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105話 奥の手

大変遅くなりました。

帰宅中に更新しているため、体裁が狂っていますので、ご了承ください。

アッシリア視点です。

少し前までとは真逆の展開だった。


「タマモ選手、怒濤のラァァッシューっ!ローズ選手に反撃を許さなぁぁぁーいっ!」


大いに興奮した実況の言うとおり、タマモはおたまとフライパンを交互にかつ上下に打ち分けながらローズを攻め立てていた。


ローズは苦悶の表情を浮かべながらも必死に耐えているようだった。


「ローズ選手耐える!耐える!耐えるぅぅぅーっ!普段のローズ選手では考えられない光景ですが、それでもなお耐え続けるぅぅぅーっ!なにがそれほどに彼女を耐えさせるのでしょうかぁぁぁーっ!」


タマモの次はローズへの実況だった。見たままの藻のではあるが、その実況に客からの声援も大きくなっていく。声援の内容はローズとタマモそれぞれに送られていた。


「耐えてくれぇぇぇっ!」


「決めろぉぉぉーっ!」


「タマモちゃーん!」


「ローズお姉さまぁぁぁーっ!」


手作り感満載の半券のようなものを握りしめ、目を血走らせて叫ぶプレイヤーもいれば、どうやって入手したのかは定かではないが、赤と金の二色のプラカードを、「タマモちゃん」と「ローズお姉さま」と書かれた特製のプラカードを掲げて応援するプレイヤーもいる。


まさに十人十色な声援を舞台上にいるタマモとローズの双方へと注がれていく。


ここで決めようとしているのか、防御の上からでもお構いなしに攻撃を放ち続けるタマモと必死に耐え続けながら、なにかを待っているかのようなローズ。対照的な様相を見せ合うふたりではあるが、ともにまだ切り札を見せてはいない。


いまはまさに勝負どころではあるが、決着の瞬間をお互いにはかっているのか、どちらも切り札を出そうとはしていない。


お互いの切り札を出した瞬間が、この試合の決着となるというのはほとんどのプレイヤーは感じ取っていた。


タマモの攻撃力とローズの防御力は、現状においては互角だった。


一発一発の攻撃は大したことはないものの、上下または左右に攻撃を散らせながら二刀流特有の手数を持ってラッシュをかけていくタマモ。


対して本来であれば、十分に防御できるはずだが、「朦朧」の効果に加え、位置を散らせて攻撃するタマモのラッシュに時折対処できずに直撃を受けつつも必死に耐え続けていくローズ。


攻撃力と防御力。


「朦朧」の効果があってこそ成立し、かつ拮抗した展開。


勝負を決めようと攻め続けるタマモと勝つために耐え続けていくローズ。


同じ二刀流であるものの、初期組とベータテスター。最弱と最強の一角。そのあり方がまるで違うふたり。


そんなふたりだからこそ、その試合は自然と白熱していった。


「ふむ。なかなかよな」


白熱する試合を見て、いくらか興奮している面持ちのアオイ。


そんなアオイを横目で眺めつつ、アッシリアは舞台を見つめていた。


「ええ。タマモさんはステータスがあまり高くないようだけど、相手を「朦朧」にさせて戦うというのが基本戦術のようね。対して「赤き旋風」の方は本来の戦闘スタイルになれていないようだけど、それでも経験とステータスの差で踏ん張っているというところね」


「うむ。五分五分というところかの?もっとも、「赤き旋風」が虎の子を出すまではの話じゃがな」


「虎の子?」


アオイはローズに虎の子──つまりは奥の手があると断じていた。


しかしその根拠はなんだろうか。


アオイを以てしても、ローズの奥の手と言わしめるものとはなんなのか。


「うむ。正式リリースした際、わずかな時間だけじゃが、「赤き旋風」と戦ったことがあってのぅ」


「え、初耳なんだけど?」


「言うておらんかったからなぁ。まぁ、そなたと決着を着ける少し前でな。我も時間がなかったが、あやつも時間がなかったようでな。とりあえず、やつのEKを損傷させてもらったのじゃよ」


