100話 一騎討ち
昨日はすみませんでした。気づいたら寝落ちしていまして←汗
そして今日は職場で更新しようとしたら、まさか繋がらないというね←汗
いい加減Wi-Fi入れてくれ←汗
さて、今回は試合開始、というところまでです。試合は次回にてとなります。
あとスマホで更新しているため、体裁が狂っていると思いますので、ご了承ください。
舞台袖から、舞台に移動すると、観客席は満席になっていた。
誰もが次の試合を楽しみにしているのか、まだ試合が始まってもいないのに関わらず、すでに歓声で沸いていた。
午後の部──本戦2回戦から導入された、個人部門とクラン部門双方で、午前と午後のそれぞれに16試合ずつに分けられたことになった計32試合。そのうちの17試合目が「フィオーレ」と「紅華」の試合だった。
「紅華」は「紅き旋風」の異名を持つローズが率いる女性だけのクランであるからして、それなりの人気を誇っていた。
おそらくはこの歓声は「紅華」たちに向けられたものなのだろうとタマモは思っていた。
だが、事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものであり、この歓声が向けられているのはタマモの予想をいい意味で裏切るものだった。
「今日も頼むぞー、「フィオーレ」!」
「レンさーん!」
「ヒナギク様ぁ!」
「タマモちゃーん!」
聞こえてきた歓声の内容は「フィオーレ」の応援だった。それもひとりやふたりという数ではなく、それこそ無数に聞こえてくる。
「なんで、ボクたちに?」
タマモは理解できなかった。「フィオーレ」は「武闘大会」に出るまで、無名のクランだった。その「フィオーレ」にここまでの声援が贈られるとは考えてもいなかった。
「そりゃあ、そうでしょう? 口さがない連中は「運がいいだけ」とか抜かしているけれど、君たち「フィオーレ」の実力はほとんどの人は認めているのだからね」
「ローズ、さん」
不意に聞こえてきた声の方へと顔を向けるとそこにはにこやかに笑うローズが立っていた。いつのまにか、サクラたちもすでに舞台に上がっていた。同時に実況が響き渡った。
「さぁ、「武闘大会」四日目午後の部がいよいよ開催だぁぁぁぁ!」
実況が叫ぶと歓声は一段と大きなものになった。その声に呼応するかのように実況の声も一段と大きなものに変わった。
「午後の部最初の試合は、流星のごとく現れた「フィオーレ」と「紅き旋風」ことローズ選手が率いる「紅華」の試合です!」
昨日よりも実況には力が入っているようだった。
もっとも無理もないことではある。なにせこれから行われる試合はクラン部門の名を借りた決闘なのだから。
「この第17試合は両クランの同意により、特別ルールで行われることが決まっております!その特別ルールとは、マスター同士での一騎討ち。つまりは決闘です!」
実況の一言により観客席からの声が大きくなった。
観客もクラン部門でまさか一騎討ちがまた見られるとは考えてもいなかったようだった。観客たちの興奮度合いは一気に上がっていく。
「え、一騎討ちって、どういうこと?」
だが観客たちとは裏腹にレンは困惑の色を隠せないでいるようだった。
だが、タマモは答えることなく、舞台の中央へと向かった。
「タマちゃん、待ってくれよ!」
レンが叫ぶもタマモは足を止めなかった。ローズも同じく中央へと向かっていた。
「タマちゃん!」
レンが叫びながら向かってこようとしていた。振り返らずともタマモにはわかった。そしてレンに止められることがないこともまた。レンの足音と同時にもうひとつの足音が聞こえていたからだった。
「落ち着いてレン」
「ヒナギクっ!?」
追いすがろうとするレンをヒナギクが止めた。音から判断するに羽交い締めをしているようだった。
普段のレンであれば、対抗できなくもないのだろうが、いまのレンにはヒナギクの拘束から逃れる手段はない。
引きずる音を立てながらヒナギクたちが舞台から降りていく。
タマモはなにも言わずに、その音だけを聞いていた。わずかな胸に痛みはあれど、タマモにはもう迷いはない。
「改めて選手紹介です。クラン「紅華」を率いる「紅き旋風」ことローズ選手。その美貌もさることながら、「紅き旋風」の字に聞き覚えがある方は多いと思います! そう、彼女はベータテスターのひとりにして、先日タマモ選手に敗れた「獣狩り」のガルド、「頑強なる」バルドの両選手の盟友であり、ベータテスト時において、もっとも素早き者に与えられし称号「旋風」を得た、まさに最強の一角なのです!」
実況の説明に観客からの声援はより大きなものになっていく。
ローズも有名プレイヤーであることはわかっていたが、まさかそこまで有名だとは思っていなかったタマモにとってはその内容は驚きそのものである。
しかしタマモの内心を無視するようにして実況の説明は続く。
「その戦闘スタイルはまさに疾風怒濤! 圧倒的な速度により、相対する者を殲滅する姿から「紅き旋風」と呼ばれるようになったのです!その双剣は今宵も血に餓えているぅぅぅ!」
「いや、虎徹じゃないし。そもそも昼だからね?」
ローズが実況に突っ込むも、実況にはその声は届かない。
「対するは愛くるしい姿に悶える紳士淑女が続出! この人がまさかのマスターだった!
