によってだ。


 なにせ「闘技場」が震えるような咆哮だった。


 そんな中でも眠れるほど、タマモの神経は図太いわけではなかった。


 そうして目を覚まして見たのは、熊と狼の合成獣のような見た目となったガルドが文字通りに舞台上に──それも個人部門の舞台上で30人はいたプレイヤーのうち、数名を文字通りに薙ぎ払う姿だった。


 やがてガルドはひとりのプレイヤーに対してオーバーキルとも言える一撃を、バルドの「天雷断」を進化させたような一撃を放っていた。


 タマモの目からしてもわざわざ放つような相手には見えなかった。


 ただ直前にガルドは言っていた。「「獣狩り」の全力を見せる」と。


 あれが誰に対しての言葉であるのかはタマモにはなんとなくだがわかった。


 普通に考えれば、あっさりと負けたことでガルドを甘く見ているだろう観客たちに対してだろうが、タマモにはガルドの言動はすべてタマモたち「フィオーレ」に向けてのものだとしか思えなかった。


「今回は負けたが、次もあっさりとは負けるとは思うなよ 」


 そんなガルドの声にならない言葉をタマモには聞こえたのだ。


 いや、ガルドだけじゃない。


 その後ろにいたバルドもそうだった。「次は勝つ」という目を向けていた。ローズはいくらか余裕はあるようだったが、「次も勝つからね」と言っているように思えた。


 掲示板を見るかぎり、ガルドたちはベータテスターでもトップに位置するプレイヤーたちだった。


 そのトップにライバル視されているというのは畏れ多くもあるが、それ以上に光栄なことだった。


 だが、その光栄な出来事よりもテンゼンの凶行を止めることが優先された。


 もっともテンゼンにとってもしたくてしているわけではないようだった。


 ただその内容はタマモが思っているものとは異なり、打ち据えるほどの価値もないというもの。


(テンゼンさんらしいですねぇ)


 テンゼンの口上を聞いてしみじみとタマモは思った。


 テンゼンはどうにもヤンデルの性質がありそうだなと思わずにはいられないタマモだった。


 もっともヤンデルであろうとなかろうとその凶行を止めずにはいられなかった。


「絶対防御」でテンゼンの一撃を受け止めるも、その一撃は想像以上に重かった。


 逆に言えばそれほどの一撃を相手のプレイヤーに放とうとしていたということである。


(容赦なさすぎなのですよ)


 あまりの容赦のなさに若干呆れるタマモだったが、とにかくテンゼンを落ち着かせなければならなかった。


「テンゼンさんがボクのために怒ってくれたことは嬉しいのです。でもあなたは弱いもの苛めなんてする人じゃありません。だからもう許してあげてほしいのです」


「……だが」


「だがもなにもないのです!」


「しかし」


「しかしもありません!」


「むぅ。頑固だな」


「テンゼンさんにだけは言われたくないのですよ!」


 むふーと鼻息を荒くしてタマモは言う。その一言に困ったように頬を掻き始めるテンゼン。


 そんなふたりの姿を見て、「新手のイチャコラか、これ?」と思うプレイヤーがそれなりの数がいた。


 中には「だ、大天使を口説くんじゃねぇぇぇ!」と叫ぶ某ファーマーや「あやつめぇぇぇぇぇ!」とやはり部下総勢で押さえ込まれている「姫」がいたそうだが、それらはタマモとテンゼンの知らぬことであった。


「とにかくなのです。もうこれで終わりにしてほしいのです!」 


「……わかったよ。ただそいつは性懲りもなくやらかしそうだけど」 


「あぁ、それなら問題ないのです」


「うん?」


 タマモの言葉にテンゼンが首をかしげた。同時にタマモの「三尾」が状況を見守っていたロジャーにと「尻尾破砕突き」を放っていた。


 思わぬ光景にほぼすべてのプレイヤーが「え?」と唖然となったが、タマモはニコニコと笑って言った。


 ロジャーの悲鳴が会場内で響いていく。その悲鳴に誰もが言葉を失った。誰が悲鳴以上に言葉を失った原因がなんなのかは言うまでもない。


「きちんと「オシオキ」はしますから」


 にっこりと笑いつつ、躊躇いのない一撃を放ったタマモ。言動がおかしいと言いたいところだが、あまりの清々しい表情に誰もなにも言えなかった。


 ただ「あぁ、幼女って怖いなぁ」と誰かが呟いた声だけが響いていた。


 ちなみにロジャーはタマモの「尻尾破砕突き」を直撃し、死亡判定を受けたのは言うまでもない。


 こうして思わぬ展開となった個人部門第17試合は終了したのだった。

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