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107話 最後の勝負

 ローズが放った特別スキル「流華双螺旋」──。


 白と黒の双剣の切っ先を向けて、螺旋状に回転しながらまっすぐに駆け抜けて来る様は、まるで一条の流星のようであり、同時にローズらしい華やかなスキルだった。


(特別スキルと打ち合うのは初めてですね)


 ローズの「流華双螺旋」とぶつかり合いながら、タマモが何気なく思ったのは、特別スキルと初めて合ったなということだった。


 ベータテスターが持つ固有のスキル群。それが特別スキルと言われるものだった。


 その効果はそれぞれのスキルによるが、通常スキルよりもはるかに強力であることが多い。


 ゆえに特別スキルと対抗するには、同じ特別スキルか、それ以上のスキルが必須となる。


 本戦1回戦でタマモはバルドの持つ「天雷断」を打ち破ったが、それは「絶対防御」があったからこそである。


「絶対防御」はベータテスト半ばに導入された対「急所突き」スキルであり、そのランクは特別スキルと勝るとも劣らないエクストラスキルだった。


 ゆえにバルドの「天雷断」を受けきることができた。


 だが、いまタマモが使った「尻尾破砕突き」の攻撃力は高いものの、通常スキルである「尻尾操作」から得た「武術」だった。


 スキルのランクで言えば、「流華双螺旋」には遠く及ばない。


 しかしタマモの「三尾」のステータスはローズをはるかに凌駕していた。


「朦朧」状態であれば、なおさら「三尾」には遠く及ばない。


 スキルのランクではタマモはローズには勝てない。


 しかしローズはタマモの「三尾」のステータスには敵わない。


 言葉の上ではふたりの対峙は互角だった。


 白と黒の螺旋と金色の螺旋。ふたつの螺旋はちょうどタマモとローズの中間地点でぶつかり合った。


 タマモもローズも一歩も退く気はない。


 ただ目の前にいる相手を打ち倒さんという意思を以て、それぞれの最高の一撃を放っていた。


 螺旋のぶつかり合いは、拮抗していた。しかしその拮抗は呆気なく崩れた。


「っ!」


 金色の螺旋──タマモの「尻尾破砕突き」が押され始めたのだ。


 きっかけは簡単なことだった。そう、とても単純な理由。


 タマモのスタミナが切れたのだ。


 結果踏ん張りが利かなくなり、タマモの体は徐々に押し込まれていく。


「おおーっと! タマモ選手が徐々に押され始めているぅぅぅ! やはり特別スキルの威力は凄まじいかぁぁぁ!」


 やや鬱陶しい実況の声。普段であれば、反論のひとつやふたつは思い浮かぶのだが、今回ばかりは反論をしていられる余裕はなかった。


(時間切れ、ですかねぇ)


 テンゼンとの特訓でもともと疲労困憊だったところに、ローズの策で体力を削られた。


 その後ゼロ距離でのシールドバッシュでカウンターを取り、そのままラッシュを掛けた。


 だが、そのラッシュでより体力を削ってしまった。


 結果最終局面でスタミナ切れとなってしまった。


 タマモはすでに肩を大きく動かして呼吸するので精いっぱいであり、「尻尾破砕突き」も「三尾」があるからこそ放てたというのにすぎない。


 そしてその「三尾」は攻撃にすべてを傾けている。


 すべてを傾けてもなお互角だった。


 そう互角であったがゆえにタマモは押し込まれてしまった。


 もし、一本でも錨のように地面に打ち込めれていれば、押し込まれることはなかった。


 しかし三本の尻尾を攻撃に回してようやく互角であるため、当然錨を打ち込むことはできていない。


 踏ん張りはすべてタマモ自身の力で行うしかないのだ。


 だが、そのための力はもうタマモには残っていなかった。


「タマモ選手、どんどんと押し込まれていきます! これはもう決まってしまうのかぁぁぁーっ!?」


 実況の声がただただうるさかった。だが、文句を言う力さえタマモには残っていなかった。心なしか、「三尾」の毛艶が褪せたように思える。


(これ以上は、もうっ)


 諦めたくない。負けたくない。そう思っても体はもう限界だった。


 最後の最後まで諦めたくないのに。諦めるわけにはいかないのに。体が着いて行かない。心は屈していないのに、体は屈してしまっていた。


 すでに場外まであとわずか。足の裏の半分はすでに場外から飛び出していた。あと少しでも押し込まれればそれで終わる。かと言ってここから反撃の手段はもうない。


「タマモ選手、絶対絶めぇぇぇぇい! 反撃の手段は残されているかぁぁぁーっ!?」


 あるわけないだろう。そう言いたくなるタマモだった。


 だが、反論するよりも早く、足の裏はついに半分以上場外を超えて、タマモの姿勢が一気に崩れ、後ろへと倒れ込んでいく。ローズの「流華双螺旋」の回転が治まっていく。


「タマモ選手、場外ぃぃぃ! これで勝負は──え?」


 実況が不意に固まった。それもそのはず。タマモは最後の勝負に出たのだ。それは──。


「た、タマモ選手の尻尾がローズ選手を捕獲したぁぁぁぁ!? なにが起こっているんだぁぁぁ!?」


 ──ローズとどっちが早く地面に触れるかどうかと言う勝負である。


 ローズは勝利を確信し、「流華双螺旋」を止めてしまった。


 同時にタマモは「三尾」でローズを捕獲し、そのまま場外にと引きずり込んだのだ。


「う、嘘でしょう!?」


 ローズが動揺していた。だが、すでにローズの体はタマモ同様に場外へと落ちている。


 ここから先はタマモが先か、ローズが先かの勝負だった。タマモはにやりと笑って言った。


「さぁ、最後の勝負なのですよ、ローズさん」


「あ、あははは、タマモちゃん。君って子は最高だね」


 ローズが笑う。その笑顔を眺めながらタマモは迫るそのときを待ち続けた。そしてタマモとローズはほぼ同時に地面に体を強かに打ち付けたのだった。

 次回決着です。

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