きれいな花には刺があるように、愛くるしい彼女には獰猛な尻尾がある! さぁ、今日も奇蹟を呼ぶか! 彗星の如く現れた「フィオーレ」のマスター! 誰が呼んだか!
「奇蹟を呼ぶ尻尾」「萌えよ尻尾」、「けも耳炉痢」ことタマモ選手だぁぁぁーっ!」
ローズの紹介の後に聞こえてきたのは順番通りとも言えるタマモの紹介だったのだが、その内容は突っ込みどころが満載であった。
「なんですか、その異名は」
ずいぶんと頭が痛くなる異名ではあるのだが、なんとなく広まっていそうで怖いと思えてならないタマモである。しかしやはりタマモの声は実況には届かない。
「予選2回戦、本戦1回戦と連続でベータテスターを打ち倒した実力は、まさに初期組の星! これまでノーマークだったのが不思議でなりません! そしてこれは一部の方々はご存知でしょうが、彼女こそが「3称号」を解放したプレイヤーこと生産板のアイドル「通りすがりの狐」なのです!」
実況の言葉に観客からどよめきがあがった。タマモ的には「わざわざ言わなくてもいいのですよ!」と叫びたい気分である。
しかし実況は止まらない。中央に至るまでタマモにとっての居たたまれない時間は続いた。
やがて中央に至ると、すでにローズが立っていた。ローズの目はとても真剣だった。
「……まさか、タマモちゃんと一騎討ちになるとは思っていなかったよ」
「ボクもです」
「……一騎討ちを提案したのは、レンくんのことを考えてだよね?」
「はい。受けていただきありがとうございます」
「いやいや、私らの方がメリットが大きいからだよ。別に君たちの事情を察したわけでは──」
「あれ? 「まともに戦えるのはタマモちゃんだけだろうし、4対1で戦うよりもタイマンの方が正々堂々でいいよね」って言ってなかったっけ、姐さん?」
澄まし顔で自分たちのメリットが大きいからと言っていたローズだったが、舞台を降りたサクラが不思議そうに首を傾げて口にした一言により、澄まし顔のまま顔を赤く染めていく。
「さーくーらー! 余計なことを言わないの!」
耐えきれなくなったのか、ローズがサクラに向かって威嚇した。威嚇したサクラの顔はタマモには見えなかったが、サクラが「ひぅっ!」と怯えたことでだいたい理解できた。
「……ローズさんたちは仲がいいですね」
「……そういうタマモちゃんたちも仲がいいと思うよ?少なくとも仲間のために身を呈するなんて私にはできないし」
「だけど、守られるんですよね?」
「うん。私は守るよ。守ると決めているからね」
ローズはゆっくりと双剣を抜くとそれぞれを逆手に持って構えた。その目はやはり真剣だった。
「ボクも守りたいです。でもいまのボクは守ってもらうことしかできません。だけど、その身を守れなくても、その心はきっと守れると思います」
タマモはおたまとフライパンを構えた。その構えはおたまを前に突き出し、フライパンを頭上に掲げるようにしたものだった。
「へぇ、タマモちゃんも二刀流なんだ?」
「奇遇ですね」
「たしかにね。でも初期組の君が私に勝てるかな?」
ローズは笑っていた。その笑みは獰猛な獣のようだ。
しかし獰猛な獣を前にしてもタマモに恐怖はなかった。
手足はかすかに震えている。がそれは恐怖ゆえのものではない。逸る気持ちを押さえきれないがゆえのもの。武者震いと言われるもの。
そのことをローズは理解しているようだった。赤い唇を舐め回して、いかにも楽しげな雰囲気だった。
「……正直な話、勝てるかはわかりません。だけど」
「だけど?」
「そう簡単にボクを負けさせることはできませんよ? 追い詰められた狐は凶暴なのですから」
にやりとタマモは笑った。その笑顔にローズはおかしそうに笑った。笑いながら言った。
「いいねぇ。その自信を粉々に打ち砕いてあげるよ、お嬢ちゃん」
「やってみろなのです」
「そう、じゃあ、やろうか」
「はい!」
タマモが頷くと同時に、実況が再び叫んだ。
「さぁ、両者準備がすんだ模様です! それでは、クラン部門第17試合開始です!」
実況の声とともにタマモもローズも同時に踏み込んだ。こうして本戦2回戦第17試合の幕は切って落とされたのだった。




