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112話 蹂躙~悪夢~

 すいません。だいぶ遅れました。

 

 悪夢。


 そう、これは悪夢だと、テンゼンに罵声を浴びせていた剣士──ロジャーは思った。


「行け! 押し潰せ!」


 仲間のひとりが叫ぶ。その声に合わせてほかの数人の仲間が「頑強なる」バルドに攻撃していた。


 しかしバルドはその攻撃をたやすく受け止めていた。一応ダメージはあるようだが、大したダメージにはなっていないようだった。


 むしろ「なにかしたのか」という顔で仲間を見つめていた。その視線には半分ほど呆れの色が見えていた。


「よし、いける! 攻撃が入っているぞ!」


 だが、仲間たちはそのことには気づいてない。


 それどころか、攻撃が入っていることにぬか喜びしているかのようである。それはまるでもう少しで倒せると思っているかのようであり、端から見ると滑稽を通り越してもはや哀れだ。


 ただ、哀れと思っているのはおそらくは自分だけだろうとロジャーは思った。相対しているバルドにとっては鬱陶しいとしか思われていないことは間違いない。その証拠にバルドはその手にある斧を高々に掲げ──。


「天・雷・断!」


 ──苛立ち混じりに斧を舞台にと振り下ろした。振り下ろされた斧は、舞台を噛み砕き、その余波にバルドに群がっていた仲間たちは例外なく巻き込まれて次々に死亡判定を受け、舞台上から姿を消した。


「……口先だけの奴らなんざ、こんなもんか」


 ふんとバルドは吐き捨てるように言った。


 物理攻撃ではバルドにはまともにダメージを与えられないようだ。


 だが魔法であれば、ある程度の効き目はある。だが、その魔法を使うはずの後衛たちからはなんのアクションもない。攻撃魔法どころか、補助魔法さえなかった。


 だが、彼ら彼女らはサボっているわけではない。


 単純に魔法を放てる余裕がないのだ。


「う、うおりゃぁぁぁーっ!」


 魔導師のひとりが叫びながら得物である杖を握り締めて攻撃を仕掛けていた。


 彼が攻撃を仕掛けている相手は、魔導師たちが仕事をできなくされている原因だった。


 その原因はその真っ赤な髪を翻しながらその行動を嘲笑っていた。


「後衛が前衛の真似ごと?ん~、笑えないなぁ」


 若干呆れた様子でローズは言いながら、突っ込んできた魔導師の攻撃を避けて首筋を切った。


 血の代わりの赤いエフェクトが宙を舞う。その血をぼんやりとした表情で眺めるようにしてその魔導師はあっさりと死亡判定を受けた。


「前衛と同じ仕事をするのであれば、ヒナギクちゃんレベルに鍛えてきな」


 死亡した魔導師を見ずに、ローズは他の魔導師たちを追い込んでいた。


 そう、彼らの仕事を阻害していたのは、他ならぬローズだった。


 タマモとの試合も終わり、「朦朧」の効果も抜けきったローズにとって魔導師たちを、それも浮き足たった魔導師たちの集団に切り込むなどたやすいことだった。


 ローズが切り込むまでに魔導師たちがそれぞれの詠唱を行っていれば、ローズ自身の速さと詠唱の早さによる勝負ということになったかもしれない。


 しかし魔導師たちは侮っていた。しょせん相手は初期組に苦戦を強いられていた相手だと。名ばかりのトッププレイヤーだとそう思い込んでしまった。そのツケを彼らは超高速で払うことになった。


「ダメじゃん。魔導師が詠唱もせずにのんびりなんてしていちゃ」


 ローズが言い放つと同時に魔導師たちの数人は死亡判定を受けた。


 ローズがしたのは左右の双剣を数回振るったというだけ。


 だが、たったそれだけで魔導師たちは死亡したのだ。


 ローズはすれ違い様に首筋を切っただけだった。ただし相手が視認できないほどの速さでだったが。


 それをなしたのは圧倒的な速度と驚異的なプレイヤースキル。そしてローズの最大の武器である判断力によるもの。


 それら3つの武器を最大限に使ってローズは、魔導師たちを事実上の無効化に成功した。


 遠距離からの魔法を使うのが主である彼らにとって懐に入られるというのはいままで経験したことのないものだった。


 というよりも、懐に入られるような相手と出会ったことがなかった。


 ベータテスターとはいえ、誰しも海千山千の猛者というわけではない。

 むしろその手の猛者はごく一部だった。


 ロジャーを含めたロジャー側のベータテスターたちはごく一部ではなく、バルドやローズはそのごく一部に入るというだけのこと。


 たったそれだけの違いが絶望的な差としてロジャーたちに襲い掛かっていた。


 だが、バルドやローズと相対しているプレイヤーはまだ運がよかった。


 バルドやローズはごく一部のプレイヤーではある。


 しかしふたりを超越したプレイヤーがまだ残っていたのだ。それもふたりも、だ。


「ガルドさん、だったかな?」


「なんだい、姉さん?」


 バルドとローズが大半を相手している中、残りはロジャーとその取り巻きの数人だけである。


 人数は少ないが、ロジャー側のプレイヤーたちにとっては、切り札のようなプレイヤーたちだった。


 蹂躙される仲間を見つめながらも、その目はしっかりとガルドとテンゼンに向いていた。


「あ、あいつらを倒せぇぇぇぇ! あいつらだけでも倒すんだぁぁぁぁ!」


 ロジャーは叫んだ。


 その叫びに呼応して取り巻きたちが雄叫びを上げた。


 だが、その雄叫びを掻き消すような獣の咆哮が不意に響き渡った。それが本当の蹂躙の始まりの合図だった。

 咆哮を上げたのは誰でしょうね。

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