「……相変わらずめちゃくちゃね」


アオイの言葉にアッシリアは呆れた。


NPCの店売りやプレイヤーメイドの武器であれば、破壊することは可能である。


しかしEKは通常では破壊できない。というよりも破壊する方法がないのだ。


通常の武器であれば耐久値があり、耐久値がゼロになれば壊れてしまう。


だが、EKにはその耐久値がないため、破壊されることはない。


だが、破壊されることはなくても、使用できなくなることはある。


それが第2段階から解禁される「損傷率」だ。


耐久値と同じく「損傷率」も0から100までの数値がある。


ただ耐久値とは違うのは、耐久値は100%からのスタートであるが、「損傷率」は0%からのスタートとなり、「損傷率」が100%に達すると一時的にEKが使用できなくなる。


「損傷率」の変動はランクによって変わってくるものの、アオイの口振りからして当日ローズが使っていたのはベータテスター専用のBTランクだろう。


BTランクは最初から第2段階相当の能力がある。当然最初から「損傷率」も解禁されている。


その分通常のランク分けであれば、SR相当のBTは通常のSRに比べるとややピーキーな性能ではあるか、第1段階のSSRとなら引けを取らないほどの高性能である。言うなればSR+というところか。


そのBTランクを使用不可にした。同じSRやその下のRランクであれば、逆に使用不可にまで持っていけるだろう。


だが、あいにくURランクであるアオイのEKを相手では、たとえ第2段階相当であろうとも、アオイのEKを使用不可にはできなかった。


逆に使用不可にさせられてしまったのだろう。


EKはランクの差の上下によって大きく使用法が異なる。


最低ランクのコモンがRランクと打ち合えば、早々に「損傷率」が100に達してしまう。


ランクの差は「位階」とも呼ばれており、最低位階であるコモンはもっとも脆く、最高位階であるURはもっとも硬い。


URになると、どの位階のEKお打ち合っても損傷率はほとんど上昇しない。逆にコモンランクのEKがURと打ち合えば、一合も持たずに損傷率は100%に到達する。


ローズのBTランクならば、通常のSRよりかは保っただろう。


しかし保ったところでURの前ではいつまでも耐えられるわけがない。


ゆえに損傷率が100に達してしまい、ローズのBTランクは使用できなくなった。普通であれば、そこで終わりだろう。EKが使えなくなれば、もう勝ち目などないのだ。


しかしローズはそこで終わらなかった。


「その後あやつはBTランクの、いまあやつが使っているEKを地面に放り投げた。それからインベントリから奥の手を取り出しおったが、そこで時間切れでの。結局打ち合えんかったが、あのときに取り出した虎の子──もう一組のEKこそがやつの切り札であったのは明確じゃな」


「もう一組ということは」


「うむ。初期部屋であやつは手に入れたのであろうよ。BTランクを越えたEK。つまり最低でもSSRないしはURのEKを、な。そしてSSRとなれば、タマモの持つEKともいまのBTよりかはましに打ち合えるであろう。URであれば、EKのランクならば完全に互角となるであろう。現時点ですでに互角なのだ。位階の差が縮まるのであれば、もはや決まりじゃろう。つまりそれまでに勝負を決められればタマモの勝ち。逆に──」


「取り出されたら負け、というところ?」


「うむ。我はそう見る」


アオイははっきりと言い切った。


普段はタマモ、タマモとうるさいくせに、こういうときははっきりと言い切れるところはアッシリアにはよくわからないが、実にアオイらしいと思った。


「しかしタマモは実によい。実に強いの。ふふふ、弱者であっても十分に愛らしいが、強者であればなおさらじゃな」


アオイは笑った。口元を大きく歪めて、唇をちろりと舐めとる姿からは本当に笑っているとは思えなかった。


獰猛な獣のように思えてならない。


「ふふふ、ぜひ勝ち残ってほしいのぉ。我の手で直々にタマモを。ふふふ」


アオイはそう言って舞台上を見やる。舞台上を見やる目は、どこまでも冷たい光を宿していた。


(……勝たないで。そこで負けてまりも)


本来なら応援するべきだろうが、幼なじみで親友としてはここで負けてほしい。少なくともアオイと当たる可能性は避けてほしいとアッシリアは思わずにはいられなかった。


しかしそんなアッシリアの願いとは裏腹にタマモとローズの試合はより熱を帯びていく。


熱を帯びる試合をアッシリアはただ見つめていることしかできなかった。

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